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世界征服を決定する

「まったく、メグミお嬢様には、お恥ずかしい所をお見せしました」


 イワンは目に見えて恐縮していた。召喚されてから二日ぶりに体を洗える嬉しさにシャワーを浴びてしまったものの、ダンジョンマスターである私と違って、魔素で物を産み出すことができないため、バスタオルも着替えも無い状態になってしまったのだ。人生経験もあり、女性のお風呂は長いことを知っていたイワンは、いつ気が付いてくれるかも解らないまま、全裸で待ち続けるという絶望に打ちひしがれていたのだ。幸いにも、今日の私がすぐに気が付いたのだけど。


「いいえ、当たり前のことを見落とすこともある。それに気が付いて、恥ずかしい思いをしただけで助かったと前向きに考えましょう」

「ありがたきお言葉です」


 イワンが淹れてくれた紅茶を飲む。キッチンを作り、ソファを置き、こまごまとした内装を片付けることで二日目は終わりになりそうだ。シャワーを浴びている間に少し時間がたったおかげで、魔素は、どうやら一晩寝るとではなく、徐々に回復していることが実感できた。貯めておける魔素の上限がどれほどかは未だに解らないけれど、これはダンジョンを一定以上、拡張してしまえば、よほどの大仕事でなければ、魔素は尽きることが無いということだ。例えば、スケルトン兵を5000体も召喚するとか。


「この紅茶という飲み物は、美味ですな」

「同じような物があるかもしれないから、商人でも見つけて、手に入れましょう」


 主人と一緒に飲み食いするのは失礼にあたると拒んでいたけれど、紅茶の淹れ方を教えた上で、命令として飲ませたら、気に入ったようだ。まだ、外がどのような場所かを何も調べていないので、この辺りが紅茶の名産地ということもありえる。ただ、である。私の考えでは、別にここがどのような国で、どんな国王が支配していて、冒険者がどのように活動しているかなどなど、調べる必要はないのではないかという結論に達していた。


「ところでお嬢様」

「なにかしら?」


 紅茶を口にしていた時のイワンの穏やかな表情が引き締まり、口調が真面目になった。


「これからどうされるおつもりでしょう」

「世界征服をしよう、と考えているわ」


 精いっぱい、真面目に、回答したつもりなのだけど、イワンは渋い表情になった。確かにダンジョンを手際よく作り、大きな街のすぐ近くという不利な条件にも関わらず、安全を確保した。今のダンジョンは、生物の寿命的に攻略不可能だ。ダンジョンを作る素晴らしい才能があると自覚してもおかしくはない。それがどうなったら、世界征服に結びつくのか。私も何となくできる気がするだけで、まだいくつか検証しないといけないことがあるから、イワンがすぐに理解したり、賛同したりしないのは理解できる。


「…もっとも、いくつか調べないといけないことがあるから、それ次第ね」

「では、すでにいくつか、検証し、実行可能なことがあると」

「まずは1つ目として、ダンジョンが広ければ広いほど、補充される魔素が増えるということね」

「それは当たり前なのでは?」


 イワンは不思議に思っているようだった。


「ダンジョンに侵入する冒険者を殺さないと、魔素が手に入らない可能性もあったのよ。それが無い。ただ、ダンジョンを拡張するだけでいいのが、昨日と今日の使える魔素の差でわかった」


 紅茶を飲みほした。


「明日から、これを利用して、使える魔素を増やしていく。まずは今の100倍ぐらいに増やすことが目標ね」


 イワンは困惑しつつも、明日から実演が見られるのなら、と納得したようだ。できたら、1000倍に増やしたいと思っているとは言わない方がいいだろう。


「2つ目の理由としては、灯りや水、さらにお湯を作るのに魔素の消費が軽いこと。贅沢にシャワーを浴びていても、魔素が減って疲れる気がしなかった。ここまで消費が軽ければ、この世界の住民には想像できないことでしょうけど、ダンジョンの中で農業をやらせて、食料を自給自足どころか、輸出することも可能になる」

「農作物が育つには、太陽が必要なのではないでしょうか」


 私は首を振った。イワンは、灯りの魔法や松明、油を使用するランプで農業をするという不可能なことを想像してしまうのだろう。


「温度や光の時間と強さ、色、与える肥料、水などを適切に管理すれば、太陽の光は無しでも屋内で草木は育つ。そして、魔素で必要な物は作って、与えられる。農地の分だけ、ダンジョンの部屋を増やせば、必要な魔素が供給できてしまう。さらに…」


 私の言葉で考え込んでいるイワンを見ながら、続ける。


「ダンジョンの中なら、地上の自然環境とは無関係に農地を作れる。だから、無価値はずの危険な魔物に溢れた荒れ地や草木も生えない灼熱の砂漠、一年の半分が氷に閉ざされるような僻地の下にダンジョンを作り、農地にできる」

「…明日から、北を目指されるのでしょうか」


 少しの間をおいて、イワンはそう言った。ヒントを与えていても、あっさりと答えにたどり着くのは、素晴らしい頭の回転の速さだと思う。私より、頭が良いのかもしれない。そう。すでに有力な国が限られた土地を取り合っている温暖な土地は必要ない。


「北へ。そして魔素を増やしながら、国を作る場所を探す」

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