10.二択ですよ
「そんなに驚く事?」
周囲が一気に敵になるのを肌で感じながらリードに問う。
真っ直ぐな私の眼はお気に召さないらしい。待つ時間が無駄なので視線を元に、この国のお偉い様方に戻す。
「強制的に連れてこられた私の身を考えることすらしない貴方達は、そこの青い服の人、無作法というならまず私に謝るべきでは?」
あーぁ、黙っちゃった。
「まさか、それは」
「この本ですか?」
神官長さんが私の手にしている古い本を見て目を見開いた。
「不思議ですよね。こちらに来た日の夜、いきなり手元に現れたの」
本というより大学ノートだ。厚みはなく装飾もない、ただの薄茶色のノート。
だけど。
「ねぇ、歴代の連れてこられた人達、氷姫でしたっけ? ほとんどの人が狂い死んでるのは何故? ああ、男性もいたみたいですね」
一見薄いノートは、初代氷姫の日記から始まる。読み終えていいはずの量なのに、次から次へと文字は終わらない。最初は何も考えず流し読みをしていた。むしろ所々に登場する姫呼ばわりを馬鹿にしていたが。
「ようは生きた道具」
もれなく私もだろう。
「ここに、私の家族はいない。知り合いも職場すらない。あ、そっくりな人はいるけれど」
その、そっくりさんを目指して一歩、また一歩と玉座に近づく。
「ナツ」
数日間、世話になった男に言葉だけ投げる。
「私は、悪いけどデイジーさんじゃないから」
息を飲むような彼に満足した。
「無礼な! 捕らえろ!」
社長そっくりの女は、大声で控えている兵に命令する。
この声、ホント苦手だったんだよね。
「な、癒しの力だけではないのか?!」
命令を受け向かってきた兵士達は、何かで殴られたかのように吹っ飛ばされた。いや騎士さんなのかな。もはや私にとってどうでもいいわ。
「そう。どうでもいいの」
絨毯ではなく、影が映りそうなくらい磨かれた白い階段をゆっくりと上がる。
「よりにもよってなんと常識のない者がきたのか!下がれ!」
ああ、私は、どうして今まで会社で自分を出さなかったのか。何故あんなにも上の人間にビクついていたのか。
カッン
階段を上がりきった先の、必死で威厳を保とうとしている姿が憐れになってくる。
「玉座を渡す?」
──それとも。
「この世界をなかった事にしますか?」
さぁ、答えて?