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負傷者を探せ!

おはようございます!

今日も更新します。



 車の運転はできる? と問われたので、自転車と三輪車ならと答えた。


 あのあと一時解散となり、僕はアパートに戻って昼食をとった。


 そして、15時に飼育小屋のガレージでルイと待ち合わせたのだ。


「残念ながら一輪車には乗ったことない」


 なにもコメントはなかった。


 つまらない冗談でも笑うんじゃなかったの?


 いや、笑わないからルイには友達が1人もいないのか。


 納得、納得。


 ルイは90式中型トラックの運転席に座った。


 基本的には古い軍用トラックである。


 シートもくたびれていたし、インパネを覗くとオドメーターは50万キロを超えている。


 こんな狭いコロニーの中で毎日乗ったとしても無理な数字だから、八島警備保障の海外事業部がどこかの戦場で使い倒した中古かもしれない。


 もっとも、中身は改造されているようだ。なにしろエンジンをかけるというのではなく、スイッチのようなものでONすると走り出したのだ。ガソリンやディーゼルではなく、電気モーターが動力だと思われる。


「どうせ訓練所ブートキャンプで習得する技術の1つだから、来月くらいには乗れるようになると思うけど」


「やっぱり必要なんだ?」


「ヘリとか飛行機とか船はそれほど。でも、車は必須」


 ルイは車に限らず、ヘリも飛行機も船も操縦できそうだ。


 どこの国にも所属しない戦艦島には免許という制度はない。


 操縦できるなら乗っていいのだ。


 もちろん、そのまま他国の領土領海内に侵入すればトラブル必須だが。


 ただし、乗り物を個人所有している人はいない。


 基本的には八島グループの社用車ばかりで借りるのも難しいのだが、そもそも戦艦島は路線バス網が発達し、しかも運賃は非常に安いので普段の生活では自転車すら必要ない。


 狭いスペースを有効活用しようと島中の道路は最低限の幅しかないから路上駐車は自転車すら駐車禁止で、駐車場は数が少ないうえに高い。


 罰金や駐車料金を考えると、自転車を買うよりバスに乗るほうがはるかに安く済むのだ。


「このキューマルは飼育委員会専用車で作戦のときはもちろん、飼料や動物の運搬といった本来の飼育委員としての活動にも使っているから、すぐに自転車や三輪車より上手に運転できるようになるはずよ」


「そうなるといいんだけどね」


 まあ、ドライブゲームはやったことあるからなんとかなると思う。


「アクセルを踏めば走る、ブレーキを踏めば止まる。ハンドルを回せば曲がる。それだけ」


「まあ、基本はそういうことだろうけど……」


 そういう問題じゃない気がしないでもない。


「他になにか?」


「いや、いい。実際に動かしてみて覚えるよ。ジェット戦闘機とか宇宙船は限られたエリートしか操縦できないかもしれないけど、車だったらたいていの人は免許が取れるんだし、たぶん僕だって乗れるようになれるさ。それより、このキューマルは電気自動車?」


「戦場はインフラが整備されているかわからないから燃料を使うほうがいいけど、コロニー内インフラは万全だし、そもそも空気が汚れると面倒だから、この戦艦島には電気で動く車両しかない。これも車体はスクラップ同然の中古だけど。中身はあれから電気を受けて動くように改造されている」


 ルイはビルの屋上に設置されているアンテナを指した。


 ワイヤレス給電のアンテナだ。


 電気をマイクロ波として無線送電してキューマルは動いているらしい。


 日本でも一部の都市でインフラ整備が進められているし、宇宙に太陽光パネルを設置して地上で電気として活用したり、補助バッテリー程度で電気機器を使えるようになりつつある。


 戦艦島ではもう一歩、先をいっているのだろう。


「電動車に改装するついでに、カメラを車体の各所に埋め込んで死角がないようにしているし、センサーもついていて事故防止に運転支援システムも完備。どんなに運動神経が鈍くても、これで事故を起こすことはそうそうないと思う」


「運動神経が中の下の僕なら、たぶんたいじょうぶ」


「うん。下の上の人でもだいじょうぶ」


「ちゃんと電気が供給されていれば自動ブレーキが働くしな」


「電気の供給は万全。使い放題の料金プランになっているし、請求書は生徒会にいくから」


「レシプロエンジンで言うところのガス欠の状態にはならないんだ」


「あっ、そういえば電話を渡してなかったわね。支給されるから、帰ったら渡す。こっちも使い放題。ギガ放題に、ワット放題。そして請求書は生徒会へ」


「ワット放題のほうはいいけど、ギガ放題といっても生徒会に請求書がいくなら、あまり変なことには使えないな」


「噂だと1日に10分くらいエロ動画を見ても文句は言われないけど、1時間とか2時間も見てると、ちょっぴり嫌味を言われるらしい」


「2時間でちょっぴり嫌味だったら大したことないと思わなくもないけど、いろいろ気まずいかも」


「だから、1日10分ならいいのよ、10分なら」


「えっ、ルイは1日10分見てるの?」


「ジブンは見ない」


 答えと一緒に運転席からコブシが飛んできた。痛い。


「それで、どこまでいくの?」


 話題を変えるために尋ねると、ルイはチラッと一瞬だけ僕のほうに瞳を向けたが、すぐに前を睨むように見る。


「Bの外れ」


 A地区エリアは八島重工の製造工場を中心にした生産エリアだ。


 そもそも、戦艦島は宇宙に浮かぶ軍需工場船なのだから、ここが一番古くある地区だし、現在でも最大の面積を占める重要な場所ということになる。


 そのA地区に隣接しているのが僕たちが目指すB地区。


 戦艦島で働いている作業員が住むアパートやマンションが並んでいるエリアだ。


「つまり標的は工場の作業員?」


「工場勤めを身分偽装カバーにして、この島のあちこちを探ってたみたい。目的地に着くまで時間があるから状況説明ブリーフィングをしておく」


 そう言ってルイはダッシュボードに組み込まれたモニターの下にあるボタンを押した。


 10インチのモニターがナビから、どこかの商店のレジで買い物する男の画像に切り替わる。


「本日午前1時7分、C地区の203にある『第14薬局』に男性、30歳前後、身長170くらい、中肉、黒のつなぎ服が来店」


 ナビだったときの道案内の声とは別の、妙に色気のある声がスピーカーから聞こえてきた。


 どこかで聞いたことあるような……と記憶を検索してみると、すぐにヒットした。


 これは文章朗読ソフトの深窓ふみに間違いない。


 最近エッチなことに興味津々の女子高生という設定なのに妙に大人の色香を感じさせる声質という、安っぽいアダルトビデオみたいなソフトだ。


 電子書籍で官能小説が爆発的に売れるきっかけを作ったといわれる伝説的なエロボイス。


 その甘く囁くようなイヤラシイ声で事務的に状況を説明していく。


 いったい、この飼育委員専用車キューマルはどういう仕様なんだ?


 ルイの趣味……とは思えないし、卒業した元飼育委員にこんなのが面白いというズレた感性の先輩でもいたのだろうか。


「以後、C地区の薬局に来店した当該人物をアルファと仮称する。アルファは鎮痛剤、傷薬、消毒薬、包帯の以上四点を購入。接客にあたった薬剤師の証言によればアルファは首を負傷していた模様」


 エロボイスの言う、C地区はB地区に隣接した商業街だ。


 B地区に住んでいる八島重工の作業員たちが買い物するための店が並んでいるから薬を扱っている店舗も何軒かあるだろう。


「昨夜の戦闘で1人だけだったけど、ダメージを与えている。モップを固定する金具が首の皮膚を引き裂いたんだ」


 僕が言うと、ルイは頷いた。


「当然、薬剤師さんは不審に思うよね? 転んで膝をすりむいたとか、包丁で指を切ったというのなら理解できるけど、首を切り裂くって、どんな事故で、そんな傷できるのか? って。仕事中の怪我なら労災なんだし、自分で薬を買う必要はない」


「戦艦島に労災はないんじゃないの?」


「労働基準法も労働者災害補償保険法も労働基準監督署もないけど、さすがに安心して働けるシステムがないのでは労使ともにマイナスしかないから、実質的に労災の保証とかわらない内容の社内規定があって、勤務中の負傷には現物給付として治療が、休業した場合は給料の7割が補償される」


 長時間労働による過労死での保障は一切ないけど、とルイはつけくわえた。


 どのあたりが安心して働けるシステムなのかよくわからないぞ? 


 超ブラック企業あるあるジョークみたいなものか? 


 日本だって過労死だと会社に訴えたところで簡単に認めてくれないよな。


 しょうがないから労働基準監督署に訴えて、それでも駄目なら裁判所に訴えたりして、やっと認定されたりするわけだから。




車の動力は電気でいいですよね……たぶん。

それとも、モーターよりもっといい動力源が出てきますかね?

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