追跡開始
待て待て、と追うが、スピードが違い過ぎる。
訓練として毎日10キロ走っているが、まったく問題にならなかった。
娘に完璧に負けるのはどうかと思うが、すぐになんとかなるものではないから今後の課題にしておこう――遺伝子を改編されている個体と競ったところで勝てる見込みはないのだが。
しかし……これで成功とはみなされずに処分って、本当ならどれほどの性能になるはずだったのだろう?
まあ、失敗と判断されたおかげで飼育委員会に払い出されたわけだから、別に文句を言うつもりはないが。
「ミミィ、走るの禁止。歩け!」
そう言うとミミィは両手を伸ばしたまま前後に大きく振って、まるで行進でもしているかのように歩き出す――ように見せかけて、競歩でもやっているかのように早足で歩いた。
なんとか僕の走るペースと一致する。
「はっけん、いくよ!」
そのあと大通りに出ると、またしてもミミィがいきなり走り出す。
いままでだって充分に速いと思っていたが、ギアが2つ3つ上がったかのようだ。
なにかがミミィの興味を惹いたという可能性もゼロとはいわないが、また臭跡を発見、
追跡を開始したのだろう。
いままで手配犯の捕縛をやってて、不満どころか、かなり楽しんでいるようだから、簡単に別のものに夢中になったりはしないだろう。
僕も追いつけないながらも必死で走る。
どうやらミミィはモペットを追跡しているようだ。
いちおうバイクとかスクーターといっても間違ってはいないだろうが、自転車に2KWのモーターが内蔵されたような乗り物だった。
最高で4、50キロくらいは出るだろうか。
いかにも原動機付き自転車という名称がぴったりだが、狭い戦艦島での手頃な足としてかなり重宝する乗り物らしい――ちょうど僕も今日ルイに乗りかたを学んだところだ。
まあ、自転車に乗れるなら誰でも3秒で乗れるようになれるが。
スピード的には1キロもいかないうちにミミィが追くだろうが、念のため先まわりしておく。
もちろん、身体を先まわりすることはできないが、視点を先まわりさせることは簡単だ。
飛行船に設置された防犯カメラからの俯瞰風景を中心に、モペットの進行方向にある街中の防犯カメラの画像を次々に頭の中に表示していく。
どうもモペットは前を走る自動車を追っているようにも見えた。
07式小型トラックという名称だが、昔のジープを現代風に発展させたような車両で、戦艦島では結構よく見るタイプだ……しかし、八島警備保障のパトカーなら車体は紺色で屋根に赤色灯がついている。
同じようにタクシーなら車体は黄色で屋根には行灯がついているはずなのに、問題の07式は緑色という戦艦島でよくあるタイプの車両だ。どこかの戦地で使われて、耐用年数が切れた車両だろう。
戦場で酷使するのは無理でも、ただの足として舗装道路をゆっくり走るだけなら問題ないから、この手の払い下ろし車両は結構ある。
「ミミィ、止まれ。まだ捕まえたら駄目だ」
その直後に靴底が焦げるほどの急制動。不審な目を僕のほうに向けた。
「行き先を知りたい。捕縛じゃなくて追跡尾行で。いいと言うまで捕まえるの禁止」
「らじゃ」
ミミィは全力ダッシュで僕の目の前から消えた。
テレポートでも使えるのかという高速移動。
捕まえるの禁止ということを理解すると、その前に覚えたはずの走るの禁止のほうは忘れてしまったらしい。
まあ、僕は自分のペースでいくだけだ。
ミミィが追尾しているのなら見失うことはないだろうし、見失ったとしても臭跡で追えるし、僕のほうも飛行船と防犯カメラの画像を脳内で並べていって、いつ、どこの道を通ったのかわかるし。
その前にやれることはやっておく。
まず防犯カメラの画像のうち低い位置から撮影されたものを選んでナンバープレートを読み取って、その番号を検索する。
さらに車内の人影を複数の画像を合成したり解析ソフトにかけて車内には1人の人物しか乗っておらず、その運転手の顔はZ地区でルイが戦い、僕を襲った6人の中の1人と一致した。
指名手配犯と機械化改造体の2人は仲間?
それとも敵で、なにかを探ろうと尾行している?
さっぱり状況はわからないが、最高の結果は2人とも捕縛することだ。
もし他の仲間と合流するなら一網打尽のチャンスでもある。
小型トラックが停車したのを500メートル先にある街灯に設置された防犯カメラが捉えた。
倉庫のような建物のシャッターが開き、その中に入っていく。
その30メートルほど手前にある信号機に設置された防犯カメラにモペットが右折して、すぐに停車したところが映った。
こちらは外で見張りにつくようだ。
さらに10メートル手前のコンビニの店舗外の防犯カメラのおかげでミミィが急ブレーキをかけて自動販売機の陰に身を隠したのがわかった。
すぐに追いつく。
「ミミィ、車とモペットと両方を捕まえたい。無理なら諦めるけど、その場合も車に乗っていた男を押さえたいんだけど」
「なんで? にくのおまつりやるには、わるいやつをつかまえないといけないんだよね?」
「だが、あの車に乗っていた男はマミーを傷つけた奴なんだ。許せないだろ?」
「ゆるせんねー」
「肉のお祭りも大事だけど、マミーを傷つけた奴をやっつけるほうがもっと大事だと思わないか?」
「おもう!」
「たぶんだけど2人とも僕たちに尾行されているのに気づいてないはずだ。静かに、こっそりモペットの男を気絶させることができるなら、そのあとで車の男を捕まえることができるから、報奨金をもらって肉のお祭りができるし、マミーの仇もとれるわけだが」
「それはおとくだ! それでいこう!」
乗り気になったミミィだが飛び出しかけて急ブレーキかけて、ポケットから携帯電話を出した。
「ねえ、マミーすぐきて。ダディーといっしょにかたきうちするよ。みてみて、ほめて」
どうやら自分が活躍するところをルイにも見せたいらしい。




