13.対の盤と震える彼
「貴方はっ! 我が国の上に立つと先程仰ったのではないのですか?!」
「怒鳴らなくても聞こえますよ」
実年齢は知らないけれど若い神官長は長い髪を揺らしながら私に詰め寄ろうとしたけど、それをリードが無言で止めた。
彼は、リードは先程から様子がおかしい。まぁ、わからないでもないけどね。
あの古い本に記された文を思い出した。
*~*~*
「さっきとは対照的」
私と、リードと神官長、砦から来てもらっている内の二人を連れ先程の屋上にあった召喚場所とは真逆の、城から繋がっているという神殿の地下に来た。
石が積まれている壁の隙間から僅かだけど日差しが入り、ソレを照らす。
「こっちも随分古いわね」
膝をつき湿った石盤を指でなぞれると淡く光った。
「本当に…可能なのか?」
掠れた声はリードだ。見上げれば彼は微かに体を揺らしている。
それは動揺? やるせなさ? 悲しみ? 私には分からない。神官長は、リードの部下がガッチリと押さえていてくれているので、とりあえず邪魔はいない。
「王になるのは、貴方よ」
指差した先は、ゴツいイケメンのリード。
「正統な血、引いてるんでしょう?」
揺れていた意識が戻ったのか、彼の視線がしっかりと私を捉えた。
「ナツ」
「さっき燃やした本にはね、色々な事が書かれていたわ。あ、これは今後の参考にしてね」
私は、ルーズリーフを破った紙を床に置いた。
「何だ?」
嫌々ながら太い指が紙を拾った。
「そちらの国の言葉になってるか自信ないけど。環境を悪化させないようにどうしたらよいかの案よ」
私だって少しの優しさはある。
「均衡が崩れているのは、改善させて帰る。今後は自分達でなんとかして。あと、お世話になったから」
「あ?」
手でおいでと手招きをすれば、彼は不服ながらも近づいてきた。光る石盤の線スレスレの外側にリード、内側は勿論私。
目を瞑り開く。
『リー、好き』
私から出た声は高く細い声。目の端から私の意思とは関係なく涙が流れた。
「…デイジー?」
リードは、かつての恋人の声に手を震わせながら私の、デイジーの頬に触れた。