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情報を人海戦術で集めよう―その1

「略奪、奴隷、海賊、山賊…」

「お嬢様、物騒な言葉を朝一から口にされて、どうしましたか」

「塩、金、商人、物価…」

「お嬢様、朝食はどうなさいますか」

「イワン、目玉焼き、魔物、移民…」

「承知しました」


 十分な魔力を確保したから、次は情報を集める必要がある。自分の眼で確かめたい気はするけれど、ダンジョンの拡張を続けながらではできない。ここは別の誰かに行ってもらって、情報を集めてきてもらう必要がある。


「そうそう、イワン。朝食を食べ終えたら、1500km、北に移動するから」

「かしこまりました」

「ここはそのまま。向こうに、同じような部屋を作る。2つの部屋を転移装置でつなげるけれど、基本的にはあちらが本拠地になる。こちらは必要な時に使うか、利用する資格のある人に貸し出すだけになる」

「承知しました。ところで先ほどの言葉ですが…」

「奴隷なら買うからね」


 イワンは目を細めた。


「ご承知だと思いますが、いわゆる奴隷商人というものは、人間を売買するとても醜悪な存在でございます」

「ええ、知っているわ」

「目の前の奴隷を不憫に思い、買い上げられても、その金で奴隷商人は新たな奴隷を狩り集めます」

「そういう仕事なのだから、当然ね」

「では、なぜ奴隷を購入しようとお考えなのですか」


 とりあえず私は目玉焼きを食べ終えた。


「まず、私は奴隷制度を廃止する。私の世界では廃止された。色々と理由はあるけれど、奴隷の仕事を機械で置き換えられたから、というのもその1つ。そして、この世界では私は世界征服を進めれば魔素を事実上、使いたい放題になるだろうから、奴隷はいらない」

「それは奴隷を買う理由でありませんな」

「ええ。私が奴隷を買うのは、情報収集と領民集めのため。奴隷から得た情報で、奴隷にされる可能性のある集団をここに移民させる。土地もある。移動もできる。何百人、あるいは何千人いても、全員受け入れられる」

「先祖伝来の土地を守るなどという理由で、拒否されるかもしれませんぞ」

「私は魔王よ?そんな理由を受け入れるはずがないじゃない」


 私は肩をすくめた。


「先祖伝来の土地は、大抵、別の先祖伝来の土地と重なり合ってる。将来的には、どこからどこまでかを裁定して、帰住させることもできるけれど、それは少し先になる」

「魔王だから、という言い訳は便利ですな」

「神の言葉だから、と言い訳とあまり変わらないから。さて、その前に移住してしまいましょう」


 リビングルームの壁面だった場所に、扉を作り、その中に転送装置を設置する。距離が遠いため、集中する必要でもあるかと思ったけれど、1450km先にも、ここと全く同じ構成でエレベーターホールとエレベーター、さらに部屋を作り出した。向こうの転送装置の設置を終えると、こちらの転送装置が光り出した。一人ずつという縛りが無ければ、魔法での転送は本当に便利だ。


「さて、行きましょう」


 約1500km先の新しい部屋は、日々、イワンが掃除している古い部屋より、どことなく生活感が無かった。連れてきたミニコアスライムも、テーブルの上のボウルの中で大人しくしている。湿気が少ないかもしれない。少し遅れてイワンも来た。


「まだ昼にもなっていませんが、どうされますかな」

「ワーウルフを村単位で召喚できるかしら?」

「それなら、王国単位で召喚してはどうでしょう」

「王国を呼び出したら、王族だけでなく、貴族や何やら色々とついてきちゃうでしょう。新しいワインは、新しい皮袋に。新しい法律に従えることを話し合いで決められるような単位で充分」


 何となく、地表までは距離があると感じられた。標高200メートルぐらいに感じる。それなら、広い部屋を作っても問題ない。エレベーターホールから東に通路を伸ばし、100メートル×100メートル、高さ10メートルのホールを作った。ここから地表に出るようにしよう。さらに南に通路を伸ばし、ちょっと気合を入れ直す。1km×1km、高さ10メートルの部屋を作る。床は厚さ3メートルの土。後で細かい所は修正すればいい。この部屋の灯りは、天井に埋め込み、外の時間と同期するように設定した。今は朝から昼に移る明るさだ。


「これだけ広ければ、村が丸ごと入るでしょう。さあ、始めるわよ」

「かしこまりました」


 イワンはパンフレットを差し出した。左右に木造の家が立ち並び、中央にワーウルフが一人、立っている。これがワーウルフの村という事なのだろう。畑まではこの空間には入らないだろうけれど、それは後で作ればいい。今は村の召喚が先だ。畑の部屋を作るのは、魔王である私の力をワーウルフたちに見せつけることにもなる。


「ここから世界征服が始まる。来たれ」


 かっこいい召喚の言葉でも考えておくべきなのか、それとも魔王なのだから、詩人でも雇ってしまうべきなのかと悩んでいると、部屋の中央に光の柱が現れ、そして、薄っすらと部屋中に村が浮かび上がってくる。光なのに影のように儚い形が次々と現れ、そのいくつかは人型で、動きの途中で切り取られた影絵のように見えた。その光が徐々に強く、そして実体感を増していき、十分に色が乗ったとなると、今度は逆に光が弱まり、影が増えていった。さすがに村を召喚するのには時間がかかる。10分、いや15分はかかったかもしれない。ダンジョンのどこかに、戦争をするための備えとしてゴーレムでも貯蔵しておくことも考えよう。


 一瞬の静寂の後、召喚されたワーウルフの村が騒然となった。代表者が来るまで、私は待つことにした。平屋だけだろうと甘く見ていたので、大仰な飾りが取り付けられたいくつかの2階建ては、天井すれすれになっていた。危ない危ない。次からは15メートルにしよう。

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