8.いざ行かん!
「さー気合い入れてこ!」
「ご無理は…」
「ありがとう。えっとクルミさんとミルクさん」
両頬を軽く叩き今日が一番重要だと自分に言いきかせれば、背後で数日間身の回りのお世話をしてくれた双子が気遣ってくれる。
「「無事にお戻りください」」
大きなウルウルな瞳の美少女達に敵う男、いや男女問わずいないであろう。
名前も異世界なのに不思議。でも似合っているというか。可愛いわね~。普段から人に触れるなんて事はしない私だけど二人の肩に手を置いた。
「別の世界から来た私を怖がりもせず、お世話してくれてありがと。助かりました」
私だったら未知の生物のケアなんてごめんこうむりたい。だけど甲斐甲斐しく居心地がいいように動いてくれた。それは二人だけではなく屋敷の人皆が親切だった。
悔しいがあの、リードという主が出来る人間だと認めざるおえない。
悔しいが。
二度呟いちゃったじゃないの。
「あの?」
「ああ、ごめんね。屋敷の人忙しいかな? できれば全員と会いたいんだけど」
自分の世界に一瞬入っていたようだ。とってつけたような感じになったけど二人は気づかない。
「「はい! お待ちください!」」
元気な声にこちらもパワーをもらえる。
うむ。癒しだ。
***
「なんか物々しい」
「砦から選りすぐりの奴等だ。カッコもつくだろ?」
ずらりと並んだ数は15人。内二人は女性。私のちょっとぽっこりお腹とは無縁な姿にかっこよくて惚れる。
「昨日は急にお邪魔しました。今日はよろしくお願い致します」
実は昨日、砦の方々には会ったけど挨拶はきちっとね。
「お名前伺っても?」
「勿論」
私は、いる中で一番チャラそうな、けれど実力は国で五番内だという金髪騎士に握手を求めた。
「これまた威圧感がある」
何でお城まで行くかというと、魔法ではなく生き物に乗ってひとっ飛び。
「いい毛並みだろ」
「え、うーん。確かに艶が半端ないけど」
白いペガサスでもなく、竜でもない。
「モー」
まさかの牛でした。
いや、ただの牛ではない。サイズも大きいけど、羊のような巻いた角に本来ないはずの黒い翼、そして。
「早く乗れモー」
会話可能!
だがしかし!
語尾がコントか?!
突っ込んでいいのか悩ましい。
「ほら、来い」
「うわ」
「色気ねぇなー」
腰にまわされた腕が危なげなく牛さんの背に乗せてくれた。跨いだほうが安定感ありそうだけど、此方に来た時のスカートでは絶対めくれ、目に毒なものを見せてしまう。
「今までで一番しおらしいな」
「そりゃあどうも」
ニヤつきながら言うな。
「行くぞ!」
「ギャ」
予行練習もなく空の旅が始まった。
「ガッチガチなんだけど」
「これでも大人しくお上品な飛び方だ」
朝に出発し、途中休憩三回して着いたのは夕方。私の身体は凝りまくっている。肩を回しながら城の出っぱった一角、乗り降りする場を観察する。
「お城ってかなり丈夫そうで高さもあるのね」
「ウチはいい石が採れるからな」
下を見下ろせば、規則正しく積み上げられたのがぼんやりとだが見える。
「ちょっと」
リードが急に腰に手を置かれ抱き寄せられ、固い鎧が痛い。
「お出ましだ」
上を見上げれば不敵な横顔。その整っている顔は、悪そうな表情だ。
だけど、それにちょっと安心する自分。
「姫!ようこそ!」
リードの視線の先から、ごますり笑顔百点満点のオッサンが近づいてきた。
「しゃあねぇ。行くか」
「ええ。邪魔なんだけど」
彼の腕に力が入った。どうやら抱かれたまま行くらしい。嫌じゃないけど、叩くのは忘れない。
* * *
「待ちわびたぞ」
無駄に広いゴージャスなホールに入れば、奥に一際眩しい椅子に腰かけた人物から声をかけられ、私は一瞬固まった。
その理由は、国のトップの威圧感ではない。
「社長!?」
何故なら、ウチの社長がそこにいたのだ。