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僕らは痛みと共にある  作者: 藍ねず
最終章 乱れた常磐の歯車編
173/194

開門

2020/04/19 改稿

 


「泣語さん、夜来さん」


「あぁメシア、遅くなってしまってすみません!」


 合流してくれたのは泣語さんと夜来さん。泣語さんは浮いてる葉から飛び降りて勢いよく謝罪していた。


 一緒に行ってくれるだけで十分なんです。本当に。だからそんな申し訳なさそうな顔をしないでくださいませ。


 自然と笑った私は首を横に振る。謝り合戦をしても収集がつかないと学んできたから。だから泣語さんにもフォカロルさんのブレスレットを渡しておく。


 泣語さんはブレスレットの説明をした瞬間、飛び跳ねるほど喜んでくれました。


「メシアが俺を思って俺の分まで!」


 いや、作ってくれたのはフォカロルさんです。兄さん達からの視線が痛い。


 気にしないように心掛けて夜来さんにもブレスレットを渡そうとする。けれども彼には断られ、その目は早蕨さん達を見つめていた。


「おま、なんで!」


 鷹矢さんの鋭い声がして、元のサイズに戻ったイーグさんの羽根が逆立つ様を見る。流石の早蕨さんも驚きを隠しきれないようで、夜来さんは息を吐いていた。


「別に。俺が強いっていう過大評価を貰ってね、生贄から協力者にランクアップしただけさ」


「なにそれおっかしー! お兄さん生贄なの⁉ 同じ戦士っぽいのに⁉」


 屍さんの溌剌はつらつとした声が夜来さんに刺さるのが見えた気がする。彼は目を細めて「うるさい」と呟き、屍さんに答えていた。


「俺は戦士じゃないよ、元戦士だ。今は心臓も動かないゾンビだけどね」


「なにそれ詳しく!」


「ちょっと黙れ屍」


「あいあいキャプテン!」


 屍さんの頭を叩いて黙らせる兄さん。夜来さんを見つめる兄の両目は細められていった。


「お前が誰だろうとどうでもいい。味方かどうかだけハッキリさせろ」


「味方と言えば味方だよ。神様を捕まえるね。それが達成出来れば晴れて俺は生贄に戻れるんだ」


「生贄に戻るってッ」


 兄さんの次は早蕨さんが言葉を投げる。


 ほんと、人数が多いと収集とか統率とか情報とか、やりとりが難しいってしみじみ感じてしまった。


「口出すなよ偽善者」


「結目君……!」


 帳君がため息を吐き、夜来さんも早蕨さんから顔を逸らしている。正しい白の戦士は唇を噛んで、私は髪を引いていた。


 一触即発とかにならなくてよかった。


 保たれた関係を見つめて、「話し戻すけど」と息を吐いた夜来さんに視線を戻す。


「君達、そんなおかしな関係でいいわけ?」


「どこがおかしいか教えてくれますかー先輩」


「態度がなってないな後輩」


 笑った帳君を睨む夜来さん。今日も顔色が悪い彼はまずは早蕨さん達に視線を向けていた。


「早蕨君達は競争を中止してもらう為に神様の所へ行きたい」


「そうです」


「そこの狼連れた君達は凩さん達だけを行かせたくないから着いていく」


「知ってんのか」


「事前に情報くらい貰うさ」


 腕を組んだ兄さんを夜来さんは軽く(あしら)う。夜来さんの目は私達の方を向き、平坦な声で確認された。


「凩さん達は悪だとも思う神様を生贄にしたい」


「はい」


 そこに偽りはない。建前はない。


 だから私は頷いて、ため息を吐いた夜来さんを見つめたのだ。


「ほんとバラバラで、でこぼこ。そんな君達が一緒の目的地になんて辿り着けるのかな」


「別に? 中立者を捕まえたい、邪魔はしないっていう考えが一致してたら良いと思うけど」


 帳君が肩を竦めて、夜来さんは「若いっていいなぁ」なんて呟いた。


「そこの葉に乗ってた君は? 凩さんの崇拝者だっけ」


「そうだよ。俺はメシアの役に立つ為にここにいる。それ以上でもそれ以下でもないね」


 満面の笑みで一点の曇りもない目をする泣語さん。彼は今日も今日とて揺るぎなくて、もう寒気だって感じない


「なんだ、俺と同じで脳みそ腐ってる奴か」


「別に腐ってないよ。メシアのことになったら自分でもお花畑になる自信はあるけど」


 あ、前言撤回。寒気は感じた。


 夜来さんも泣語さんも私とは少々感覚が違うことは理解した。これ理解と言っていいのかな。失礼か。取り敢えず鳥肌立ってごめんなさい。


「やめろ音央、これからって時にそんなこと聞きたくなかったマジで。氷雨が引いてるぞ」


 私の肩で代弁してくれるりず君。泣語さんは(とろ)けそうな笑みをこちらに向けてきた。


「すみませんメシア!」


「いえ、はい、大丈夫です」


 うん、だから落ち着け自分。笑っておこう。


「氷雨、そういう奴らと付き合うのやめろ」


「……時雨さん、顔が凄いっす」


 顔の迫力が三割くらいの勢いで増している兄さん。別の意味で鳥肌が立った。


 すみません時沼さん、そんな兄の相手をさせてしまって。


 屍さんは爆笑しそうなのを堪えているという雰囲気で、闇雲さんは若干引いてる様子。


 すみませんって、これ私が謝る事かしら。もう考えるの止めようか、そうしよう。


 私は視線を動かして早蕨さん達の方へ近づく。鞄を漁ればまだブレスレットはあり、もしかしたらを考えた数日前の自分と付き合ってくれたフォカロルさんに感謝した。


「淡雪さん」


「ん、」


「恋草さんも」


「あらどうもぉ。綺麗ですわぁ」


「鷹矢さん」


「あ、あぁ」


 三人にブレスレットを渡して効果を伝えておく。そうすれば三人とも感心したようにお礼の言葉をくれて、私は早蕨さんの手にも乗せておくのだ。


「……俺も貰って良いんですか?」


「渡さないとでも思いましたか?」


 目を丸くして確認される。だから言葉を返しておけば、早蕨さんは目元を染めて笑ってくれた。


「ありがとう、凩さん」


「どういう経緯や理由があっても、一緒に行ってもらう以上は敵ではないので」


 神様を捕まえるまでは。その後は、きっとまた敵になる。


 私は会釈して、笑い続ける早蕨さんを確認する。ひぃちゃんは恋草さん達に視線を向けていた。


「皆さんも来るとは正直思っていませんでした」


「あら、心外ですわぁ」


「光が決めたなら来てやるだろ」


「この競争を止められる貴重な可能性だしな」


 恋草さんは柔らかく笑い、淡雪さんは仕方なさそうに帯を巻き直している。鷹矢さんは少しだけ口角を上げて、私は口を結んでしまった。


 夜来さんが言ったように私達は目的が違う。けれども必要な過程は同じだから今こうやって一緒にいる。


 あぁもう、否定も何もするなよ氷雨。


 目を伏せた時、風に髪を引かれて顔が動く。


 そうすれば帳君と目が合ったから、私の足は自然と動いたのだ。


 帳君の隣に言葉無く並ぶ。柔く頭を撫でられて、耳は「あー」と意味無く発せられた彼の声を拾った。


 それに笑ってしまう。


「緊張するね」


「ほんとだよ。なんか凄い人数増えたし」


 ため息と呟く声が聞こえて私は肩を竦めてしまった。


 帳君を見上げる。神様の塔を見つめている彼は何を考えているのか。


 もしもの時は優先して先に進んでもらう人。もしもの時、最後を託す相手。


 そこに激励はいらない。鼓舞もいらない。頑張れなんて言葉も勿論いらない。


 私は帳君の背中を軽く叩き、ただ一つのことを伝えるんだ。


「そのままの帳君で、良いよ」


 救われた言葉。私を救ってくれた言葉。進み続ける勇気をくれた言葉。


 私が感じた安堵の一部でも、ひとかけらでも帳君に伝わらないかなって我儘を願って。


 頭を撫でてくれていた手が止まる。


 それから軽く手の甲で小突かれたから、私は目を細めてしまうのだ。


「氷雨ちゃんもね。そのままで君は十分強いから、ね」


 あぁ、また救われた。


 笑ってしまう。


 そうしていれば翠ちゃん達が近づいてくれて、お互いを見るのだ。


 円陣だとか掛け声とか、そんなものは私達の間にはない。


「そろそろ行きましょうか」


 翠ちゃんが凛と言ってくれる。美しい強さを纏った努力の人。


「捕まえよう、ね」


 祈君が宣言してくれる。繊細な優しさを抱えた賢明の人。


「それで、生きよう、みんなで」


 梵さんが伝えてくれる。苛烈な穏やかさを持った強固な人。


「ここはまだ通過点だよ」


 帳君が再確認してくれる。不揃いな怒りを有した勇敢な人


「五人目を捕まえて、六人目へ。勝とう」


 言葉を零す。沢山はいらない。端的で良い。この五人の中にお喋りな人なんて誰もいないんだから。


 お互いを見て頷きあう。


 瞬間、言葉では言い表せない圧迫感が押寄せた。


 頭で理解した時には冷や汗が溢れ、呼吸をすることさえ意識しなければいけなくなる。指先は震えて視線は下がり、だがしかし膝を着くことだけはしなかった。


 奥歯を噛み締めて前を向く。


「よぉ、揃ったな戦士達」


 紅蓮の髪と漆黒の衣装。動じぬ威厳で現れたメタトロンさん。


「……道を間違えた戦士達、心の準備は出来ていますか」


 薄水の髪と純白の衣装。冷たい威圧を纏ったサンダルフォンさん。


「モーラになった戦士も招集するとは、本気だな」


「本気じゃないなら俺だって付き合わないよ」


 夜来さんはこの重圧を諸共していない。背筋は伸びて、涼し気な目で長を見つめている。


「あぁ、初めて見たよ長って」


 そう独り言のように発せられた声にメタトロンさんは楽しそうだ。


「メシア、無事ですか」


 私の前に立ってくれるのは泣語さん。彼の体は震えておらず、伸びた背中が私に安堵を与えてくれる。


 いや、違うだろ氷雨。誰かの背中を見て安堵するな。


 その弱さは捨てていけ。


 私は自分の膝を叩いてから、努めて背筋を伸ばしたのだ。


「ありがとうございます、泣語さん」


 伝えれば彼はどこまでも嬉しそうに笑ってくれる。私も微笑み返し、彼の横に並んだ。


 ひぃちゃんは翼を広げて、りず君とらず君が肩で踏ん張ってくれる。


 翠ちゃんも深呼吸して、祈君はルタさんと同化。梵さんは帯を締め直し、帳君の周りを風が踊る。


「いいぞ、いいな俺の軍の戦士達は。皆勇んで前に進めたか」


 どこか誇らしげな声をくれるメタトロンさん。


 対してサンダルフォンさんは抑揚もなく、感情をどこかに置き忘れたような声を発していた。


「私の軍の戦士達。今ならまだ間に合いますよ」


 私は視線を走らせる。


 口角を上げて、それでも指先が震えているのが分かる屍さんや、視線を下に向けてしまっている早蕨さん。


 時沼さんの頬を汗が流れて、鷹矢さんが自分を守るように腕を抱えたのを見逃さなかった。


 背筋を伸ばせていない恋草さんに、顔色が悪くなる闇雲さん。


 ルアス軍の彼らは長が意図的に出してる威圧感に気圧される。


「駄目かもなぁ」


 なんて、帳君が呟く声を聞いた。


 神様の塔には長と同等の獣が各階にいる。ここで動けなければ、ここで前を向けなければ、先へは進めない。


 それでいいよ、どうか一緒に来ないでいいよ。


 彼らの覚悟を私が測るな、何様だ。


 自分を叱咤してルアス軍の人達の動きを見つめる。


 メタトロンさんは笑って、サンダルフォンさんは静かに息をついていた。


「しっかりしろよリーダー!」


 不意に、大きな淡雪さんの声がする。彼は何度も早蕨さんの背中を叩き、正しい戦士は驚いた顔をしていた。


 あぁ。良かった、なんて。


 言わないまま早蕨さんを見て、安心する自分がいる。


「怖がっていい。怯えていい。でも下だけは向くな! そこには立ち止まったお前の足しかねぇだろ!! だからどれだけ押し潰されそうになっても、下も後ろも見るんじゃねぇ! お前の道は前にしか出来ねぇんだよ!」


 淡雪さんの言葉が確かに早蕨さんの呼吸を楽にしたと見て取れる。鼓舞する彼は自分の両頬も思い切り叩いて喝を入れ、恋草さんを肩に担いで座らせていた。


 驚いたけど、意外とそこは二人の定位置なのかもしれない。何回か見たことがあるから。それが彼らなりの在り方だなんて勝手に知る。


「……ほんま、ポジティブな人の言葉は無茶苦茶ですわぁ」


「あぁ!?」


「でもそれに救われます、博人さん」


 鷹矢さんはイーグさんを撫で、淡雪さんとは反対側から早蕨さんの背中を叩く。


 鷹矢さんは笑って、早蕨さんの背筋が伸びていた。


「いーなーいーなー! ちょっとリーダー! 私達の事も鼓舞してちょ!」


 そう明るい声を弾けさせたのは屍さん。彼女は白玉さんの背に乗って兄さんを見ていた。


 兄は「あぁ?」と顔を歪めているが、闇雲さんと時沼さんにも視線を走らせて息をついた。


「……うるせぇな、屍は」


 屍さんの頭を叩き、時沼さんの肩も叩く兄さん。


 手を握り締めていた時沼さんは目を丸くして、顔を少しだけ歪めたんだ。


「時沼、守りたいものだけ見てろ。それでいい」


「……っす」


 時沼さんの頭を強く撫でた兄さん。それから兄は闇雲さんの肩に手を置いていた。


「闇雲、無茶はするな、無理はしていい。冷静であるだけでお前は強くなれるだろ」


「……はい。ありがとうございます」


 闇雲さんは肩を竦めて笑っている。兄さんは静かに口角を上げており、彼の服の裾を引く屍さんは可愛いと思うんだ。


 ため息を吐きながら兄さんが視線を送れば、裾を噛んでいる白玉さんと両手を合わせて小首を傾げる屍さんがいる。


 兄さんは仕方がなさそうに屍さんの手を軽く掴んでいた。


「お前の特技は壊すことなんだろ。なら壊しまくれ。誰も引かねぇし、それが役に立つ。だから任せた」


 屍さんの目が見開かれる。それから嬉しそうに口角が上がり、兄さんが離した両手には手甲鉤が瞬時に装着されたのだ。


「あいあいキャプテン」


「白玉も暴れろ、今日はストッパー役は休みだ」


「承知した」


 白玉さんは喉を鳴らして尾も揺らしている。兄さんはそれを見届けて長に視線を戻し、その頬に汗は浮かんでいなかった。


 メタトロンさんとサンダルフォンさんがお互いを見やって、体を引いている。


 二人の向こうに見えるのは――神様の塔。


 そこに現れた巨大な扉は一体いつからそこにあったのか。私が見落としていただけだったのか。


 頬を流れた汗を手の甲で拭う。


 メタトロンさんは犬歯を見せて笑っていた。


「さぁ、進め、導かれし戦士達」


 サンダルフォンさんは瞼を閉じて言葉を零している。


「貴方達の道が、死が、苦しくないように願いましょう」


 あぁ、願わなくていいよ、そんなこと。


 歩くのは痛い。進むのは苦しい。今までずっとそうだった。そう学んできた。


 痛みあっての今までなのだ。それが今日だけ痛くない筈もない。


 灰色の鉱石で出来た扉が開かれていく。


 私はその動きを見落とさまいと凝視した。


 しかし、一瞬瞼を閉じて上げた時にはもう――目の前に黒い鎖が迫っていたから。


 メタトロンさんの声がする。


「扉は開かれた」


 第一の階――心火しんかの間。


扉は開かれた。


次回より三人称で書いていきます。


明日は投稿、お休み日。

明後日投稿、致します。

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