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飼育委員会の飼育動物について(その2)




 僕はルイが応援に駆けつけたのかと思っていたが、アルファを押し倒して一瞬で意識を刈り取ったのは2メートルまではいかないとしても190はある巨体の女性だった。


 同じところ、性別だけ。


 着ている服も八島高校の制服ではなく、砂漠色タンカラーのCWU―45/Pだ。


 難燃性の生地でできた飛行服フライトスーツ米軍エアフォース放出品サープラス


 どう見てもセーラー服ではない。


 アルファを一撃で倒して僕のほうを向いた。



 顔が見える



 うん、やっぱりルイではない。


 かわいらしい顔立ちで、ちょっと似てる気がしなくもないが、ルイより何歳か上だ。


 10代の終わりか、20代くらいの大人の女性に見える。


 顔が違うし。


 身長が違いすぎるし。


 胸のサイズも違いすぎる。


 ルイはかなり控え目なほうだが、こっちは巨体に引けを取らないメロンくらいのサイズのがドカンと突き出している。


 さらにルイは髪を短めにしているが、こちらの彼女は腰近くまであって、しかも耳がピンと立っている……どう見ても犬とか猫みたいな獣系の耳だった。




 ネコミミだ。



 大切なことなので、もう一度言おう。



 ネコミミだ。




 しかもカチューシャなどではない。


 リアルというか、本物感がスゴい!


 漫画などではよくあるけど、リアルでネコミミを見るのははじめて。


 遺伝子いじって女の子にネコミミを生やしたのか?


 戦艦島、はじまったな!


 これは八島重工の製品でも屈指の傑作に違いない。


 なにしろ破壊力がケタ違い。目が離せなくなるんだ。 


 たっぷり観察したから断言できる、僕はこんなネコミミお姉さんの友達はいない。


「ぐるるる……」


 どっちかというと犬だな、この唸りかた。


 訂正――ネコミミお姉さんではなく、イヌミミお姉さん。


 僕は犬を飼ったことないので、宥めかたを知らない。


 お手と右手を差し出したら、その手を齧りとられそうだし。


 ハウスって命じたら、おとなしく自分の家に帰ってくれるかな?


「ミミィ、ダディーよ」


 そのとき後ろから声をかけたのはルイだった。やっと追いついてきたらしい。


「ダディー?」


 僕から目をそらして、その後ろに視線を動かす。


「ダディー?」


 ミミィという名前らしいイヌミミお姉さんと同じように疑問符を頭のまわりに飛ばしながら僕もルイのほうに振り返った。


 彼女は僕とミミィの間で何度も視線を往復させ、ちょっと困惑したような顔をし、最後に僕から目をそらした。


「ダディーはパパ、お父さん、父親」


 ボソッと呟く。


 どれも知ってる単語のはずなんだけど、どういう意味だったかな、と僕は考えようとしたが、いきなり後ろから突き飛ばされて、押し倒される。


 本当はミミィに抱きつれたようだが、あまりの筋力の差に親愛の情よりも、ただの暴力と感じられてしまう。


 だが、その後に起きたことは確実に親愛の情だと理解できた。


 ミミィは僕の顔をペロペロと舐めまわしたのだ。


 アマゾネスのような大女にダディー、ダディーと懐かれながら顔中を唾液でベタベタにされるというのはどんなプレイだ?


「すまん、ルイ。説明してくれ」


 両手なのか前足なのか判然としないが、僕の両肩は床に押しつけられ、まるで身動きがとれない中、なんとかルイに言葉をかけた。


「最初に厳命しておくけど飼育委員は私とコンペの2人だけ。ミミィはもちろん、他になにを見ても他人には言わないこと。隠し戦力シークレットウエポンだから」


「隠し戦力というより飛び道具だろう、コレ」


「なんでもいい。絶対に喋らない、いい?」


「わかった、ミミィのことは秘密。約束する」


 で、このミミィは何者と尋ねる。


「コンペの父親が自分の息子の遺伝子とドーベルマンの遺伝子を切り貼りして作ったのがミミィ。だから、コンペがダディーなの」


「ちょっと待て。なんだって?」


「ゲノム編集で作ったの」


「いや、いくらなんでも人間の遺伝子と犬の遺伝子を混ぜ合わせ、まともな生き物が製造できるほどゲノム編集は万能じゃないだろ!」


「天才の仕事ね……尊敬はできないけど」


「これだから、お勉強ができるバカは嫌いなんだ」 


「それでね、コンペの遺伝子を引き継いでるんだから、まあ、娘というのが一番近いんじゃないの」


「……娘」


「そう。娘。科学的に作成したのはあなたのお父さんだけど」


「なんてことしてくれたんだ!」


「知らないわよ、コンペの父親のやることなんて」


「だいたいダディーってなんだ? ちょっと恥ずかしいぞ。パパとかお父さんではいけなかったのか?」


「知らないわよ、コンペの父親のセンスなんて」


「それもか! それもか!」


「ん? ダディーはミミィのこときらいなの?」


 首筋に噛みつかれた。


 いまのところ甘噛みだが、怒らせてしまったら首が半分くらいなくなりそうだ。


 で、人間は首を半分齧り取られたら死ぬ。


 押さえつけられている両肩をなんとか動かして右手をミミィの頭に持っていくことに成功した。


 軽く撫ぜて、犬耳を触ってみた。


 なんか……さわり心地がいい。


「そんなことないよ、ミミィはかわいい」


「わふっわふっ」


 首筋に突き立てていた犬歯をひっこめ、かわりに頭をすりつけてきた。


 もっと撫でて、という感じに。


「ダディーがミミィのことかわいいって。マミーもミミィのことかわいい?」


 その質問はルイに対してされたものだろう。


 この部屋にいるのは僕とミミィとルイ、そして気絶しているアルファだ。


 そして、マミーというからは女性でなくてはならず、ここにいる女性はミミィとルイだけ。


 ミミィが自分に対して質問するわけないから、残るはルイ。


 証明完了。


 名探偵になれそうだ。


 と現実逃避している場合ではない。


 さっきからルイが気まずそうに目を合わせようとしないのは、そういうことなのか?







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