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ハノイの塔

 次の朝に目が覚めた。ダンジョンマスターになってから、二日目ということになる。そもそもダンジョンの中なので、時間はわからないし、朝なのかどうかもわからない。


「おはようございます、お嬢様」

「おはよう、イワン。生活に必要な準備を何もしなくて、ごめんなさいね」


 お湯を沸かすコンロもないのでは、執事らしいことは何もできないに違いない。身だしなみを整えることもできない。働く環境を整えないのは、主人として失格だ。


「ところでお嬢様がお休みの間に冒険者が入り込んでいました」


 平然と、今日は朝から晴れていますと同じような口調で言わんが告げることから、大したことではないのが解る。軽くうなずくとイワンは続けた。


「8枚まで突破されましたが、16枚を見たところで帰られました。人数は4人ということは感じられましたが、どのような職業なのか、何を話し合ったのかは解りませんでした」


 どうやって知ったのだろうと思ったが、私も何となく、今、ダンジョンには冒険者が入り込んでいないことが解る。体の一部のように、ダンジョンに触れていれば解るのだろう。詳しいことは直接見るか、監視カメラでも設置する必要があるのだろうけれど。


「16枚を突破されないなら、64枚のパズルを作る前に居住区を作った方がいいわね。通路に寝泊まりでは、気分的に落ち着かないもの」


 小さくうなずくのを見て、64枚の部屋だけを作り、さらに先に倍の長さの部屋を作った。エレベーターホールと心の中で名付けておく。その先に、2LDKのアパートを作った。中央のLDKから、左右に個室がある構造だ。そして、その個室にそれぞれバスルームとトイレを作る。


「あ、ベランダがありえないんだ」


 地上とは違い、すべては屋内なのだと気が付いて、イワンの個室に連結させて、洗濯乾燥室を作る。まずは内装は灯りだけにしているため、一気に作り上げることができた。一日目にダンジョンを作った分だけ、魔素の量が増えているのかもしれない。寝室の内装をフローリングと漆喰の壁に置き換え、ベッドを備え付けるだけは優先しておいた。ここまで作って、また土の上で寝たのでは間抜けすぎる。そして、タイル貼りにバスルームを整備し終えたところで、疲れを感じ始めた。灯りと同じで、給湯器もなく、配管していなくてもシャワーからは当たり前のように温水が出るだけでなく、使い終わった水はどこかに消えていく。魔素は素晴らしいけれど、この排水は後で魔素に頼らずに処理しよう。水の使い捨ては色々ともったいない。


「寝ることと身だしなみを整えることができるようになったのは進展ですな」

「そうだけど、魔素がここまで消耗が激しいとは思わなかったわ。ハノイの塔が思いつかなかったらと思うとゾッとするし、都市にダンジョンを作ってもうまくいかないのがわかる」

「多少のモンスターを産み出しても、数で攻め込まれていたら、無理でしょうな。パズルの事でしょうが、ハノイの塔?」

「実はハノイと何にも関係ないというパズルよ」


 イワンに私の世界での由来を説明した。ある数学者だったかが考え出したのだが、細かい所を忘れたので、適当にまとめ直す。


「1枚ずつ、64枚すべてを動かし終えたら、世界が終焉を迎えるという話になってる。それも当然で、5000億年ぐらいかかるらしいのよ。私の世界が生まれてから、100億年程度しかたっていないらしいけれど」

「なんとも壮大というか、珍妙な話というか…」


 話を聞き終わったイワンは首をかしげていた。ダンジョンマスターとしている世界が、作り出されてから何年たっているかは解らないけれど、私の知っているファンタジーの世界は作り出されてから数千年や数万年がせいぜいだった。イワンからしたら、5000億年は子供が考え出した数字にしか思えないだろう。


「それでは一度、休憩といたしましょうか」


 イワンは視線だけでバスルームを指した。この世界に来て、二日目にして、ようやくシャワーを浴びられるだけで気分は全然変わる。イワンは頭を下げると、自室に下がっていった。意外ときれい好きなのか、それともさすがに一緒に同じ部屋にい続けたことに飽きたのか…。


「水流切り替え機能に、マッサージ機能もあり。節水機能も、あってどうするつもりだったんだろう?」


 かなり高級なシャワー設備を作ってしまっていた。浴槽も二人でも余裕で入れるほど広い。なぜか、ほとんど汚れていない服を脱ぎ、シャワーを浴びる。さほど意識してないまま、シャンプーもリンスも、使っていたのと同じものを作り出していた。魔素があれば、電気や水道だけでなく、日用品まで使いたい放題なのだと気が付いた。


「魔素があれば、電気や水が使い放題なだけでなく、日用品なども魔素が続く限りで作り放題。バスタオルも後で作ればいい。服だってそう。洗う必要なんて、全然ない。ダンジョンを拡張すれば、毎日、魔素が手に入る量は増える。あっ」


 イワンはバスタオルすら無くて困っているはず。さっと浴びたら、作ってあげないと。

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