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朝からお楽しみですね



 僕はミミィの犬耳を触ってみた。


 ピクッと震える。


 親指の腹で撫ぜまわすように柔らかい感触を楽しんでみた。


 犬耳だけでなく、体全体がピクッと震える。しかし、ミミィは寝たふりをやめない。


「しかたないな」


 右腕に抱きつかれている状態ではやりにくいが、左手1本でミミィの脇腹をくすぐってやった。


「う……うぅ……う、わははははははははは」


 3秒ほどこらえることに成功したが、すぐにミミィは身をよじった。


 やっと右腕が自由になったので、さらに両手でおなかのあたりを触りまくる。


「わはははははははは」


 どうやらくすぐり攻撃には致命的に弱いらしく、じたばたと身もだえしながら笑い転げる。


 子供って、妙に敏感なところがあるからな。


「やめて、やめて、やめて……」


「こっそり逃げ出す悪い子にお仕置きだ! 勝手に鍵を開ける悪い子にお仕置きだ! チェーンを壊した悪い子にお仕置きだ!」


「ミミィはわるいこじゃない……わははは……いいこになるから、いいこになるから」


「本当か?」


「ほんと、ほんと」


 どうも疑わしい気もしないではないが、くすぐるのをやめた。


 いい子になると約束して本当にいい子になった子供がかつて地球上に存在したはずないが――まあ、ここは地球上じゃないし。


 それに、服がはだけてヒドいことになっている。


 巨大な胸を押さえつけていた前のボタンは2つ外れて、黒いシッポがはみ出したズボンはちょっと脱げかけている――シッポ、かわいいよな。


 細いから、ふもふも感は薄いけど、さっきからパタパタと勢いよく四方八方に動きまわっている。


 別に誤魔化しているわけではないですよ?


 かわいらしいワンちゃんがプリントされたパンツが見ないようにシッポに視線を固定しているわけではない、断言する。


 むっちりしたお尻に、子供パンツは似合わないとか思ってないし、身長190はありそうな大柄な大人サイズの子供パンツなんてどこで買ったんだろう? なんて考えているわけでもない。


「マミーに電話したら朝ごはんでも食べたら、と言われたけど、食べる?」


「たべる」


「といっても、なにかあるかなぁ?」


 普通なら冷蔵庫の中の食材を確認するところだが、僕の部屋には電気料金がかかる贅沢品は電灯と携帯電話の充電器だけ。


 小さなキッチンの隅にあるカゴにすべての食料品が入っているのだが、いまは食パンが3枚。


 半分にすると1人当たり1枚半だけど、バターもジャムもないし。


 そこまで考えたとき、昨夜の報酬をもらっていたことに気づいた。


 これだけあれば外食でも買い出しでも、レジで困ったことにはならないはずだ。


 どうせ早朝の午前5時半に開いてる店といえば24時間営業の牛丼屋かコンビニくらいのもので、高級レストランは閉店してるだろうし。


「帽子で耳を隠さないとな。尻尾は隠してるな?」


 ミミィに着替えるように言うと、パジャマからは昨夜と同じ砂漠色のCWU―45/Pに着替えた。


 軍事色の強い戦艦島ではもっとも簡単に安く手に入る服で、ポケットから赤いワッチキャップを取り出すと、犬耳を隠すように深くかぶる。


 ルイはアルバイト代で帽子でも買ってやれといっていたが、ちゃんと外に出るときは耳を隠さなければいけないことは認識しているようだ。


 2人でぶらぶらと大通りを目指して歩く。


 身長が20センチは違うから、どう見ても父と娘という雰囲気にはならない。


 むしろ僕のほうが弟とか、親戚の子供とか、そんな感じがしないでもない。


 まあ、早朝ということもあって、人通りはほとんどないから気にするほどでもないのだが。


「そういえばジョギングしろとルイに言われてた!」


「マミーがはしれといったか? はしるぞ、ダディ!」


 いきなりミミィが走り出す。ジョギングではなく、全力疾走だ。


 しかたなく僕も全力で駆け出すが、追いつくどころか、どんどん離されていく。


「ミミィ、ちょっと待て、早すぎる」


「かけっこするのだ!」


 少しはペースを落としてくれたが、それでも僕にとってはジョギングとはとてもいえないスピードだ。これは短距離走だよ、すぐに走れなくなりそうだ。


「もっとゆっくり、ゆっくり」


 何度も声をかけつつ、アパートの周囲を走る。あまり遠くにいくと、帰るのが面倒だから。


 そのついでに店を探してみた。犬の遺伝子混合体なら牛丼みたいなものでいいかな、と思ったのだが、ミミィはコンビニでなにか買って僕の部屋で食べたいようだった。


 ダディーの部屋に興味があるのだろう。


 5キロかどうかわからないが、もういいだろうと勝手に思ったところで朝のジョギングを完走したことにした。


 そして、もよりのコンビニに。


 店の入口で買い物カゴをとって、それをミミィに示す。


「欲しいものがあったら、ここに入れるんだぞ」


「うん」


 クンクンと鼻を鳴らしながらコンビニの棚を順番に見ていく。


 朝食の買い物というより、ちょっとしたゲームみたいだが、まあ、今日はいいとしよう。


「これこれ」


 チョコレート菓子みたいだけど、パッケージに描かれているのは女の子に人気のアニメキャラ。


 そのキャラクターのシールがおまけに入っているらしい。


 はいはい、とカゴを差し出す。


 アニメを普通に見てるんだな。


 そういえば飼育小屋は見た目は殺風景なビルだけど、中はスゴい設備だったもんな。


 大画面テレビが何台も並んでいて、僕の部屋の100倍以上は充実していた。


 監視用のモニターかなにかと思っていたけど、たぶん普通にテレビも映るのだろう。


「これこれ」


 棚にあったハム関係全部って豪快な買い物だ。


 しかし、まあ、なんだ。


 報酬をもらったばかりだし。


 生まれてから一度も誕生日のプレゼントも、クリスマスプレゼントも、お小遣いも、お年玉もあげてない。


 はいはい、とカゴを差し出す。


 一部は犬なんだから肉が好きでもしょうがない……ダディーは海苔弁でぜんぜんかまわないんだし。


「これこれ」


 次は棚にあったソーセージ関係全部ですか。


 ハムとソーセージでカゴの底が見えない。


 弁当コーナーで選んだのはカルビ焼き牛丼。


 まだ肉が足らないのか?


 やっぱり肉なのか?


 唐揚げ弁当のほうが100円安いんだけど、はい、牛がいいんですね。


 カルビ美味いし。


「これこれ」


 次に差し出してきたのは、わんこのおやつか。


 すでにカゴの中にはビスケットが入っているわけだが、ミミィが食べられるというのなら、おやつをもう1つくらいかまわない――いや、ちょっと待て。


 問題はそこじゃない!


 かなりデフォルメされた可愛らしい犬のパッケージに包まれたそれは骨の形をしたクッキーのようなものだった。


 これ、ドッグフードだよね?




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