その8
石の調整を終えた翼と奏子が龍の部屋に戻ってきた。
「あれ? ミコトはまだ来てないのか」翼が尋ねた。
「それがね…」真里菜がいぶかしげに言う。「こっちの部屋に向かってたのよ。でも、手前の廊下で気配が消えて、匂いがしなくなっちゃったの…」
「龍も追えなかったのか?」
「…もやがかかるんだ。四辻の石と一緒に探したほうがいいと思って待ってた」
「わかった。奏子と一緒にミコトを探してきてくれ」翼は石の入った袋を龍に渡した。
* * *
正装に身を包んだ二人は、清流旅館裏の社で龍王への祈りを捧げていた。ほんの十数分の間に、曇天が晴れ間へと変わっていく。
「おまえの名のとおり、肉を捧げ、清めの儀式をした結果が、清清しい光というわけか。本当におまえは日輪の御加護を受けているのだな。幼き頃より毎回感心する…というか、妬けるな」
「字の意味はそうでございましょうが、肉を捧げるつもりはございません。龍王さまも、普段はこうして清流をただ御守りくださるだけですのに、どうしたものやら…」
「真大祭まで時間も迫ってきた。おまえのことを置いても、ミコトが覚醒しないこの状況を、守っていると称するには抵抗がある」
「それが今の龍王さまの守り方なのでございましょう」
両手を合わせながら、晴れ間の覗く空を見上げた彼女に、彼は言った。
「もう一つの“命”を使うことにした」
「やはりそうでしたか…」
「黄龍さまのお力をお借りすれば、真大祭後の機関の精査に耐えうる程度にまでミコトの力を開くことは私にもできようが、それでは何の解決にもならぬ」
「そうでございますね…」
「そう案ずるな。私が仕事をする間、おまえはこの花でも愛でておれ」
「龍が流した血の跡から生えてきたというこの花をですか?」
「幸福が訪れる。この花はそう告げている。それが“類稀なる龍の子”と“姫命宮”の最後の願いなのだからな」
二人は露にきらめく葉を携えた可憐な白いスズランの写真を見つめた。
* * *
清流旅館で“隠し部屋”と呼ばれる、一番奥の部屋に龍と深潮が話をしていた。
「ミコトを探すのはいったん奏子に任せた。その前に、黄龍の先の宮さまからの追加の石、そちらを確認させてもらう」
「こちらです」深潮が袂に入っていた箱を差し出した。
「追加というか…こちらが本番か?」龍が苦笑する。
「……」
「先ほど四辻の石の調整が終わった。それと一緒にしておく」
「はい」
* * *
自分の部屋を出たミコトは、龍が泊っている部屋の前で足を止めた。
“体が動かない…?”
“ここじゃないんだよ、ミコト”
どこからともない声に、ミコトは驚き辺りを見回した。
“もっと先へ”
ミコトはわけがわからぬまま、龍の部屋に背を向け、さらに奥へと進んでいった。
* * *




