17.強みがない私は、弱い
私がもっと若かったら、迷わずその手をとったに違いない。
「来て」
だが、ある程度現実を生きてきてしまった私は、リードや神官長ではないモノを先に求めた。
「それは、確か燃やしたはずでは?!」
神官長さんが、私の手に現れたノートに強く反応した。
「まさか。利用価値がある物を手放すはずないじゃないですか」
悪気はなくても片寄った解釈や客観的にみられず自分の考えを説明されているかもしれない。
「このノート、氷姫達の日記だけではなく問えば歴史も教えてくれる。読む限りでは一番納得できたわ」
淡々と記されているので、逆に信じられる気がした。
「我々を欺いたのですか?」
心外だなぁ。
「人聞きの悪い事いわないで。私の物をどうしようと勝手じゃないですか」
まぁ騒ぐのも理解できなくはない。このくたびれた大学ノートを欲しがる奴はかなりいるだろう。
特に権力者達にとってこの不思議ノートを保持しているというだけで箔がつくかもしれない。そんなノートは争いの元だ。だから処分しましたよと目の前でみせつけたのだ。
「成る程ね」
ノートはパラパラと乾いた紙の音をさせながら、やはり重要な事を教えてくれた。
「ナツ」
焦れたような声の主をじっくり見た。
俺様で、口が悪く気が短い。しかし面倒見は悪くないし、強面だけど整っている顔。頭も悪くなく現在は国のトップ。
こんな優良物件にこの先出会えるかと訊かれたら答えはゼロに近い。私はノートを閉じ消した。
「そうねぇ。あと半年で次のトップを決めておいてもらえます?」
「なんだと?」
私は、青筋を立てた男にニッコリスマイルを差し上げた。
「一年後でも問題ないですよ。で、本題だけどあと数回、私は行き来ができるらしいです」
「そんなバカな!」
神官長さんは、荒い面もお持ちらしい。中性的な容姿の人が怒ってもあまり怖くはない。
「嘘じゃないですよ。陣は、ほら、前回と今回の影響なのか変化している。一番は、私の力が桁違いに多いという事かしら」
かもしれないと説得力のない言い方だけど。じっくり彫られた文字を辿ると削れているのとは明らかに違う真新しい箇所がある。
送り迎えが一ヶ所で済むのは合理的に感じる。そして今の私には考える時間、選択肢を増やしてくれた。
「だから、次、会うときまでに決めるわ」
「おいっ!」
「神官長さん、苛立ちは身体によくありませんから。なんなら快適に私が過ごせる案を出して下さいよ」
「私が…ですか?」
「はい。リードさんは若干不安なのでよろしくお願いします」
快適とは言いがたいこの世界。私が住みたい!と思えるようなプレゼン期待してますよ。
「ナツ」
焦れた声すら、いい声。私が出させているというのが信じられないけど。
「多分、惹かれてる」
一瞬喜びの表情をしたあと彼は「多分って何だよ」と不満げに眉をひそめた。
「若い子じゃあるまいし、急には無理よ。あ、先行手配大丈夫かな。仕事、気になるし、またね~」
いい加減限界を迎えたのか、光に包まれたので目を閉じた。
「…仕事優先かよ」
目は閉じたものの耳は、不満そうなリードの声を拾った。
でも、その口調で嘘は言われていない気がして嬉しくなった。思わず口許が緩む。チョロすぎだ。
だけどすぐに影がさす。
あと2回行き来すれば、私は、ヒョロヒョロの雪ボールすら出せなくなる。
──利用価値がなくなった私でも果たして彼は私が欲しいと言うのだろうか。