19. 気持ちは決まっているはずが
「行くぞ。荷物はそれだけか?」
「ちょっと!」
挨拶もそこそこにリードに抱きあげられた!まだ会話というものをしていないのに!
「ナツ様」
「あ、神官長さん、今晩は?」
地下に位置する場では朝か夜なのか。とりあえず挨拶はしないとだし。
「おはようございます。今は、夜明け前になります」
そんな早いのに爽やかな笑顔。
あら?
「何か…変わりました?」
元々穏やかそうだったけど。人臭くないというか実体がないのかなくらい綺麗すぎな印象だった。
「いえ、特には」
彼は不思議そうな様子だ。
「そうですよね。でも、なんか地に足がついた感じなんですよね」
落ちついたというのか近いだろうか。
「私自身は変わらないかと思いますが。気持ちには変化があったかもしれません」
そう呟き私を見てふっと笑った顔は悪くない。
「そうなんですね。なんか、今の方がいいです」
「──そうですか」
彼は、微かに目を見開いた後、今度は晴れやかに笑った。
「おい、時間がおしい。行くぞ」
「ぎゃっ!」
怒ったような台詞と同時に肩に担がれた。苦しいんだけど!
「また、お会いしましょう」
「えっ? ああ。またっ」
神官長さんの綺麗な礼を逆さまに見ながら私は荷物と同じ扱いで運ばれていった。
*〜*〜*
「思っていたより早く着いたな」
そうでしょうとも。あんだけ馬を飛ばし宿に寄っても仮眠のみ。あんた、私の寿命を縮めたいのかしら?
「大丈夫か?」
「……ん」
リードは、ベッドにうつ伏せに倒れ込んだ私の髪を優しく梳いてくる。
ずるいなぁ。そんな扱いされると文句が言えなくなる。
「で、ここ貴方が統治していた領地よね?」
「ああ」
話がしづらいので仕方なくベッドから身を起こした。馬に乗っているわけではないのにまだ揺れている気がする。
「城の人間にナツが来る事をあまり気づかれたくなかったんだ」
彼は、サイドテーブルに手袋やら装具を置いている。シャツのボタンをいくつか外すと此方を向いた。
「あの場所だけは知られたくない」
「そう」
何故貴方が知られたくないのか。
ベッドに腰掛けられたせいで、私の体は、大きく揺れた。なんか、無駄に色気あるのよね。
……私は、リードの動きばっかり見ている気がする。
「大人しいな」
「疲れてるからよ」
彼が此方に身体を傾けるので重みに引きずられ私まで傾く。手袋越しではない、素手で私の頬を撫でてくる。
「ナツが静かだと調子がくるう」
影ができ、微かに彼の鼻があたり唇が近づいてきて。
コンコン!
「リード様! 無事ナツ様をお連れできたのですか?!」
ノックの後に勢いよく扉が開かれじぃやさんが興奮した様子で乗り込んできた。
「…空気読めよ」
子供のような拗ねた小さな声に思わず吹き出した。そうして気づいた。
あ、大丈夫かも。
私、まだ笑えているじゃないと。