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僕らは痛みと共にある  作者: 藍ねず
第四章 不退転の決意編
140/194

探査

探し回れ。

----------

2020/03/24 改稿

 


 ――告げ鳥の痣。


 ディアス軍の長、メタトロンさんが「危険因子」と判断した相手につける呪いの刻印。


 呪いの発動条件は言ってはいけない言葉を口にすること。


 今回梵さんと私は、奇しくも同時期に「競走が無ければいい」と言う思いを口にしてしまった。


 呪いが発動して死ぬまでの猶予は九日間。


 三日目までは痣に触れれば痛い程度。四日目からは視覚、聴覚が急激に機能を低下し、六日目には声が出なくなる。八日目には熱湯を飲み干し続けているような痛みに襲われ、九日目にその痛みと熱さが引いた時――命の糸が事切れる。


 あぁ、そうだ、死ぬってこんなに近くにあったんだ。


 改めて理解したが、想像つかない苦痛と言うのは心構えが難しい。


 考える私は早蕨さんと一緒に――ブルベガー・シュス・アインスにいた。


 何故サラマンダーのシュスではないかと問われれば、サラマンダーさん達は探求はすれど万能ではないからだ。


 探求はしているが完全ではない。完全ではないから探求する。それは、彼女達の望みである愛する人との抱擁に関する事柄を最優先にして。そこを見れば告げ鳥の痣は恐らく後回しにされている。


 だからサラマンダー・シュス・ドライに行ったのは帳君、祈君、鷹矢さん、泣語さんの四人。


 翠ちゃんと淡雪さんペア、梵さんと恋草さんペアはそれぞれいくつかのディアス軍のシュスを回るとの事。


 些細なことでいい、小さな事でいいから情報を集める為に。


 早蕨さんと私もそれは同じで、ブルベガーのシュスを提案してくれたのはひぃちゃんだった。


 早蕨さんはひとつ返事で了承してくれて、彼と不本意ながら手を繋いだ私は猛スピードで舞い戻ってきた。


 私の始まりの場所。初めての場所へ。


 班分けをしてくれたのは翠ちゃんと鷹矢さん。


 鷹矢さん達は帳君と私がエントさんの枝から一時離脱した後、早蕨さんの希望に沿う道を進むと決めたらしい。


 それは彼らの自由意志によるものか、強い光りに目が眩んでいるだけか、はたまた考えを放棄して示されたものに頷いただけか。


 分からないし知りもしないが、早蕨さんが人に馴染むのに長けている人だとは重々理解した。今更か。


 ブルベガー・シュス・アインスの恒例行事。シュスに入る前の手合わせに飛び出してくれたのはカウリオさんとドゥースさんだった。


 早蕨さんにも手合わせがあることはお伝えしていたが、彼も初めて来た時の私同様、目を血走らせて駆けてくるカウリオさん達に唖然としていたな。


 ――あの、手合わせって、えぇっとぉ……


 ――大丈夫です。死にはしません


 真顔で答えておき、早蕨さんに飛び掛かったのはドゥースさんだった。カウリオさんがされていたような口上を述べられて、勇ましさをその身に纏いながら。


 ――我が名はドゥース! 現七日間の王である! その纏う衣の色からそなた達をディアス軍であると判断し、ここに手合わせを申し込む!


 ――お、俺は早蕨光と申します! よろしくお願いします!


 きっとドゥースさんは早蕨さんの返事を気に入ったんだろうな。


 跳ね回って攻撃を躱す早蕨さんを称賛しつつ、私はカウリオさんと手合わせをした。ハルバードのりず君を振り回し、輝くらず君と翼でいてくれるひぃちゃんに感謝しながら。


 三人は私の傍で力を発揮してくれていた。梵さんと私の余命宣告を聞いた時も三人が騒ぐことはなかった。一瞬で受け入れてくれた。


 それがどれだけ心強いか。


 安心すると同時に、剣線が安定しないカウリオさんは気がかりだった。


 彼の斧は私になかなか振り下ろされず牽制(けんせい)に回り、盾は容易に弾かせてくれた。ボウガンが打てない距離でもなかった筈。


 それでも彼は――悲観の顔で私を見つめていたんだ。


 あぁ、どうしてかな。


 カウリオさんに一瞬の隙をつかれて倒された私は、額の真ん中に向けられたボウガンの先に息を呑んだ。


 これが発射されることはない。


 知っている。学んできた。三度目にして、勇ましい住人さんの優しさを私は信じてしまっている。


 カウリオさんは片手で頭を抱え、雄叫びを上げた。


 空に向かってボウガンを振り上げ、引き金を引いて。


 透き通る青の中に茶色と黒の矢が吸い込まれていき、落ちてくる。それを掴んでへし折ったカウリオさんは歪んだ表情で叫んだのだ。


 ――何故、何故だヒサメ! 君にどうして、その痣が……ッ!


 あぁ、彼もこの痣について知っているんだ。


 理解しながら事の経緯を語った。


 ディアス軍の戦士が反旗をひるがえして死んだこと。その時、私と仲間の一人が呪いを受けてしまったこと。メタトロンさんに刃を向けてしまったこと。つい昨日、呪いを発動させる言葉を口にしてしまったこと。


 カウリオさんは私の上で静かに話を聞いてくれた。語り終えれば、たった一言を零して。


 ――……そうか


 ……そのあと早蕨さんと私はシュスに入れてもらい、カウリオさんとドゥースさんが知る限りの痣についての情報と資料を見せてもらった。


 ブルベガー・シュス・アインスの書庫はサラマンダーのシュスには及ばないものの、私がアルバイトする図書館に匹敵するほどの蔵書が地下にあった。ブルベガーであっても戦闘が苦手な方、戦いを引退した方が管理されているのだとも伺った。


 カウリオさんは何も言わず、現王であるドゥースさんに着いて書庫を後にされた。彼らの耳にも尾にも元気はなく、王様が今は変わっていることについても雑談なんて出来なかった。


 私にもその時間は無いわけだが、あそこまで取り乱すカウリオさんを想像出来ていなかった為に結構焦っているのです。


 しかし、そうやって心配(こころくば)りをしていては梵さんに悪い。協力してくれている全ての人に悪い。


 結果的に休戦状態の早蕨さん達だって協力する義務などないのだ。本来なら、今この時間を祭壇壊しと生贄奪還に使える筈。それなのに協力してくれているのだから。


 いや、こっちは断った。私は大丈夫だと言った。申し訳ないだなんて思えば帳君達に顔向け出来ないだろ。


 そんな考えのもと時間は過ぎ、資料群を読み漁る目が疲れている。


 書庫には早蕨さんと私しかおらず、りず君達も棚の一番低いところにある本を片っ端から開いてくれていた。私は脚立に上って最上段の本から確認していき、告げ鳥の痣についての資料は何冊か見つけた。


 しかしどれもエントさんとカウリオさん、ドゥースさんから聞いた内容と違いはない。それ以上が分からない。記されている痣の絵は歪な黒鳥で、私は自分の頬に触れかけて止めた。


 目を伏せて本を閉じる。額に本の角を押し当てて何度か叩くように動かしたが、額が痛くなるだけで終わった。


 この呪いが動き出した時、私は夢を見た筈だ。(うな)されるほど酷い夢を。誰がいた。そこで私は誰かに会った。話だってしたと思う。


 けれどもそれが思い出せない。暗い、いや、黒い夢。何か気づいてはいけなかったことに気づかなかったか。知らないままで終わる筈だった何かを、私は知ったのではなかったか。


 ……駄目だ。思い出せない。いや、まず思い出せるのか。夢だぞ。あやふやで不確かで、明確な証明なんて出来ない夢を思い出して何になる。


 私は別の本を手に取る。開けば空に伸びる一つの塔の挿絵が見えた。


「氷雨さん」


 呼ばれる。真横から。


 そこには床に落下していく早蕨さんがいて、彼は弾力そのままに跳ねてきた。横に並ばれる。一瞬だけ。


「どうで、ッ」


 言葉も残せるのは一瞬。また落ちて、また跳ねて。


 ……あぁ、この光景知ってる。人は違うけど知ってる。


「すか!?」


「……下ります、下りますから」


 ため息を飲み込んで、跳ねるのを止めてくれた彼を見下ろす。床には満面の笑顔の早蕨さんがいて、私は本を数冊抱えて脚立を下りた。


 なんだかなぁ……。


 床に足をつけば、早蕨さんに再度「どうですか?」と聞かれた。


「収穫なしです」


「そうですか……あ、俺中立者さんの記述を少し見つけたんですけど、ディアス軍の長もルアス軍の長も立場的には中立者さんより下になるそうですね」


「中立者さんはこの世界の神様だそうですからね」


 早蕨さんから視線を外す。それから自分が持っている本を開けば、やはり目につくのは一つだけの塔の絵。


 隣のページの文字を追えば、それは中立者さんが住む「始まりの塔」という場所の模写らしい。


 どこにあるかは分からない。しかしこの世界の何処かにある、神様と兵士さん達だけが入れる場所。


 あぁ、神様よ。貴方はそこで、一人で、何をしているのですか。


 思いながらページを捲っていくが痣のことは書かれていない。早蕨さんが「神様……」と呟く声が聞こえたが気に留めることはしなかった。


「神様は、俺達が今していることも見ているんでしょうね」


 早蕨さんの声を拾う。


 顔を上げれば真剣な顔で本を引き抜く彼がいて、私も同じように棚の方へ体を向けた。


「見ているだけではないでしょうか。神様は中立者。中立はどちらにも手を貸さない人。きっとただ、本当に見ているだけのお方でしょうね」


 黒がチラつく。瞼の裏に残っているこの黒は忘れてしまった夢の色だと、感覚が言っていた。これが思い出せれば、どうにか出来れば、何か変わるのか。


 自問自答しても自分が答えられないならば意味はない。息をつくのを我慢して早蕨さんの横に立っていれば、隣から集中出来ていなさそうな空気が伝わってきた。


「落ち着きませんか」


 聞いてみる。


 早蕨さんは何も情報がなかったらしい本を閉じて、新しい本を抜いていた。


「……聞いてみたいことがあるんです。けど、氷雨さんと細流さんの呪いには関係ありませんから、我慢してます」


「気になるなら先に聞いてもらっていいと思いますよ。答えられる範囲で答えます。気になってるせいで集中できなさそうですし」


 いっそ協力を止めてくださってもいいんですよ。そうすれば私も心境が楽になるから。


 そう伝えるタイミング逃した状態で、私は早蕨さんに視線を向けないままでいる。


 駄目だ。この本にも呪いを解く方法は書かれていない。


 そもそも呪いを解除出来ないようにするならば、解除方法を作らないのが妥当なのではないか。


 いや駄目だ。それを考えたら終わる。本当に終わる。焦るな氷雨。自分の考えで勝手に焦るな。落ち着け。


 一気に早くなった心拍を落ち着ける為に深呼吸する。


 あと八日で死ぬ。


 それを防ぐ為に今行動しているんだろ。


 二日後にはまず、目と耳が。


 黙れ黙れ考えるな。


 声が出なくなる。


 大丈夫、大丈夫、大丈夫。体が宝石に変えられそうになったことも、炎の中に飛び込んだこともあるだろ。


 熱湯を飲み干し続けているような痛みって。


 考えるなっつってんだよ。お前が止まれば、やめれば、梵さんを道連れにする可能性が高まるんだ。


 だから黙れ、止めろ心配性。お前は奥で爪でも噛んでろよ。


「答えたくなかったら、答えないでくださいね」


 早蕨さんの前置きを耳に入れる。彼が気になっていることに答えられるかな。


「はい」


 返事をしておき、お互い視線は本に向けておく。


 次の本も違う。郷土料理かい。ちゃんと題名見て取るんだった。上から取ってきた本を今の状況だと戻しに行けないな。抱えておこう。


「時雨さんと……仲、悪いんですか?」


 兄さん。


 兄さん、かぁ。


 早速答えづらくはあるが答えられないことではない。


 私は声が震えてしまわないように心掛けていた。


「兄にとって、私は死んでもいい程度の奴ってことです。良い悪いというよりは多分、それ以前の問題かと。お互い最優先するのは自分というだけですね、きっと」


 そこが皮切りになる。早蕨さんの質問の。


 彼は「そう、なんですね」とだけ答えて、問いかけが続いた。


「泣語さんはどうして氷雨さんをメシアって呼ぶんですか?」


「……助けてしまったんです。フォーン・シュス・フィーアという戦士を火刑にするシュスで。泣語さんが捕まっていて、私は助けてしまった」


「助けてしまったって言いますけど、助けることは悪いことですか?」


「悪いことです。私達の関係上」


 本の背表紙をなぞっていく。その中から少しでも該当しそうな本を取って開き、違うとまた戻すの繰り返し。


「人としては正しいですよ。立派です」


「戦士としては間違いです。減っていたかもしれない敵戦力を守ってしまった。私だけならまだしも、ディアス軍には三十二人の他の戦士の方もいるというのに」


 あ、熱い。


 思って足元を見るが、気のせいだった。瞼を閉じれば今度は赤が見える気がする。


 小窓から射し込む夕焼けの色ではない。


 これは、見知ってしまった炎の色。


「……氷雨さんは優しい人ですね。それでいてすごく、真面目だ」


 優しい、か。


 私が優しくて、真面目。他人からはそう見えるのか。


 感慨深くなりながら目を伏せる。


 言葉を選ぼうか、どんな返事をしようか。


 私は確かに早蕨光さんと言う人が苦手だが、嫌いなわけではない。言葉で傷つけたいわけでもないし、暴力に訴えたいわけでもない。殺すとは決めているが、苦むように殺してやるとかは思ってない。


 タガトフルムで普通に出会い、普通に自己紹介をしていたならば、きっと尊敬だって出来た筈だ。そんな未来は歩めなかったけど。


「過大評価です。前にも言ったように、私は友達と自分を守っていたいだけです。優しく真面目なのは早蕨さんの方ですよ」


 早蕨さんに優しいだの真面目だの言われると、惨めになってしまいそうだと思う自分がいる。貴方のような聖人君主、私は見たことありませんよ。


 黙ってしまった早蕨さん。


 言われ慣れていたかな。悪いことを言ったつもりはないのだが。


 感じ方は人それぞれだろ、馬鹿。


「気に触ることを言ったなら、その、ごめんなさい」


 言いながら本の表紙を開く。凝縮された夕焼けのせいで影が暗くなった。


 この部屋の明かりを点けようか。スイッチどこだろう。


「いいえ、俺は……いい人過ぎるとよく言われてしまうので。まさか、俺の言葉がそのまま返ってくるとは思わなかったんです」


 いい人過ぎる。


 うん、それは思う。


「早蕨さんは、奉仕精神が強すぎかと」


 今だってそうだ。


 なんて、何回も考えたことはいい加減諦めた。しつこく考えても意味がない。


 早蕨さんは意外にも苦笑したようで、情報がなかったらしい本を戻して新しいものを選んでいた。


「いいえ、違うんです氷雨さん。俺、捨てられるのが怖いだけなんです。必要とされなくなるのとか、もういらないって言われるのが、怖くて怖くて……たまらない」


 早蕨さんを見上げる。


 彼は眉を八の字に下げて微笑んでいた。私は自分の手元に視線を戻す。


 意外だと思ってしまったのは、内緒にしておこう。


 彼とてただの人で、年相応の子どもだった。聖人君主だなんて、それこそ勝手な押し付けだった。猛反省。


 体の中が震えた気がして、申し訳なさで頭の中が埋まっていった。それでも、口にしていない考えを謝れそうな雰囲気でもない。


 早蕨さんは睫毛を揺らしながら続けていた。


「一生懸命取り繕って、最後はみんなが笑顔になれるようにして。そうすれば、俺は必要とされると思うんです。だから頑張るんです。頑張って頑張って頑張って、吐きそうになるほど頑張って」


「だから今も、ハッピーエンドを目指しているんですか」


 聞いてみる。早蕨さんは暫し黙ると、首を小さく縦に振っていた。


「みんなで生きられる道を進みたいのは本心です。ルアス軍かディアス軍かなんて俺は選べない。選べた氷雨さん達みたいにはなれないんです、どうしても」


 あぁ、まるで私とは反対の人。


 彼は選ぶことをせず、両方を得ようとしている。


 私は選ぶことで、より大切にしたいと思う片側だけを得ようとしている。


 考えが合わない人だとは思っていたけど、まさかここまでとは思わなかった。翠ちゃんはそれを分かっていてこのペアを作ったのだろうか。


 また欲しい情報のなかった本を閉じて、夕暮れが早くなっているアルフヘイムに視線を送る。


 私は反省した謝罪の意を込めて、正直な言葉を吐いていた。


「私、早蕨さんのこと苦手なんです。ものすごく」


「う……はい、感じてます」


 あら、感じられていたか。


 肩を落とした早蕨さんを横目に見る。苦笑している彼の手は小刻みに震えており、私は言葉を続けるのだ。


「けれど、嫌いであるというわけではないんです。貴方がいなくなればいいとも思ったことはありません。貴方は、早蕨光さんは、いなければならない人です」


「え、」


「貴方ほど真っすぐな人を私は知りませんし、これからも知らないんだと思います。貴方は輝かしい。心の中ではどんなことを思っていたって、誰も責めませんよ。だからいいんです。怖がることも、吐きそうなほど悩むことも、止まりかけることも。それを責める権利は誰にもないし、負い目を感じる必要もないかと。その、私だって心の中とか、凄く毒、吐きますし」


「氷雨さんが、毒」


「はい。毒」


 少しの沈黙が流れて、早蕨さんが噴き出して笑う声を聞く。それを聞きながら私は言葉を続けた。


 こういう精神論は苦手なのだが、結局そこに戻ってしまう頭をしているんだよな。


「人は、完璧ではありません。完璧でないから毎日色々なことが痛くて、嫌になって、苦しくなって。けど、楽しいも知ってるから生きるんです。完璧になってしまった人はきっと生きていられず死んでしまう。なんでも出来るではなくて、何か出来ない、本心を隠しているからこそ、人は生きていられるのではないでしょうか」


 あぁ、また外れ。言葉選びがなってない。本も残念。呪いについて書いてあっても解き方なんて載ってない。そんな不利になること、しないのかなって駄目駄目駄目。


「だから良いと思います。捨てられるのを怖がって、努力出来る早蕨さんは凄いんです。申し訳なさそうにしなくていいです。私はそう、思います」


 早蕨さんが唇を噛むのが見える。私は彼の背中を摩ることはしないし、手をつなぐことが出来る立場でもない。ここにはれっきとした溝があるから。


 どれだけ距離を詰められそうになっても、言葉を贈り合っても、最後には越えられない一線が私にはある。


「私も自分を貫きます。私は私の仲間と明日へ進む。だから早蕨さん、思い直すなら今ですよ。聞く耳持たない私を見捨てるのは」


 伝えてみる。


 これが最終通達。


 早蕨さんの方を向けば、困ったように笑った彼がいたんだ。


「見捨てません。絶対に」


 あぁ、ほらね。


 私は視線をそらして、また新しい本を開いていた。今度こそを願いながら。


「質問は終わりですか?」


「あー、いえ、ここまできたので最後に一つ」


「どうぞ」


 あ、この本にも載ってなさそう。歴史の本か。歴史だけかぁ。


「結目君と付き合ってるんですか?」


「……え、」


 落胆する中に、突如投げ込まれた変化球。


 本は突拍子のない質問に驚いて落してしまい、目を見開いている自分がいることも知っていた。


 早蕨さんを見上げる。彼は「いや、」と歯切れ悪く、恥ずかしそうに頬を染めていた。


「あんなに誰かに優しくしてる結目君、見たことなくて。あ、ほら! 凄く氷雨さんのことは特別扱いしてるみたいだし、俺が氷雨さんって呼んだら怖い顔してたし、やっぱりそうかなーみたいな!」


「いや、まったく、恋愛系のものは何もないんですが……」


「え?」


「うん?」


「……うっそだぁ」


「嘘ついてどうするんですか」


 若干早口で被せ気味にツッコンでおく。早蕨さんは笑顔で固まっており、私は落ちた本を拾っておいた。


「帳君は私を使う人ですから。彼、私を空から落としてましたし、我が道を行く方ですし」


「んー……んー……まぁ、氷雨さんがそう言うなら」


「……どういう意味ですか」


「はは、」


 ……なんだよ。


 結局呪いの解き方を書いた資料は見つからず、日が過ぎて――祭壇は作れなくなった。


この二人にちゃんと会話させたことがなかったって、書いてる途中に思いました。


明日は投稿、お休み日。

明後日投稿、致します。

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