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僕らは痛みと共にある  作者: 藍ねず
最終章 乱れた常磐の歯車編
183/194

責任

それは、走馬灯のようなもの。

----------

2020/04/27 改稿

 


 中立者が初めて目覚めた時、世界には誰もいなかった。


 存在していたのは鉱石と歪んだ大地だけ。広大なそれらを無意識に「整えないといけない」と考えた中立者は一人で歩き出した。


 誰も知らない花畑の中を、たった一人で歩き出したのだ。


 それが彼の始まりであり、今日まで続いている(せい)である。


 様々なものを創り世界を整えた中立者。整えなければこの世界が崩れると知っていたから。生まれながらに理解していたから。彼は世界の為に動いていた。


 けれどもそれを褒める者はいない。褒めるということを誰も知らない。


 世界に一人ぼっちの中立者は、整い終わった世界を見つめても何も思わなかった。


 ある日、ふと彼の腕を引くような感覚があった。見上げたのは彼が整えた空の中。そこにある黒い穴。それが中立者には見えた。創るのに綻びがあったと考えた中立者ではあったが、その穴の先が気になった。


 だから彼はそれを塞ぐ前に通ったのだ。誰もとがめる者はない。何故なら彼は一人だから。一人でいることを自由ととるか孤独ととるかはその者次第だろう。


 ――中立者が穴の先で見たのは、彼の世界ほど輝いてはいない世界。


 輝かしくもなければ煌びやかでもない世界。


 それでも確かに、命に溢れた美しさを持った世界。


 中立者の世界と繋がっていた山に足を着き、彼はその世界を食い入るように見つめていた。


 自分と同じように二足で歩く生き物。あの大きな物はなんだろう。そこから出入りする生き物もいれば四足の生き物もいて、声や音が溢れてる。


 中立者は生き物達の言葉を理解する為の器官を耳に創り、観察を続け、自分のように色が変わる髪や紫色の目の者はいないとどこかで落胆した。


 自分の世界にも、自分以外の何かが欲しい。


 考えた中立者は自分の世界に戻り、初めて生き物を創った。漆黒と紅蓮を持つ者と、純白と紺碧を持つ者を。その色合いが綺麗だと彼は思ったからだ。


 目覚めた二人を中立者は「黒」と「白」と呼んでみた。渡った先の世界で、自分が創った者が持つ色をそう呼ぶ声を聞いたからだ。


 黒と白は人形のように中立者の後を着いて回るだけだった。それに違和感を覚えた中立者は再び世界を渡った。それに黒も白も着いてくるものだから、彼は二人の耳にも新しい器官を作る羽目になっていた。


 いつも降りる山に足を着き、中立者は気づく。


 自分達を見つめる生き物がいることに。


 桜色の布を着た黒い髪の生き物。その目は色素が薄く、中立者が今まで見た生き物の中には無い色だ。


 物珍しさで中立者は生き物を見つめた。今まで生き物を見てきたが、こうも近づいたことはなかったから。目を丸くしている生き物は唇を震わせ、持っていた木片を落としていた。


「……か……神……様……?」


 聞き慣れない言葉に中立者は首を傾け、慌てる生き物に喋りかけようとして、止まる。


 喉を触ってこちらの言語を喋れる器官を創った中立者は、自分に頭を下げている生き物に聞いた。


「……神様ってなに」


「え、」


 それが中立者と、中立者の初めての友との出会い。


 友は雪乃(ゆきの)と名乗り、神とは世界を見守る者だと説いた。


「か、神様は、神様です」


「……はぁ」


「見守ってくださるの。私達の行いを、善行を、いつも」


「……へぇ」


 中立者は考える。


 自分は神様。どの世界の。こちらではない。この世界は彼が手を出す意味が無い。


 彼が整えた世界こそ、彼が見守るべき世界だ。


 自分はあの世界の神なのか。


 中立者の中に落ちた考えに本人は満足する。自分に初めて意味が付いたから。自分を初めて固定出来た気がしたから。


 彼は目を伏せながら、喜色を孕んだ声色で言った。


「そっか……俺は神様なんだ……うん、ありがと雪乃」


「い、いえ、滅相も御座いません」


「……なんかその喋り方、嫌」


「え、えぇ……」


 何を考えているか分からない神に困惑したのは、その場では雪乃だけだった。黒と白は何も反応を示さず、神は二人を確認する。その後、生き物のことが知りたいからと雪乃の家に着いて行ったのだ。


 それに頭を抱えそうになった雪乃ではあったが、余りにも美しい神とその使いを無下にする考えこそ持っていなかった。


 彼女の住処は山の中腹にある古びた一軒家で、中にはからくり人形を作る雪乃の父がいた。


 父も別の世界の生き物を見ると「神様だ」と頭を下げたが、中立者はその行為にいい気持ちはしなかった。だから「止めろ」と伝え、彼らに逆に聞いたのだ。何でもない日々のことを。


 雪乃と父は顔を見合せたが、これほど貴重な体験はないと気持ちを切り替えて神との会話を決意した。


 雪乃と彼女の父は今いる国の外に行ったことがあるのだと言う。様々な国で多様なものを見て、その中で想いを馳せたからくり人形を作る仕事をしているのだと。


 歯車を幾重にも噛み合わせ、まるで命があるような人形を作り出す父。その助手をする雪乃。母はこの国にはおらず婚姻を結ぶことは叶わなかったとか。


 神は家族の概念を覚えつつ、歯車という物に惹かれていた。


 だから彼はよく二人の家に行くようになった。自分が知らないことを知っていて、自分と話してくれる二人の元に。


「ねぇ神様。黒と白って、それは名前?」


 ある日雪乃は聞いた。黒と白と呼ばれる二人と、そう呼ぶ神に疑問を持ったから。


「別に。名前とは思ってない。呼び方」


「ふーん……ねぇ、名前つけてあげないの?」


「それは意味あること?」


「私は、意味あると思う。名前を呼んであげなくちゃ、楽しいを、嬉しいを感じなきゃ、生きてる実感が出来ないよ」


 そう言って中立者を神だと呼び始めた少女は、初めて彼に笑ったのだ。仕方がなさそうに肩を竦めて。交流によって緊張が解けたから。神は自分達に近しいのだと知ったから。


 神は考え、雪乃と父が行ったように二人がいる国以外も巡ってみた。転移の力はなかったが、彼の世界で別の世界の何処に行きたいと考えれば行けるものだと発見した為に移動は容易かった。


「黒はメタトロン、白はサンダルフォン、ね」


 神が名を与えれば、メタトロンは初めて体から湧き上がる喜びを表現し、サンダルフォンも幸せそうに笑っていた。


「おぉ、名か!! 名前か!!」


「ありがとうございます、我が主」


「別に。これからもよろしくね」


 そう言った神は気づいた。今、初めて自分も笑っていたのだと。


 彼は雪乃に感謝をした。そうすれば雪乃も喜び、神は思いついた。新しい発見が好きな彼女はもしかしたら、自分の世界を見せれば喜ぶのではないかと。


 だから彼は友の手を引いた。そして見せた。儚い御伽噺おとぎばなしの幻想郷を。


 すると雪乃は言葉を失い、目を潤ませながら笑ったのだ。


「この世界は、美しすぎて……泣きたくなる」


「……泣く?」


「そう……ねぇ、この世界はなんて名前?」


「名前はないよ」


「勿体ないなぁ」


「……考えとく」


 神は呟き、友人が美しいと言ってくれた世界に命を創り始めた。沢山の、活気ある命の始まりを。


 雪乃に似せて創ったペリは、本人に知れた瞬間怒鳴られ。


「なんで!?」


「いや、一番よく見た形だから」


「ほんと、なんでッ、この……命を創れるなら、大事に大事に創らなきゃ駄目でしょ!!」


「……そうなの?」


「命は尊いの!! 馬鹿!!」


「馬鹿……」


 天と大地は神の言うことを聞かないと知って創ったシュリーカーは、慈悲深く。


「お守りしましょう。新たに芽吹く命達を」


「うん、頼んだよ」


 得体の知れない命の鉱石を守る為に創ったガルム達は、忠実な守護者になる代わりに言葉を発することが出来なかった。


「……ごめんなさい」


 謝った神をガルムは責めない。責めることなどないと思っていたから。


 メタトロンとサンダルフォンも加えた最初の五種族。神直属の命を受けて生きる彼らから新たな命は次々と創られていき、世界は活気に満ちていく。


 神は生き物を創り出す時、共に歯車も生んで自分の部屋に置いていた。上手く噛み合うように。世界に何かあっても気づけるように。雪乃と父が造るような綺麗な動きで世界が回ればいいと願いを込めて。


 神が命を創る毎に御伽噺おとぎばなしの世界はより輝き、神にとっては愛しくて堪らなくなった。毎日笑い、慈しみ、全ては永遠だと疑わなかった。


 彼は名前を考えた。雪乃が言ってくれたように。


 愛した世界に名前をつければ、自分が愛する者達が住む世界に名前が生まれれば、きっと今以上に輝くからと。メタトロンやサンダルフォンを呼んだ時のようにきっとこの世界が笑ってくれると、小さな神様は願ったのだ。


「――アルフヘイムにしようと思う」


 神はメタトロンとサンダルフォンに伝えた。考え抜いた世界の名前を。神様の傍で世界を見守っていた二人は顔を見合わせ、破顔した。


「良い名だ! 我が主!! あぁ、なんて良い名だろうか!!」


「あの子にもお伝えしなくてはいけませんね」


 メタトロンは神の肩を抱いて喜び、サンダルフォンは空を見上げて微笑んだ。


 あぁ、そうだ。この世界を美しいと、泣いてしまいたくなると言ってくれたあの子に。一人ぼっちを止める一歩をくれた友人に伝えなくては。


 神様は一人で世界を渡った。雪乃の喜ぶ顔を思い浮かべながら。きっと笑ってくれると期待しながら。


 けれども、そこに期待を叶えてくれる子の姿はなかった。


 浮かべた愛しい笑顔はいなかった。


「この親子は異人だぞ!? こんな気味の悪い人形を作り出して!!」


「コイツらが来てから村は不作が続いてる!!」


「見ろ! あの娘の目の色を!!」


「妖だ!!」


「異形だ!!」


 松明(たいまつ)を握った村人達に追われている友がいる。友を庇う父がいる。


 その理由は長く続く不作の原因を二人だと決めつけたから。何の根拠もない、誰の口から溢れたかも分からないそれは波紋のように村を包み、二人に嫌悪の目を向けた。


 神には、雪乃の父が石を投げられる理由が分からなかった。


 神には、友人とその親が忌み嫌われる理由など分かりたくなかった。


「止めろッ、なんでそんなッ……そんなことしたら痛いだろ!!」


 無垢な神様は血を流して体を震わせる雪乃と父を庇った。そうすれば、どうだろう。


 村人達の顔から血の気が引き、見たことの無い生物により恐怖を掻き立てられる。


 不作が続いて貧しくなる村に存在する、彼らにとっての異形。誰も見たことがない、存在する筈がない生物がいる。


 なんだアレは。アレはなんだ。なんて恐ろしい。


 だから、と。


 神に石を投げる愚か者がいた。


 友を守りたいだけの生き物をののしる馬鹿者がいた。


「逃げて……神様……」


 雪乃は悪意を知らない神様を庇い、頭を村人に殴打される。


 恐怖と疲弊と焦燥からやってくる村人の憎悪は神の神経を撫で、嫌悪させ、気づけば彼は七匹の獣を創ってしまっていた。


 心火(しんか)の獣、食過(しょくす)の獣、愛欲(あいよく)の獣、休怠(きゅうたい)の獣、妬心(としん)の獣、驕傲(きょうごう)の獣、貪汚(たんお)の獣。


 溢れ返った神の感情から創り落された獣達は村人が恐れたように村を焼き、人を殺し、食し、惨劇が広がった。


「いや……いやだよ……やめて神様……」


 神に縋り付いて懇願する雪乃。神は目を見開いて必死に感情を落ち着かせ、雪乃を治そうと力を創った。目を瞑った彼女の父よりも、まだ目を開けている雪乃を神は救いたかったのだ。


 桜色の着物を赤黒く染めてる傷を治したかった。時間を巻き戻したかった。そうすれば村を壊したことすら消せるのではないかと思ってしまったから。


 それでも、雪乃の傷は治らなかった。


 だから神は切り離す力を創った。この傷があるからいけないのだと必死に願って創ったのに、友の意識は薄れていくだけだ。


「……かみさま、もう、いい、もう、大丈夫……だから」


「駄目だよ雪乃、この傷は痛い。痛いから君は目を瞑るんだろ。駄目だ、閉じないで。お願い、助ける、助けるから、俺は神様だから、君を救わなきゃ、だからッ」


「……ごめんね」


 雪乃は何かに対して謝った。その意味が理解出来なかった神は彼女の言葉を聞いていた。


「わたし……かみさまの世界、いきたいなぁ」


 そう言って、彼女が笑うから。


 神は一つ返事で彼女を抱き上げた。燃え盛る村を背にして、そこで暴れる獣達のことはメタトロンとサンダルフォンに頼むと決めて。


 彼は世界を渡った。


 雪乃が美しいと言ってくれた世界の、綺麗だと褒めてくれた名前のない花畑へと。


「……綺麗だなぁ、やっぱり、さぁ」


 雪乃は色素が薄い目から涙を零し、笑っている。


 神は探した。この傷を治せる住人がいる筈だと思って。


 それでも、その袖を引いたのは弱々しい友の腕だったから。


 神は目を見開いて雪乃を見下ろしたのだ。


「……あなたにも、名前が、いるよね……神さまじゃ、ない、なまえ……わたしが、かんがえた、なまえでも……いぃ、かなぁ……」


 そう言って笑った雪乃は、神の為にと、自分の知識を集めて考えた名前を口にする。


 目を見開いた神は体から力が抜け、初めて――泣いた。


 自分の名前。自分だけの名前。


 その音のなんと美しく、愛おしいことか。


 雪乃はその表情を見て、本当に満足そうに笑っていた。


「……よかった……よろこんで、くれて」


 そう言って、彼女は眠ってしまったから。二度と目を開けてくれなくなったから。


 神の涙が変わる。涙の意味が変わる。


 彼は声にならない叫びを上げて、咽び泣いた。


 一体何が駄目だったのか。何を間違えたのか。何処で誤ったのか。何故こんな目に合わなければいけないのか。


 彼は泣いた。泣いて、泣いて、異変に気づいたメタトロンとサンダルフォンは初めて血だらけになりながら獣達を止めた。


 それ以上雪乃が住んでいた世界を壊してはいけない。それ以上殺しても彼女は戻らない。


 強すぎる獣達は神の塔へと入れられた。


 その報告を受けた神は雪乃の亡骸から離れることはしなかった。


 脈が止まった。心臓の拍動も止まった。体は冷えて瞼が上がることは無い。


 それでも神は離れなかった。


 自分がまだ知らないだけだ。きっと彼女は目覚めてくれる。


 思って願っていたのに、ある日彼女の体が光りとなって消えたから。


 世界の真実を知ったから。


 連れて行くなと叫んでも、連れて行かれてしまったから。


「雪乃、雪乃、雪乃……あぁ……なんで……ッ」


 泣きながら友人だった鉱石を集めた神は決めていた。


 友が愛してくれたこの世界を守るのだと。彼女がいた世界、タガトフルムと名付けた世界などどうでもいいと。どうにでもなれと。


 彼女が綺麗だと言ってくれた世界を、愛しい者達が生きる世界を守り抜いてみせる。そう決めた。決めたのに。


 永遠はないと無慈悲な世界は言うのだ。


「……鉱石が減ってる」


 そう気づいた時、神は焦った。この世界に必要不可欠で、死んだ者が成り代わる鉱石が減っている。


 死んだ者を吸収する命の鉱石の力が弱まっている。


 弱まっているせいで、鉱石の数が減ってしまっている。


 直ぐに神は命の鉱石への干渉を試みたが、それは弾かれた。対峙したのは唯一神と一緒に作られた世界の根っこ。それに干渉して時間を戻そうとするなど神であっても許されない。


 神は考えた。このままではいけないから。このままではアルフヘイムが崩れていってしまうから。


 どうすればいい。どうすれば守れる、自分は神なのだ。神様なのだ。救わなければ。守らなければ。この世界を。愛しくて堪らない――この世界を。


 彼はメタトロンとサンダルフォンと共に考えた。多くを試しもした。


 自分の世界の住人を殺せばいいのではないかと考え、アルフヘイムに不利益な行いをする罪人を塔に上らせて幾人も殺した。


 それでも変化は生まれなかった。微々たるものにしかならなかった。


 創った生き物達の寿命を短くする。いいや、そんなことはあまりにも無慈悲だ。そんなことはしてはいけない。


 鉱石の複製を作ってみる。いいや、それはもはや鉱石ではない模型だった。ただの装飾品と化した物だ。


 鉱石になる為だけの生き物を創ってみる。いいや、それは尊い命への冒涜だ。神が何でもしていい筈がないだろ。


 神は考えて思い留まり、行き詰っていった。


 このままではいけないのに。減ることは止まってくれないのに。


 守りたい、守りたい、守りたい、救いたい、失いたくない。


 どうする、どうする、どうするッ


「――タガトフルムだ」


 そう言ったのは神が部屋から出なくなり始めた頃。歯車のズレに気づいて修正をかける作業に追われ続ける中でのこと。


 メタトロンとサンダルフォンは目を見開いて、笑顔の失せた神を見つめていたのだ。


「タガトフルムの者達も、アルフヘイムで死ねば鉱石になる」


「……待て、待ってくれ神よ、それは」


「試す。連れて来て」


 神の中にある憎悪が燃える。


 (つつ)ましく平和に暮らしていた友とその家族を殺した者達への憎悪が。


 メタトロンは絶句し、サンダルフォンは奥歯を噛み締める。


 それでも二人は止めなかった。


 連れて来たタガトフルムの罪人の首を神がねるのを、ただ見つめていたのだ。


 そしてその人間の鉱石は、アルフヘイムの住人よりも多くの量で作り出された。


 それが、きっかけ。


 そこから神は考え続けた。


 大量の人間を連れてくればタガトフルムで混乱が起きる。雪乃達のような善良な者が傷つくかもしれない。


 それはあってはならないから、忘れさせなければ。死んだということを忘れさせなくては。


 誰を対象にする。罪人か。それでもタガトフルムの罪人がアルフヘイムの罪人とは限らない。


 メタトロンが力を付与した人間の方が鉱石になる質も量も上がった。ならば兵士達の力を付与させよう。アルフヘイムの狭間から生まれる、神と似た彼らに力を植え付けさせるのだ。


 それでも鉱石が減っているからと言ってはいけない。不安の種をこの世界に撒きたくない。だから隠すのだ。隠す為の建前を築き上げるのだ。


 さぁ、どう言ったルールを作る。


 神の頭の中が煮えていく。煮えて、それでも考え、視野が陰ったことに誰も気づかない。誰も指摘しない。誰も彼を止めはしない。


「競争させよう」


 負けた方を殺そう。遊びなんて言う名目ではいけない。この世界の誰もが「それならば仕方がない」と了承出来る内容で競わせよう。


「あぁ、統治だ、それがいい」


 メタトロンとサンダルフォンの軍を争わせよう。どちらが統治するかを決めてみよう。


 方や力を求める弱肉強食。方や規則を重んじる清廉潔白。それぞれの長の性格から軍の色、思想を決めればいい。


 神は考えた。考え続けて、力を付与しやすかった子ども達を競わせることを決めた。生き残っても祝福を与えて、タガトフルムで死んでも鉱石になるようにすれば良いとも決めた。


 それは奇しくも――雪乃と変わらない歳の者を選んでいるとも気づかずに。


 自分が愛する者達が生きる世界の平穏が欲しい。


 自分が愛した人が綺麗だと言った世界を守っていたい。


 自分は神様だから。


 見守らなくてはいけないから。


 だから、だから、だからッ


「……間違え、た……の、かな……」


 呟いた神は目を閉じる。自分が住み続けた孤高の塔の最上階から、自分を捕まえにやって来た戦士と共に。


 自分は悪だと言われたらしい。


 神は悪だったらしい。


 神の瞼から涙が溢れていく。ただ彼はこの世界を、愛して守りたいだけだったのに。


 一体どこで歯車は狂ってしまったのだろう。


 帳の意識は既に薄れかけている。もう風に乗ることは出来ない。ヒビが入ったらずの補助も頼れない。


 ――あの子の世界の子どもと……死ぬのか


 神は時間を戻そうとはしない。そんな愚かなことはしようと思わない。


 彼は脱力し、鼓膜を揺らす落下音を聞きながら(せい)を手放した。


 手放そうとしたのだ。


「――帳君ッ」


 それを止めたのは、神を捕まえた戦士を呼ぶ声だった。


ごめんね、君にレッテルを貼ってしまって。


そんな謝罪はもう届かない。


それでもまだ、仲間を呼ぶ者達がいる。


明日を望む子ども達がいる。


明日は投稿、お休み日。

明後日投稿、致します。

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