戦艦島のアルバイト事情について
僕の財布がどんどん萎びていく。
だが、ミミィが疑問に感じているのは僕の財政事情ではなかった。
「また、おかねをもらえばいい」
「それはそうなんだけど、お金を稼ぐには仕事をしなければならないわけで、ところが僕は訓練中だし、いまのところ新しい仕事はないんだ」
「しごとすればいい、はたらけ! はたらけダディー!」
「だから働こうにも仕事がねぇ……」
「はたらいたらまけとか、いってるんじゃねー」
「いつ僕が働いたら負けなんてニート宣言したんだ?」
「してないか?」
「してないぞ!」
「はたらいているか?」
「働くというか……訓練だって働いていることになると思うんだけど、ね」
「たくぼくか? てをみちゃうか?」
「ん? たくぼく? 手を見ちゃうたくぼくというと……石川啄木のことか? ぢつと手を見る?」
「それだ!」
「よく知ってるな」
「ミミィはあたまいいんだぞ、きょーよーあるぞ」
本当に教養のある人は頭の悪そうな発音で喋りません。
まあ、しかし、ルイもバカだと言っていたミミィにしては意外と教養あるかも。ちょっと聞いてみると、どうやらルイから聞いたらしい。
「マミーね、ぶつぶついいながらかんがえてるの」
「短歌が好きというだけでなく、自分でも作っているのか?」
「そうそう、きんにくだけじゃないから」
「誰かに筋肉だけって言われたのか?」
「はしったり、とんだり、そんなのしかうわさにならない、いってた」
まあ、ファーストを計測すれば人類の限界がわかる、なんて話もあったし。短距離や長距離のタイムとか、垂直跳びや幅跳びの記録は気になるよな。だけど、本人的には体力バカみたいな扱いは不満、と。
確かにルイは頭脳も優れていると聞いたことがある。そっちの面でも人類の限界を目指して設計されているんだし、当然だろう。
だけど、わざわざ本人が噂を気にしたり、文学少女みたいなマネをしているとは……とってもかわいい。
人類の限界であるルイが指を折りながら、ああでもない、こうでもないと5文字や7文字のぴったり合う言葉を捜して頭を捻っている光景を想像すると、ちょっと和むな。
「そうだ! 次の仕事で返すと約束してルイに借りようか」
「たぶんむり」
「なんで?」
「マミーはびんぼう。いっつも、いっつも、いっつも、おかねない、おかねないっていってる」
「そうなの?」
ちょっと、いや、かなり驚いた。
出会ってから日が浅いから詳しく知っているわけではないが、銀行口座の預金残額が増えていくのをニヤニヤしながら眺めているタイプではなさそうだと思う。
しかし、くだらないものを大量に買い込んで浪費するタイプでもないように感じたのだ。
だから、必要以上に金を貯めこんではいないかもしれないが、そこそこの貯金はあると期待してたんだが。
でも、それだとすると、稼ぎをなにに使ってるんだ?
ふと、横を見ると浪費の元が歩いている。
一般的に朝食と昼食と夕食では朝食が一番安い。
喫茶店ではコーヒーを注文すると無料でついてくる場合もあるし。
いまのところ、その朝食が僕の担当。
考えたことがなかったが、もちろんミミィは当然昼食も夕食もとっているはずだ。
飼育小屋で食べていて、用意しているのはルイだと思う。
きっと喜んでミミィに好きな物を好きなだけ食べさせているはずだ。
意外と彼女は娘に甘い。
いままでは3食、最近は昼食と夕食の2食分、ミミィにたっぷり食べさせているとしたら、いくら稼いでも追いつかないだろう。
以前ルイから聞いた話ではミミィ以外にも処分予定の実験動物を保護しているみたいだし、それなりに家計は大変なのかもしれない。
「そうか……ルイに借りればいいと思いついたときは名案だと思ったんだけどな」
「たのんだら? いっぱいでなくても、すこしはかしてくれるかも」
「ん……貸してくれるかもしれないけど、無理なことはさせたくない。なんとかして金を稼ぐ方法を考えるほうがいいかも。といっても、他にアルバイトする時間はないし」
エイト先輩に飼育委員になるように命じられたとき戦艦島のアルバイト事情を少し教えてもらったが、割のいい仕事を探すのはかなり難しいようだ。
つてもない。
コネもない。
時間もない。
最悪だ!
たぶん1年1組の一番前の席だったなら、そこそこのアルバイトを探すこともできるのだろう。
あるいは入試の総合得点はイマイチだったとしても、どこか飛びぬけた才能があれば、それはそれで稼げると思う。
僕の前の席のチンピラみたいな奴だって、それなりのアルバイトを見つけたらしいし。
ところが、あいにく僕は1年5組で、それも一番奥の、一番後ろ。
学業成績は校内最下位。
それでいて、なにか一芸に秀でているわけでもないという、あまり使い勝手のいい仕様とはいえないスペックの高校男子だったりする。
ネット通販で買った偽造戸籍だし。
しかし、そのとき素晴らしいアイディアが浮かんだ。
これぞ天啓というものだ。僕1人では無理だが、都合のいいことにミミィもいる。
いくら子供といっても自分が食べる分を自分で稼ぐのは悪くないはず。
いや、むしろ教育的だ。
「なあ、ミミィ。昨日の訓練で手配書を見せられたんだ。できるだけ覚えておけって。それでな、その手配犯には賞金がつけられている」
この戦艦島に侵入したスパイから、ケチな泥棒まで、手配書は数百枚にも及んでいた。
防犯カメラの画像やDNAなど豊富な資料が揃っているものもあれば、下手糞な似顔絵が1枚というものもある。
だから、全員を捕まえるのは不可能だろう。
そもそも、いまだに全員が戦艦島に潜伏しているとは限らないし。
「手配犯の中には資料として現場から体臭が採取されたものもある。ミミィはにおいを追跡できるよな? 3日のうちに1人捕まえて賞金をもらおう。その賞金を使い果たす前に2人目を捕まえていくんだ」
「おお! ダディーすごい! あたまいい! さえてる!」
「すごいだろ、頭いいだろ、冴えてるだろ。尊敬していいぞ」
「で、どこで、だれをつかまえる?」
すでに臨戦態勢。
一言あいつと指したら飛びかかっていきそうな勢い。
食欲が最高のガソリンになっているのか、すごいやる気だ。




