6.私の一番大事なモノは
「出来たー!!」
ひゃっほーい!
「凄くない?! やっぱ私ってやれば出来る子だわ! 素晴らしー!」
年甲斐もなくガッツポーズをしジャンプまでしてしまった。だって嬉しいんだもの!
「ウッセー! 静かにしろ!」
木に寄りかかり座りこんでいる男が耳を塞ぎながらクレームをよこしてきた。
だがしかし。
「アンタこそ煩いわよ! しかも褒めるべきでしょ!」
今こそ見直したとか言うべき場面よ。
なのにコイツは!
「ちょっと! 汚いわよ! 鼻に指入れるんじゃないわよ!」
今度は耳の中に指を入れ始めたその完全無視の方向な俺様な彼、リードに腹が立つ。
よし、ならば。
「アレは虫…キモい虫」
呟きながらドッチボールのボールを相手に投げつけるポーズをとる。ただし今、右手には勿論何もない。
だけど。
腕を上げ空の手に集中する。ついでに子供の頃に大雪と強い風でスキー場で酷いめにあった景色を思い起こす。
何処に?
そう。
私の右手の中に。
ギュイン──
何かが凝縮するような気配と聞きなれない音にチラリと振り上げた右手を見上げれば、透明な球体、丁度バレーボールのサイズの球が。
ただし、その中は高速で渦巻く雪。
「バカにしたら痛い目みるんだから!」
三十路女をなめんなよ。
「どおりゃあ!」
力いっぱい投げたソレは、狙い通り真っ赤な髪のやる気のない男の顔めがけて飛んでいく。私の今日一番の恨みの塊を受けてみなさい!
「ギャー!! タイム!」
なんとリードが私のお手製吹雪ボールを避けたせいで木に跳ね返り私に戻って来た。
「防御! 強いやつー!」
しかも跳ね返りつつ至近距離で球体の外側が爆発した。慌てて身を守るも。
「スゲーな。うもれてんぞ?」
間に合わなかったので吹雪を浴びた私は頭から雪に埋まり人間雪だるまである。ていうか息ができない!
「ぶはぁ! ゲホッ」
リードが顔の雪をはたき落としたので私の呼吸は確保された。
「なんかなぁ。あんた、使い方下手だな」
頬をボリボリ掻きながら真面目な顔されてもさ。
「ムカツクー!」
雪は見る間に溶けていきびしょ濡れな私は、リードの肩に担がれ速攻お風呂行きとなった。
* * *
「あ~生き返った」
リードの執務室でお風呂から出た私は執事のセバちゃんが淹れてくれたお茶にほっこりしていた。まだお昼前だから窓から程よく日差しが入り、平和だわとソファーに靴を脱ぎ寛ぐ私。
あ、行儀悪いって?
まあ赤髪さんしかいないし早朝から力の練習で疲れて足を伸ばしたいのよ。
「なぁ、何でそんなに帰りたいんだ?」
仕事中の彼は、此方を見ず手を動かしながら聞いてきた。
何故って当たり前じゃない。
「お金よ!」
そのゴツい手が止まったと思えば、私を青い目が見ている。
「何か変?」
聞き返せば、なにやら違う生き物でも見ているような視線をもらう。
「ああ、家族や彼氏とか友達じゃないからって事?」
「ま、まぁ普通そうだろうな」
ケッとなるわ。
「私が大事なのはお金なの!コツコツこの歳まで働いて頑張った結晶よ!」
なのに。
「帰れないとか冗談じゃないわ! 貯めたお金でこの先待ち受けている老後お一人様生活を充実させたいのよ!」
無言の彼の顔を見ればなにやら変な顔をしている。整っているのがいけないのか、なんかまた無性に腹が立ってきた。
「あぁ? 何か文句あんの?」
巻き舌になった私は悪くないはずだ。
「世の中所詮お金よ」
お金がなくちゃ話にならないわよ。私はドン引きしている男にお金の大事さを長々と説明してあげた。