意見
剣を折ったその先で。
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2020/01/27 改稿
2020/01/29 ルビ追加
男の人の剣が折れた瞬間、騒がしかった私の周囲は静まり返った。
息が上がって胸が痛い。らず君は輝きを強めて私の呼吸を落ち着かせてくれて、りず君は褒めてくれた。
「よく言った、氷雨」
「……うぃ」
笑って、頷く。
折れた剣を持つ彼は固まって、りず君は針鼠に戻ってくれた。女性のように聞こえる声が後ろからする。
「ならばこの先……どうしていけばいいの」
振り返れば、赤い肌に涙を零す女の人がいた。近くの同種であろう方々に肩を抱かれて、彼女は言う。
「家族と離されて、奴隷にされていた私達にどうしろというのッ! 何も恨むなと貴方は言うの!? そんなこと、出来るわけないのに!!」
膝から崩れ落ちた彼女の咽び泣く声がする。それがシュスに広がることで喧騒を落ち着かせていき、私は鳩尾が痛くなった。
何も恨むな、なんて言えない。幸せになって欲しいだけなんです、なんて望めない。それは私の勝手なエゴなのだから、口にすることだって烏滸がましい。
私は鳩尾を押さえながら彼女に近づいた。
何も経験しないまま鎖を切った私は、諭すことなんて出来はしない。寄り添うことも許されない。彼女達と対等であると言えはしない。
考えながら女性の前に膝をつく。彼女の首には、壊れた首輪がかかっていた。
私はそれを見て、努めて笑ってしまう。
あぁ、不謹慎な顔。
それでも笑顔は、相手に敵意は無いのだと伝える道具になってくれるだろうから。
「奴隷でいた頃は……苦しかった、ですか?」
「えぇ、えぇ、勿論」
「悲しかった、ですか?」
「とても、とても、悲しかったわ」
止まらない涙を拭きながら女性は答えてくれる。彼女の服にも血はついており、爪は赤黒く変色していた。
過去は変わらない。変えることなど出来はしない。前を向けとは言えない。
それでも、後ろを向いて嘆かないでと私は言いたいから。
これは我儘だ。
私の醜いお節介だ。
「……その、苦しいや悲しいは、今も続いていますか?」
問いかける。
女性は目を見開いて私を見上げる。彼女の口は開閉されるが、言葉は出て来なかった。目からは涙が零れ続けている。
私はその涙を指先で拭い、彼女の答えを待っていた。
「……わからないの」
言葉尻が萎んだ、弱い声だった。
彼女は私の手を掴んで顔を伏せ、大きな声で泣き続けた。
「わからない、わからない、もう何もわからないわ! 鎖は切れた、私を繋いでいた人はもういない!! もういないのに、それなのに、どうしてこんなに苦しいの!? 殺した時に救われると思ったのに、残ったのは虚しさだったわ!!」
私の手を痛いほど握って離さない彼女の訴えを、真正面から受け止める。
悲痛な言葉は私に刺さり、だからこそ目を逸らすことは出来なかった。
彼女は大きな呼吸をして泣き続けてしまう。周囲からも鼻をすするような音が聞こえ始め、不意に後ろから声が降ってきた。
この声は、剣を折った彼の声だ。
「殺す度に、体の中に穴が空いていくようだった。剣が血で濡れる度に、訪れたのは言い知れない嫌悪感だった」
振り返った先では、無表情に佇む彼が泣いていた。
とめどなく溢れる涙を私は見つめ、彼の人の手からは折れた剣が落ちた。彼の手も服も血塗れだ。
「怒りしかなかった。殺したかった。だから殺した。それならどうだ、殺した後は何をしたらいい。殺した先に道など無いのに、分かっていても止められないこの衝動を、どうすることが正しいのだ」
その答えを、私に求めるのか。
そう問うことは出来なくて、私は口を閉じる。顔を片手で覆った彼の横には兵士のウトゥックさんが並んだ。
「私は同種を見殺しにした。彼らと共に……殺しもした。奴隷がいなかった自分を蔑む同種より、自由を求める彼らの方を、私が望んでしまったのだ」
彼は苦しそうに眉根を寄せて、私を見下ろしている。色々な感情がごちゃ混ぜになったような目は、私の呼吸さえ奪いそうだ。
「君達が変わる引き金を引いてくれて……安堵する自分がいる。こんな私はもうウトゥックを名乗れない。だから教えてくれ、崇高な戦士よ。私達はどうしたらいい。私達の前に、まだ道はあるのか?」
そんな答え、私は持っていない。
現状を作りだした元凶たる私には、彼らが求める答えが無い。だが、そう伝えることは無責任だ。
いいや、この作戦が元より無責任だったんだ。これは全て私の為だ。生贄を探す為だ。私が明日を生きる為だ。それだけだ。
彼らの人生なんて、私は何も考えていない。
そう思う私の代わりに喋ってくれるのは、いつも決まってりず君だ。
「その答えを、俺達に求めんな」
誰かの喉が息を吸った音がする。
りず君は続けてくれた。
「お前達は俺達に何をしてほしいんだよ。酷い奴だって罵られたいのか? 前を向いて生きれば良いことがあるって励まして欲しいのか? お前達は間違っていなかったと賞賛してほしいのか? 生憎だが、俺達は俺達の人生だけで手一杯だ。お前達の道まで示してやれない」
彼の言葉は、私の思いと同義だった。
私は私が一番可愛い。彼らの鎖を切ったのも、生きて欲しいと願ったのも、私が苦しくなりたくないからだ。彼らの為ではない。私の為だ。
「私達は駒であり、戦士です。このシュスに狙いをつけたのは奴隷制度を強いていたから。それならば悪がいると思ったから。貴方達の鎖を切ったのはその延長線上です。私達の道徳上、奴隷と言うのが許せなかった」
私の手を握っていた彼女の手が震える。
端的に考えよう。難しく考えてはいけない。私は聖人君子ではないのだから、彼らに希望を与えてはいけない。希望を見つけることは、自分自身でしなくてはいけない。
「私達は、悪人を生贄にすると決めました。シュスの誰もが悪だと叫び、私達の尺度で測った時も悪であると判断したその人。結果、ウトゥック・シュス・ノインでの悪はあの七の王であると決めました。順序は逆になりましたが、私達が悪だと思った王の中で、シュスに住む貴方達が救わなかった人。それが七の王様だから、私達は彼を連れて行きます」
らず君の輝きが弱まっていく。私は深呼吸して、握る彼女の手を包んだ。生きてると思わせてくれる、温かい手を。
「このシュスを、滅ぼすつもりはありませんでした」
目を伏せる。
口を結んで息を吐いて。早鐘を打つ心臓は落ち着いてくれない。
「ここまで大勢の方を殺すつもりも、ありませんでした」
これは私の罪ではない。結目さん達はそう言ってくれた。
それでもやっぱり、私は気にせずにはいられない。背負わずにはいられない。
自分に自分で負荷をかけ、私は言葉を口にした。
「――これは、私の罪だ。だから背負っていかなくてはいけません」
目を開ける。
そこには、涙の止まった美しい女性がいた。
私は自然と笑ってしまう。
「もう貴方に鎖はありません。だから……思うようにすればいいと、思います。私達からあの王を奪いたければ、追いかけるなり何なりすればいい。私達はそれに抗います。泣きたければ泣けばいい。誰にも貴方の涙を止める権利はないと思うから」
足に力を入れて立ち上がる。彼女の手から自分の手を引き抜いて。
周りを見るけれど、私達を攻撃しようとする人はいなかった。
だから安心して、空から降りてくる緋色の翼を見る。その翼に連れられている美しい彼女も視界に入れて。
「これは私の持論です。聞き流してくれて構わないし、信じてくれなくて結構です。それは間違っていると思って頂いたっていい」
笑って肩を竦める。
私は、私が正しいと思うことしか出来はしない。私が不安にならないようにするだけで精一杯だ。
「生きることに、救いなんてものはない」
母の白い手袋を思い出す。
とても無口な父の声を最後に聞いたのは、いつだったか。
私は手を握り締めた。
「自分を守るのも、救うのも、希望を見出すのも、自分で成さねばそれは嘘だ」
私の横に着地した楠さん。彼女は私を見つめて、ひぃちゃんは肩に戻ってきてくれた。
私は楠さんに微笑んで、彼女は手を差し出してくれる。ひぃちゃんの尾は私の腹部に回った。
私は楠さんの手を掴んで目を伏せる。
「連れていきますね。王様」
楠さんの手を引いて彼女を横抱きにする。
「疲れたわ」
小さく息を吐いた彼女に苦笑してしまう。
ひぃちゃんが羽ばたいて、私の足は地面から浮いた。
「望む人は追いかけてきてください。その時は私が、力づくで阻ませていただきます」
らず君達の力を借りて、だけれども。
私は笑ってその場を飛び立つ。
「ありがとう。おかえり、ひぃちゃん」
ひぃちゃんに伝えると、お姉さんは笑ってくれた。
光を反射したひぃちゃんの首輪が輝いている。綺麗なその光りに安心して、私の心臓も落ち着いていった。
シュスに充満していた殺気も怒気も今は薄らいだ。ここを去るならば今しかない。
結目さんと細流さんを探すと、結目さんはシュスの塀に立って欠伸をしていた。その姿にため息を吐いてしまう。
呆れている中で視界に入ったのは細流さん。彼は素手で塀をよじ登っていた。物凄いスピードで。
私はその姿を二度見してしまう。
「え? 細流さん……?」
「指の皮膚の硬さと腕力でも倍増させてるんでしょ。本当に脳筋ね」
楠さんは冷静に解説してくれて、私は「あー」と言葉を零す。
塀に足を着いて楠さんを下ろすと、ちょうど細流さんも到着した時だった。結目さんは眠たそうな顔で笑っている。
「やっと来たー」
誰のせいだ、誰の。
とは、口が裂けても言えないんだよなぁ……悔しい。
私の思いを端的に口にしてくれたのは楠さんだった。
「ふざけんじゃないわよ、傍若無人」
「はは、あの程度で狼狽えんなよ。一人じゃ何も出来ない女王様」
「何様かしら」
楠さんの絶対零度の空気が結目さんに刺さっているのが見える。そして残念ながら刺されている本人はどこ吹く風だ。
私の方が刺さってる。痛い、怖い、楠さん、楠さん、落ち着きましょう。お二人は昨日のやり取りからして、余り馬が合わないのではないでしょうか。
結目さんは笑いながらため息をついているし、器用な人だ。
「凩ちゃーん、なーんでその毒吐きちゃんにドラゴン貸しちゃったの? それが無かったら毒吐きちゃん終了してたと思うんだけどな〜」
結目さんの風に髪を引かれる。
多分、今は怒っていない。呆れているというか、探っている段階だろう。
微笑んだ私は、浮いている髪を掴んでおいた。
「その、一体多数の場合、楠さんは機動力があった方がいいのではないかと……勝手に判断した結果です」
「はいお人好し〜」
髪をより強く引かれて「ぃたた」と声が漏れる。結目さんは「ほんと理解できなーい」と笑うから、冷や汗ものだ。私は引き攣って笑い続けてしまう。
良いではないですか、結目さんに害はないんですから。とは思うが、何か害になっていたならば申し訳ないな。
「やめてください」
「氷雨を苛めんじゃねぇぞ!!」
「あーぁ、ドラゴンも針鼠もうるさいなー」
ひぃちゃんとりず君を無視する結目さん。私の髪は自由になり、曲がっていた背中を戻すことが出来た。
ひぃちゃんの尾は私の背を撫でてくれて、らず君とりず君は頬を撫でてくれる。「ありがとう」と口にしながら可愛いみんなに笑ってしまった。
それから笑顔の結目さんを見て、少し頭を下げて笑う。
「すみません……」
「なんだろうなー、凩ちゃんはなんでそんなに面倒くさいことに気がつくのかなー、心配になるなら気づかなかったらいいのに」
笑いながら私を見つめる結目さんは、後ろへ塀を蹴って王様と一緒に身投げする。柔らかく飛ぶ彼はそのままシュスから離れて行ってしまったので、私は苦笑したまま息を吐いた。
その時不意に、両肩に手が乗せられる。それに驚いたけれども、乗せた二人の声を聞いて驚きは直ぐに失せた。
「ありがとう、さっきは助かったわ」
一つは楠さんの手。彼女は直ぐに手を離して目を伏せていた。
「氷雨は、凄いな」
一つは細流さんの手。彼は私を見下ろして無表情に頷いていた。
私は口を噤んで下を向く。口角だけは上がって、視線は空を進む結目さんに向いていた。
行かなくてはいけない。彼に続かなくてはいけない。
そんな使命感に掻き立てられ、私の背中ではひぃちゃんが翼を広げてくれた。
「着いて行くの?」
問われる。楠さんに。
見ると彼女は腕を組んで、私を見つめていた。
「あれに」
楠さんが顎でさしたのは結目さん。私も結目さんを見て目を細めた。
彼は優しい人ではないのだと思う。まだ一緒にいて三日目だが、そう感じざるを得ないことは多い。彼の力は確かに強いし、私がいなくたって支障はない。
思うけれど、結目さんの言葉が私の中を巡るから。
楠さんを見上げて笑ってしまう。彼女の目はどこか探るような色を浮かべていた。
「行きます」
それだけ答えて、私の足が塀から浮く。
ふと思ったのは、このあと楠さんはどうするのだろうという事だ。細流さんはチームになろうと言っていたから、恐らく一緒に行動していくわけなのだが。楠さんの立ち位置が未だに私は分かっていない。
彼女は凛々しく、強く、美しい。
そんな彼女をもっと知りたいし、勉強させて欲しいし、言葉を交わしてみたい。
出来ることならば「共に行きませんか」と言いたいのに、聞く勇気がない私は弱虫だ。
楠さんと同じくらいの目線になり、黙って見つめる。彼女も私を見つめ続けて、間に言葉は無かった。
私の口は開閉を少し繰り返し、差し出したい手は宙をさまよう。
「一緒に、行かないか、紫翠」
そう言ってくれたのは、細流さんだった。
楠さんと私は細流さんを見上げて、彼は無表情に楠さんを見ていた。
「俺も、氷雨も、紫翠が、一緒なら、心強い」
細流さんの目が私を見るから何度も頷いてしまう。
彼の言葉は私に勇気をくれた。
だから笑って、私は楠さんに言えるのだ。
「是非、お願いしたいのですが……その、どうでしょう?」
微かに目を丸くした楠さんが細流さんと私を見比べる。それから瞬きをすると、仕方なさそうに息をついていた。
「運んでくれるんでしょうね?」
その確認が嬉しくて、私は速攻で「はい!」と頷いた。
顔が自然と緩んで頬が紅潮するのが分かった。りず君やらず君も喜んで、ひぃちゃんが「お任せを」とお辞儀してくれる。
あぁ、嬉しい、嬉しいぞ、これは困った嬉しいな。ありがとうございます楠さん、細流さん!
私の手は楠さんの手を掴んで、満面の笑みを向けてしまっているのだろう。
「よろしくお願いします、楠さん」
「よろしく、紫翠」
「よろしく、凩さんと脳筋」
楠さんは息をつき、私は彼女を横抱きにしようとした。細流さんは塀から飛び降りる気満々のご様子だし、きっと大丈夫なんだろう。
さぁ行こう。生贄は決めた。このシュスに居続ける理由はない。
「緋色の戦士!!」
緋色。
それは、私が信頼するお姉さんの色だから。
反射的にシュスの中を見てしまう。
そこに残る住人さん達がこちらを見上げていた。真剣な顔で、真っ直ぐとした瞳で。
追いかけてきますか。それでもいいですよ。私は相手をすると言いましたから。
一瞬手足に力が入ったが、私と目が合っていた人の表情が柔らかくなるから。入れた力は不必要だと思ってしまうんだ。
「――背負わなくていい!!」
肌が――泡立った。
雷に打たれたような衝撃に体が揺れる。
与えられた言葉が脳裏を巡って、視界が揺れる。
目の前が微かに滲む。
そんな許しを得られるようなことを何もしていない。私はその言葉を貰うには値しない。
そう否定が出来なくて、口は自然と笑って、千切れた鎖を持ち上げる住民さん達を私は見下ろした。
様々な人が声を上げてくれる。
「君に罪はない! これは我々の罪だ!! 自由を得た手足でしたことは、命を奪うということだった!!」
「利害の一致したウトゥック達と共に我らは進もう!!」
「だから貴方もどうか、振り返らないでッ」
その言葉と同時に歓声が上がる。残されたウトゥックさん達の目は輝いて、同族の死を悼んではいない。
彼らは――前だけ向いていた。
「君は気負わず進んでくれ!! この場のことを忘れてくれ!! 君は何も、背負わなくていい!! 私達の覚悟が変わらぬうちに、その王を――連れて行けッ!!」
私が剣を折った彼の言葉が胸に刺さる。
背筋を伸ばすと、泣いていた彼女が手を振ってくれているのが目に入った。
武器を捨てて、握り拳を解いた手が見える。
私は無性に泣きたくなって、彼らに頭を下げるしか出来なかった。
奥歯を噛んで楠さんの手を引き、踵を返す。彼女を抱いて宙に飛び込むと、ひぃちゃんが力強く翼を羽ばたかせてくれた。
細流さんは塀から飛び降りて、轟音と共に地面に着地している。
宙で逆さまになって目を瞑っていた結目さんは、目を開けて口の端だけ笑っていた。
「終わった?」
問われるから、私も笑うんだ。
もう気にしないように、不安にならないように、自分を叱咤して。
「はい、お待たせしました」
「ま、良いよ。急ぐこともないし」
欠伸した結目さんは「それよりもさー……」と、冷え冷えとした目を楠さんに向けた。
「それ、連れてくの?」
それとはまた失礼な。
私が「結目さん……」と言うのとほぼ同じタイミングで、楠さんは「勘違いしないで」と言っていた。私の肝が冷える。
「貴方について行くんじゃないわ。私は凩さんと脳筋について行くの」
何の濁りもない言葉が、嬉しいと思わせてくれた。
私は自然と楠さんを抱く力を強めてしまい、それでも彼女が苦しくてはいけないと直ぐに力を緩めた。
結目さんは鼻で笑い、自分のこめかみを指で叩く。上下逆さまだった体を私達と同じ向きに直して。
「運んでもらわなきゃ進めない分際で、癪に障る言い方すんなよ」
「人の劣っている部分しか見つけられない貴方に何を言われても、どうってことないわね。今こうして運んでもらってるのは合意の上よ」
楠さんが私を横目に見てくるから、頷いて笑ってしまう。
凛々しく自立する彼女の足になれるのは光栄なことだ。
ひぃちゃんも「お望みならば」と笑ってくれる。
結目さんは深めの息を笑顔でつき、後ろでは八つ当たりと言わんばかりに王様が回されていた。勢いよく。玩具のように。
いやいや意識がないからと言ってそんなことをしてはいけません、結目さん何やってるんですかッ
私が「結目、さん」と引き攣りそうな声で呼んだ時、地面が砕けるような音を下から聞いた。地面は下なのだから当たり前だけれども。
「次は、」
私達の横に並び、一言残した細流さんが落下していく。
彼は地面に着地すると膝を深く沈め、跳躍し、再び私達の横に一瞬だけ並んだ。
「何処に、」
また落ちる。
着地して、跳んで、また並ぶ。
「行く?」
そう言って、再度落下した細流さんが竜巻に巻かれた。私の心臓は慌ただしく鼓動して、平然と破壊的な跳躍をし続けていた細流さんを凝視してしまう。
無表情に超ジャンプを繰り返していた彼は風に巻かれ、結目さんは「あんたさぁ……」と呆れていた。
「……ま、いいや」
「すまない?」
疑問形で謝る細流さん。
いや、その、細流さんが謝ることは何もないと思うんです。私達がもっと気を利かせて早く下りれば良かっただけだと思うんです、ごめんなさい。
大変申し訳なくなって「すみません、細流さん、気が利かず……」と謝罪してしまった。
細流さんは真顔で首を傾げ、私を見つめてくる。
「何に、謝られたんだ?」
「ぇっと……その、もっと気を利かせて、細流さんの元まで下りればよかったと思っている次第、です……」
苦笑しながら視線を伏せる。すると細流さんは「あぁ、そんなこと、か」と淡々と言われていた。
「氷雨は、いい子だな、ありがとう」
やっぱり真顔で褒めてくれた細流さん。
私は驚いて、視線を下げて、首を傾げて、笑ってしまった。
振り返らずに、飛び去った。
次回、祭壇にて。




