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利益率は10%が目標

 翌朝。魔素が体力になるダンジョンマスターは空腹になる事は無いのだけれど、それでも朝食代わりに紅茶と茶菓子を食べておいた。何か食べないと、目が覚めた気がしないのだ。一緒にイワンも紅茶を飲んでいた。この世界に紅茶があるのかどうか。それとも、何かのハーブティーしかない世界なのか。ダンジョンの建設が進んだら、これはできるだけ早く調べておきたい。


「では、始めましょう。12時間後に、もう一度掘れるはず」

「お嬢様、12時間後、とはどういう事でしょう?」


 良い指摘だ。年は季節が一巡りするという解りやすい概念だから通じたのだろうけど、それより細かい時間は、同じ言葉を口にしているようで、通じないのだろう。


「一日を太陽が昇ってから、もう一度同じように昇るまでの事と考えた場合、その時の長さを24に分けて、1単位を1時間と呼ぶ。つまり12時間は半日、ということになるわね。さらに1時間を60に分割して、この1単位は1分と呼ぶ。さらにこの1分を60に分割して、この1単位は1秒と呼ぶ」


 イワンは頷いているが、眼で見たほうが解りやすいだろう。私は掛け時計を作り出した。


「こんな感じね。くるくる回っているのが、秒を示す針。長い方が1分を示す針。短いのが1時間を示す針」

「数字が12までしかないのは?」

「太陽が一番高い時を12にして、深夜にもう1度、12になるようにしているの。午前7時、午後7時と朝なのか夜なのかは呼び分けている」

「朝や夜、夕方などという時間の区切りより、もっと正確に、数字で表しているのですな」

「この世界の時間の流れに一致させ…あ、されてしまっているのか」


 イワンの説明が正しいなら、この時計は、現地時間と寸分の狂いも無く、一致しているのだ。午前8時を示している。少しだけ、本当に少しだけ、1秒が早いような気がする。気のせいなのか、それとも本当にそうなのか。確認する方法が無いし、それに確認したところでどうしようもないので、気にしないことにした。


 それからエレベーターホールと名付けた部屋に向かった。私の部屋に一番近い側の壁に、50メートルの縦穴をつなげる。そこに5人乗りの小型なエレベーターをはめ込んだ。下のボタンを押すと、当然、すぐに扉は開いた。


「下に向かうから乗って」

「上下移動する機械仕掛けですな」


 イワンはすぐに乗り込んでくれたけれど、ボタン操作は私がやるしかない。上手く取り繕っていても、イワンにこういう機械仕掛けの知識が無いことは解る。B10のボタンを押して、縦穴の底に向かった。扉が開き、地下10階にすぐに同じようなエレベーターホールを作った。1歩外に出て、右か左か迷った。どちらでも変わらないのだから、右でいいだろう。10メートルの通路を伸ばし、3メートル四方の部屋を作る。


「ここから北へ?」


 私は頷いた。できたら、方向はどうでもいいから、部屋の壁からまっすぐに伸びて欲しい。エレベーターホールに戻ったり、エレベーターと重なったりしなければ、それで十分だ。


「えいっ」


 すぐ後ろにいるイワンが、吹き出すのを必死にこらえている気配がする。こんなに残念な掛け声を出すつもりは私も無かったのだけど、気が付いたら、そうなっていたのだ。ただ、結果は上々だった。


「1キロメートルね。1日目の1回目としては、悪くないかしら。この大きさなら、ミニコアスライムの通路として、ダンジョンの一部になるはず」


 10㎝×10㎝という通路が1キロメートル。エレベーターホールの通路から見て、右側にまっすぐ伸びていた。部屋の壁に対して、直角にまっすぐ伸びている。床と同じ高さだ。


「お嬢様、キロメートルとは?」


 思わず、額に手を当てた。距離の単位だと説明し、1メートルの物差しを作り出したことで、イワンに納得してもらえた。私の身長は160㎝あると説明しておいた。断じて、159㎝ではない。


「国を作る時、こういう単位は告示し、国民を教育する必要がございます。他に水などの液体や重さの単位もでございます」


 頷くしかなかった。言葉が通じるから、単位も通じて当たり前だと思っていたけれど、元の世界でもインチなどという違う単位があった。単位は税金はもちろんのこと、ありとあらゆることに関係して、影響を与えてくる。学校、しかも新しい住民に対して、国の決まり事や基本を教育することをしないといけないだろう。


「何もない所から国を作るわけだから、逆に何もかも教育し、説明して、理解してもらう必要があるというわけね。教材は準備するけれども、優秀な教師になる人材を探して、実際に教えるのは任せるしかないでしょうね」

「左様です。ところでお嬢様は12時間後、どれほど魔素が増えているとお考えでしょうか?」

「私の勤めていた会社、生産した製品を販売する商人の組合とでも思ってもらえばいいのだけど、そこでは10%の年間利益を目指していたわ。だから1回、全力で通路を掘るごとに魔素の総量が10%ずつ成長出来たら嬉しいかな」

「1回で10%ずつはかなり高望みではないでしょうか?現在の10%ずつならともかく、1.1倍になっていくのは増えすぎと思います」


 確かに、ミニコアスライムしか使用できない通路を伸ばしていくだけで、10%ずつ、1.1倍になっていくなら増えすぎに思える。でも、である。


「このダンジョンの状態で考えるとおかしいけれど、普通のダンジョンは罠を設置し、魔物を召喚して、冒険者を撃退しつつ、ダンジョンを拡張している。これぐらい魔素の報酬が無いと、拡張すればすぐに手薄になってしまう」

「街とは違って、森や山など人が来ないような場所では、魔素がそもそも少ないとのことですので、増加率は高めにしておかないと、少数のゴブリンしか召喚できず、あっさりやられてしまうということもあるでしょうな。ダンジョンマスターが、ねぐらを探していた熊にとどめを刺されるような恥ずかしいことが起きてしまいます」

「そうそう」


 私は気楽に言った。冒険者の脅威が無いのだから、ダンジョンは時間をかけて拡張できる。スローライフは素晴らしい。

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