圧巻
彼の拳は、何の為にあるのか。
ーーーーーーーーーー
2020/02/27 改稿
空っぽだった。
細流梵と言う男の中身は。
彼は由緒ある空手の流派「細流」の第十三代当主として生まれ、育てられてきた。
毎日道着を着込み、道場で拳を握ったのが梵の幼少期であり、大学へ入学するまでの十八年間の全てだ。
――梵の父親は、息子同様に無感動な男である。
どこを見ているか分からない視線。何を考えているか読み取れない表情。いつも前だけ向いて第十二代当主として「細流」を背負っている彼は、武道家としては一流であっても父親としては三流であった。
父親は長男に何の迷いもなく武道の道を歩ませた。自分がされたように育て、流れる歴史を継がせ、歩むべき道を構築した。
梵はただ黙ってその道を歩いてきた。
父の何十人といる弟子に混ざって稽古し、稽古が終わった後も父と一体一での鍛錬。家は食事をして寝る場所であり、梵の居場所は道場となっていた。
父は全国各地にある細流の道場へ稽古に行き、空手道大会では委員長を務め、切磋琢磨する武道家の手本として立っていた。
梵はその背中しか知らなかった。
武道に関係の無い、細流梵の父である細流淋は何処にもいなかったのだ。
少年は大会に出ては常に優勝し、空手以外の武術も教わればやはり誰よりも強くなった。
空っぽの梵の中に形成された人格は武術だけで作られている。静と動の動き、プレッシャーに耐える精神、気の波をたてない姿勢、感情に左右されない態度。
しかしそれだけで人間は完成しない。
細流梵には、愛情と言うものが足りなかった。
父は武道一筋で愛を与えると言う考えがまずない。慈愛と尊重など与えない。
彼の伴侶である母は歴史ある一家に嫁ぐだけの気品と冷静さを持っており、実家である呉服店を顔色一つ変えずに営む大和撫子。彼女は「細流の長男」である梵に温かさも愛情も見せなかった。
だから梵は何も求めない。求めても与えられないと知っているからだ。彼が望むものは手に入らないし、彼の中にも欲しがるという感情がない。
彼の下に生まれた双子の姉弟――萌葱と添義は伸び伸びと武術に触れながら育っているというのに、梵にその自由は与えられなかった。
いいや、彼はそれすら欲しがらず、羨みもしなかったのだ。
梵は何も望まない。何も願わない。何も求めない。
そんな彼だが、一度だけ願望を口にしたことがあった。
――家を、出る、許可を、貰い、たい
大学受験の年。梵は父と母に頭を下げた。
元よりスポーツ推薦でとある大学への進学権を得ていたのだが、それを彼は受けなかった。それについて両親は何も言わず、梵が現在通っている大学に行きたいと願い出た言葉にも反応を示さなかった。
梵が通うよう言われたのは体育学科。将来道場を継ぐにあたって必要と思われる学科に通うように父が言ったのだ。
梵はそれを受け入れ、同時に自分で大学を選び、家を出たいと進言した。
――四年間、だけで、いい。俺に……外の、世界を、学ばせて、下さい
梵の願いは、結果的に受け入れられた。
余り話したことが無かった萌葱と添義は兄が出ていくのを渋ったが、四年間という約束をすれば目を潤ませながらも笑顔で送り出していた。
それから梵は初めて一人と自由を得たのだ。
生きることが不得手である彼だが、武道以外の裁縫と言うものを体験し、それなりに話せる友人も出来た。
そこで彼は気づいたのだ。
――あぁ、俺は、自由に、なりたかったのか
自由に何かをしてみたい。自分で自分の道を決めてみたい。自分の好きなことを見つけたい。
そこで初めて、細流梵には欲が生まれた。自由が欲しいと言う欲だ。
しかしそれは叶わないと同時に悟る。
今の彼が手にしているのは期限付きの自由だと。大学を卒業すれば道場に戻り、父の補佐として師範業を学び、第十三代細流の当主になる。
梵が見た未来は決まっていた。
それを変えたいと彼は思わない。
思わないけれども、この自由をいつかは手放さければならないという事実は梵に生への無頓着を植え付けた。
アルフヘイムの戦士に選ばれようが、負ければ死んでしまおうが、梵はどうでもよかったのだ。
生きていたところであるのは決められた未来だけ。それを梵が望んだことはなく、しかし何かを欲しがる気持ちもありはしない。
そんな中で出会った、アルフヘイムのチームメイト。
――自分を駒とする帳から、梵は離れたいとは思っていなかった。
梵が少年を恨んだことはなく、細流以外の意味を与え、発散出来ない強さを持つ自分を少なからずも必要としてくれる相手に出会えたことは貴重なことだ。
帳がきちんと周りを見て、誰かの為に力を使える者だと知っている事も大きいだろう。
――いつも不安そうな祈を梵は弟と重ね、守っていたかった。
話したことなど両手で数えられるだけであっても、自分が家を出るのを泣いて惜しんだ添義と、自分や仲間に必死に着いてこようとしてくれる祈は梵にとって必要なのだ。
今まで守ったことがなかった添義を守るように、梵は祈を守っていたい。
――毎日自信がなさそうで、自分が壊れてしまっても進む氷雨を梵は支えていたかった。
自分と比べればまるで大木の根の隅に咲いた花のようにか弱い氷雨は、しかし梵が持たない強さを持っていると知っていた。
その姿には一種の尊敬すら抱き、砕けそうな危うさを梵は止めてやりたかった。
そして、梵が救いたいと思った茶髪の少女は――彼にとっての唯一であった。
今まで守られたことが無かった梵を守った初めての存在。守りたいと思っても一人で背筋を伸ばして進んでしまう可憐。その眩しすぎる姿が梵は愛おしくて、必要とされなくとも傍に居たいと微かに願ったのだ。
その手が、紫翠が、梵の見えないところへ連れ去られてしまう。
握り締めた手が折れそうで、一瞬でも力を弛めた自分に梵は愕然とした。
周囲を見渡せば帳も、祈も、氷雨もいない。
更地の中にあるのは梵が薙ぎ倒したムオーデル達がいる城と、相良と、梵だけ。
溢れるように梵の体の中に充満した感情。それは不快感であり、焦燥であり、激昂でもあった。
梵は自分の筋力を倍にして、倍にして、倍にする。
拳をこれでもかと握り締めて地面を殴れば、大きな亀裂が放射線状に入れられた。それに相良は驚き、梵は自分の皮膚の硬さを倍増化させていく。
鋼のような拳は地面を殴り、相良は奥歯を噛んだ。あまりにも無鉄砲な梵の姿を相良は見ていられなかったのだ。
「ッ、細流さん!」
相良は梵の腕を掴んで地面を砕くのを止めさせる。梵はただ一点だけを見つめており、その体から滲み出る憤りを相良は痛いほど感じていた。
だが、ここで冷静さを欠けば相手の思う壷である。相良は必死に頭を働かせ、梵に言っていた。
「……落ち着いてください。ここで地面を砕いたって、そこにあるのは土かもしれない。城の中みたいに地下に行けたって何処を目指すって言うんですか。冷静でいないと、解決するものも解決しません」
梵は奥歯を静かに噛んで立ち上がる。それから振り返り、相良を見下ろした。
その目に感情は見られない。相良は唾を飲み込み、口の渇きを紛らわせようとしていた。
「ならば、どう、する」
静かな声だ。
まるで人形が記録された言葉を吐くような、感情を埋め込み忘れたような声だ。
相良は梵を見上げ、いつも何を考えているか分からない男は、自分の左胸を掻き毟るような仕草を見せた。
「また、連れて、行かれた。戻ってきた、と、思った、温かさが、消えて、しまった。奪われたく、ない、存在が、奪われて、しまった。だから、取り返さねば、ならない。そうしなく、ては、いけない、んだ」
片言な喋り方で相良に伝える梵。その大柄な体躯とは打って変わって、まるで梵は小さな子どものようだと少年は感じていた。
梵は、何かを耐えるように言葉を吐き出す。
「俺に、とって、あいつら、は、かけがえが、ないん、だ。何にも、変えられないん、だ。守らなけれ、ば、救わなけれ、ば、俺は、耐えられ、ない。俺の、力、なんて、意味を、なさないんだ」
相良は梵を見つめる。ディアス軍の戦士は能面のような顔に感情をちらつかせ、ルアス軍の戦士は頷くのだ。
「救いましょう。俺にだってあいつらは守りたい対象なんです。俺に笑ってくれて、敵対する軍であっても戦おうとか倒そうとか、そう言うのなかったし。それが嬉しくて、だから俺は」
「守りたい、のは、氷雨、だけだろ」
相良の言葉を梵が遮る。言葉を強制的に止めさせられた少年は口を結んで、敵軍の戦士を凝視した。
梵は、途切れる言葉を必死に繋げていた。
「知って、いた。相良、お前が、守りたいのは、氷雨、だけだ。祈を、守ろうと、するのは、それは、誰かからの、頼まれごと、なんだろう。お前が、本当に、守りたいのは、お前の、唯一の、友達だけで、」
「そうだよ」
今度は相良が梵の言葉を遮る。白い衣装を身に纏った少年は、両拳をこれでもかと握り締めていた。
「俺が救いたいのは、俺を救ってくれた凩だけだ! けどそれがなんだよ! 敵軍だろうがなんだろうが、少しの時間でも共有した奴らを救いたいって思って悪ぃかよ!!」
相良の脳裏に浮かぶのは、自分に絆創膏を渡してくれた氷雨。
自分が何の気なしに届けた手帳を、嬉しさを伝えてくる笑顔で受け取ってくれた少女。
彼女を守れるようになりたくて、守っていたくて、アルフヘイムで出会った時にボロボロになっていた少女を救いたくて、相良は今まで歩いてきた。
それを相良は伝えていない。
だが、自分を受け入れてくれた祈も紫翠も、邪険にしながらも現実と前を向いている帳も、相良にとっては大切な友人なのだ。
それを救いたいと相良は思って、梵に言葉をぶつけていた。
梵は目を微かに見開いて呼吸をする。
相良は地面に視線を走らせて策を練った。
梵は自分を落ち着かせていく。落ち着かせる為に呼吸して、頭に血液を回す。
彼は一度目を伏せて、瞼を上げ相良に頭を下げていた。
「すまない……力を、貸して、くれる、か? 相良」
相良は頭を下げられたことに慌て、梵の顔を上げさせてから頷いていた。
「当たり前です。まずあいつらが何処に連れて行かれたか、ムオーデルの目的は何なのかが知りたいところっすよね」
「目的、なら、ムオーデルから、聞いた」
梵はさも当たり前と言わん態度で頷き、相良は目を丸くした。梵は、暗い地下で壁に押し付けたムオーデルが呟いていた言葉を思い出す。
「心獣、だ」
「……心獣?」
相良は疑問形で単語を繰り返す。梵は頷き、城の中にいるムオーデル達が起き上がり始めた姿を見ていた。
「ムオーデルは、心獣を、欲しがって、いるんだ。それを、知ったから、紫翠は、祈を、帳は、氷雨を、気にかけて、いた。俺は、頭に血が、上ってしまって、いた、が」
梵は心中で自分を戒める。
小さな二人が攫われたのに何も出来なかった自分に、腹が立っていたとそこで知るとは思わずに。
梵は自分の感情に無頓着過ぎる。
それは試合に出る中では利点であっても、生きる上では欠点だ。
梵は理解しながら地面を強く蹴り、相良を飛び越え、城の中で剣を構えたムオーデルの首に蹴りを入れる。
首が何回転もしたムオーデルは呻きながら倒れ、刃こぼれした剣を振り上げた住人に、一歩早く梵は拳をお見舞していた。
狙うのは顎。紫翠の手裏剣をすり抜けたムオーデル達は、素手での攻撃は避けられない。
梵は上から下へムオーデルを殴り飛ばし、住人は地面にめり込んでいた。しかし、梵が開けた地下へ通じる穴までは遠い。
ならば、
「相良」
梵は、容赦のなさに呆然としていた相良に手を差し出す。その意図を汲んだ少年はもう、間違えない。
二人は手を握っていた。
そうすれば二人は瞬きの間に地上から消え、祈と再会した地下の部屋へと転移する。そこにムオーデル達の姿は無い。
相良は幾つもある扉を見比べ、その違いのなさに舌打ちした。
「くそ、何処にいんだよ」
「向こう、だ」
相良が愚痴を零した瞬間に走り出した梵。
金髪の少年は「は?」と驚きながら、扉を蹴破っていく屈強な戦士を追いかけた。
「細流さん、なんでこっちなんすか!」
「聴覚を、倍増化、させ、た。そしたら、この、道から、りずの声が、聞こえてきた」
「マジっすか」
「今も、聞こえて、いる」
そう言われても、相良には自分達の駆ける音しか聞こえない。
梵の倍増化と言う力の凄さを目の当たりにした相良であったが、それは梵だからこそ使えているのだ。
これがもし帳や祈であれば、毎日筋繊維が耐えきれず切れているだろうし、聴覚など倍増化させた日には音に埋もれて発狂してしまう。
この力は、梵だからこそ与えられた。
それを知らない相良は前を走る大きな背中に着いていく。
足の速さが違い、体力無尽蔵の梵に二百mでも着いていけたら賞賛ものだ。
相良は途中から梵の後方への転移へ変え、何とか梵に着いて行った。
梵はそんな相良に気を回す余裕もなく、目の前に見えてきた頑丈そうな扉を蹴破っていく。
物をすり抜けられるムオーデル達に、こんな扉を作る意味は無いだろうと思いながら。
彼が飛び込んだ先にあったのは――硝子で出来たハートを掴んでいるムオーデルの姿。その足元に倒れている氷雨。
硝子のハートからは緋色の液体が流れ出ており、彼女の心獣の姿はそこにはなかった。
梵は氷雨の奥に倒れている祈にも気が付き、青色の心電図のような線が流れるハートを持ったムオーデルを見た。ルタの姿は何処にもない。
梵は最後に、壁際に座らされ、両腕を体の横で壁に埋め込まれている紫翠と帳を見た。
帳の前には、形が崩れ、大きな穴が中心に空いている寒色のハートが転がっている。少年の意識は無いようだ。
そしてその隣には、涙を流している少女がいる。
「細流……ッ」
紫翠が梵を呼んだ。
梵の頭が鈍器にでも殴られたような衝撃を受け、口から冷たい言葉が零れていく。
「――退け」
それは、自分の仲間を囲んでいる住人に対して。
彼らは梵の方へ振り返る前に、その体が吹き飛ばされていた。
壁に衝撃音を立ててめり込んだムオーデル。その手からは硝子のハートが転がり落ち、梵の拳は関節が白く浮くほど握られていた。
ムオーデル達が剣を振り被る。
梵は裏拳で剣を折ると、甲高い金属音が響いていた。
殴り、蹴り、穿ち、めり込む住人達。
梵は、破壊の者へと姿を変えた。
彼の目の前が鮮明に空間を捉え、体の筋力は秒を重ねる毎に疼いていく。
青年のこめかみには青筋が浮いており、ムオーデル達の顔が潰れようが、腕が捻れようが関係なかった。
彼は硝子のハートと心電図のハートをその手に掴む。
相良はその圧倒的強さに一種の感動を覚えながらも、直ぐに正気に戻って転移した。
「ッ、凩!! 闇雲ッ」
少年は一方的激戦の中で氷雨と祈を抱える。二人は気絶しているようで、顔色が酷く悪かった。
紫翠と帳の前に移動した相良は切羽詰まった声で、唖然とする少女に聞いた。
攫われていた四人の中で一人だけ意識を保っている紫翠に。
「どうなんってんだよ! 凩と闇雲は……ッ!!」
「ッ、りず達が戻されたのよ、あのハートの形にね」
紫翠は涙を止めて悔しげに伝え、自分の斜め前に転がっている帳の心を見た。
身動きが取れない少年の鳩尾から心を引き抜いたムオーデルの姿は、自分の心に力を植え付けた兵士に似ていたと思いながら。
「戻されたって、ッ」
「そのままの意味よ。心に力を埋め込む体感系も、心を獣に具現化する心獣系も、心を取られちゃ意味ないわ」
「でも最初、兵士に心を抜かれた時はこんな気絶なんて、俺してねぇぞ!」
「私もよ。と言うより、兵士が作った心獣を心の形に戻すのも、戦士から力ごと心を抜くのも何でムオーデルに出来るのよ」
「んなこと知ら――」
相良の言葉を止めさせたのは弾け飛んできた剣の刃。それは染められた金髪を数本切り落とし、壁へと突き刺さっていた。
「相良」
呼ばれた相良は硬直を解いて前を見る。そこには硝子のハートと心電図のハートが投げ込まれて、少年は二つを反射的に受け止めた。
「持って、いてくれ」
相良の前に立つ梵。
彼は紫翠を見ると、止まった涙を確認していた。
「翠」
梵は静かに少女を呼ぶ。呼ばれた彼女は黙って梵を見つめており、青年は言っていた。
「待ってろ」
その短い言葉が紫翠の前を明るくする。
梵は地面を蹴ると、蹴破った扉や壁からすり抜けてくるムオーデル達を薙ぎ倒していった。
皮膚が避ける音。骨が折れる木霊。血飛沫が飛び散る様。人形のように倒される住人。
梵は拳を奮った。
今まで、誰にも負けたことがない拳を。
誰も救えなかった拳を。
光や博人に谷底で出会った時、梵は仲間を守れなかった。
相良がいなければ今まで集めた生贄を守ることも出来なかった。
業火の中で叫んだ仲間に言葉の一つもかけられなかった。洞窟に行ってしまった友人の変化を察する力がなかった。厄災を呼ぶ妖精を探していた時、一足遅くチームメイトに合流してしまった。
宝石に変えられる交戦の中で、少女のことを何も見れていなかったのだと知った。
そんな悔しい思いを二度としたくない。大切な仲間を奪われたくない。やっと見つけた自分の居場所を崩されたくない。
梵の空っぽだった心がいつの間にか満たされて、それに青年は今更ながら気づいてしまう。
満たされていたのに、満たしてもらっていたのに、それに自分は何も返せていないとも彼は思う。
――明日を、望んで、何が、悪い
(あぁ、そうだ)
青年の頭の中には、いつか溢れた言葉が蘇る。
彼は明日を望んでいた。
それぞれに痛みを抱えた仲間との、輝く明日を。
「俺の、未来を、仲間を――返してもらう」
梵は腰を落として拳を握り、洗練された突きをムオーデルにお見舞する。
住人は軋んだ音を立てながら壁に深く深くめり込み、動作を止めた。
青年は構えを崩さぬまま視線を他のムオーデルに向け、落とされた剣の音を聞いていた。
住人達が膝を折る。
称えるように梵を囲んだムオーデル達から、戦意はもう感じられなかった。
壁に入った幾重ものヒビが広がり、繋がり、天井の一部が崩れ落ちる。
見えたのは土の側面と、城の外壁。
橙に染まった広い空。
ムオーデル達はその日を避けるように陰へと低い姿勢のまま移動し、梵は振り返った。
圧倒されている相良と紫翠で視線を止める青年。
相良は、無意識に呟いてしまっていた。
「……すっげ……」
知ってるかい。不器用で、無頓着で、片言で、それでも君達を愛している、子どものような青年がいてくれたということを。
ムオーデルって、実はシュリーカーとは違った意味で情報が少ない住人なんだってさ。次回でちゃんと書きますね。
次回にて、「豪然たる守護者」編及び、第二章が終了します。
明日は投稿お休み日。
明後日投稿、致します。




