14.なんとかなったわ
『この世界がずっと怖かった。最後までずっと』
「デイ」
くしゃりと歪んだ彼の頬に私の右手が触れる。いえ、今、私は私ではない。彼女に貸し出し中だ。だけど触れた柔らかい肌の感覚は伝わってきた。
『でも、リーと会ってから少しずつ楽しくなった』
「なら、何故っ!? なんで飛び降りた!? なぜ身を焼いた?!」
リードの頬に触れていた私の右手を痛いくらいに彼に掴まれた。だぁっ加減しろ加減!
『私には、力が足りなかったの。あの時、全てを使わなければ世界は消えちゃっていた』
「なら滅びればいい! ディは帰れたかもしれなかったんだぞ!?」
痛さにイラついている間にも二人の会話は進んでいく。
『無理よ』
「何故?! 諦めなければあの時!」
私の体に重なっている彼女の髪の毛が首をふると緩やかに波打つのが視線の端で見えた。それは、隙間から差し込んだ外の光を浴び輝く。
なんか、草原とかで見たら凄い絵になりそう。
『無理よ。私にはそこまでの力がなかった』
「ならば、力など使わず側にいてくれたら!」
ギリギリと握られた右手はそのままに、左手も彼の頬に添えられ…唇に乾いた柔らかいものが。
私の体を使っているデイジーさんが、背伸びをしリードにキスをした。ぎゃー!
『だって、リーが死んで欲しくなかったから』
離れたはずが、リードが頭に手を回したらしく、強く引き寄せられ、強引なキス。
やめてーっ!
体は私だから!
レンタルしてるとはいえ、やめい!
『リー、生きてね』
「ディ!」
『さよなら』
淡い金の光が私から出ていった。
「ちょっと! 恋人とお話できて高まる気持ちはわかるけどベロチューはないでしょ!」
うー、なんか口の中が生々しい!私の初キスも濃いバージョンも奪われてしまった!
泣いていい?!
三十路でも初めてというものに夢があったのよ!
「聞いてんの!?」
大型犬が項垂れているようにしか見えない、その頭に加減しないチョップを打ち込む。
「いてぇな」
下を向いていて顔がよく見えない。しょうがないなぁ。
「ねぇ、彼女は元々病気で残りが少なかったみたいよ。あとね、この世界で亡くなったから、転生?生まれ変わりがあるみたいだから」
いまや完全に床に膝をついている男の頭を撫でてやる。
「どこかで、いつか会えるかもよ」
だから、そんなへこむなよ。
「さて、そろそろ帰る。じゃあね」
「氷姫っ!」
「ナツ?」
私を呼ぶ声を最後に聞きながら私は、神官長もなかなか良い声してる、というかリード、貴方、最初から私のこと呼び捨てだったわねと思いながら目を閉じた。