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その4

 深潮が駆の言葉を告げると、紗由の兄・西園寺龍は小さくため息をついた。

「黄龍の今の宮がおっしゃるのなら間違いはないな。翼、すまないがいつもどおりに頼むよ」

「ああ、わかった。ミコトくんへの、なんちゃってカウンセリングと偽薬の処方だな」

「翼くん。それだと身も蓋もないよ」深潮の父・久我大地が苦笑する。

「ごめんごめん。でも実際に“治療”してるのは大地の“癒しの手”で、治療されてるのは青の龍王さまだろ。我が四辻の“石”は最後の調整にしか使っていない」


「おにいちゃまの“手”だけで大丈夫かしら。何か、嫌な感じの“匂い”がするわ」

辺りの空気を感じながら、翼と大地を交互に見つめるのは、翼の妻で、大地の妹・真里菜だ。

翼は真里菜にニッコリ笑うと、皆を見回した。

「この後、皆で清流を離れたら、真里菜の“鼻”と深潮ちゃんと祭ちゃんの“耳”も総動員だ。久我の力で情報収集・精査してもらうよ」


 龍が、翼の言葉を受け、妻の奏子を見つめる。

「そして翼と奏子、久しぶりに四辻兄妹の“石”のお出ましかな」

「一条の石がないと画竜点睛を欠いてますけれど」つまらなそうに言う奏子。

「今朝ほど祭宛てに、凜おじさまからスーパーセブンが2点届きました」深潮が言う。


 スーパーセブンとは、クリアークォーツ、アメジスト、スモーキークォーツの3種類の水晶と、カコクセナイト、ゲーサイト、レピドクロサイト、ルチルクォーツの4種類の鉱物、この7種類の石が混ざってできたパワーストーンだ。

「ほう。さすがは一条の先の宮。もう石を準備してくれたのか」翼が肩をすくめる。


「誰に使わせるつもりかしら。祭ちゃんと、黄龍の今の宮さまではないような…」奏子が首をかしげた。

「誰が使うにせよ、黄龍の宮お二人…一条の先の宮と今の宮、つまり黄龍の御加護を受けし最強コンビが動き出そうとしているのは確かだね」大地が言う。

「あのペアに勝る“命”(ミコト)は今の日本にはいないからな」

笑う龍に翼が言う。

「龍。おまえと華音ちゃんがコンビを組めば互角だと思うが」

「今の西園寺本家の“命”は昇生であって、私はあくまで一分家の “命”に過ぎない。華音はもう“弐の位”ですらないしな」龍は静かに微笑む。


この席に集まっている面々の中で、龍、翼、大地の3人は、神と交流し吉凶を受け取る “命”であった。

“命”には、吉事を受け取る“壱の命”と、凶事を受け取る“弐の命”とがおり、その二人の正位の他に、“壱の命”候補、“弐の命”候補である“弐の位”と称される人間がいる。

そして“命”輩出家の中でも、龍の祖母に当たる西園寺華織は伝説的な力の強さを誇る存在で、やはり孫に当たる華音もまた、同様に強い力の持ち主だった。

 だが、華音は力が強かったものの、西園寺の“夢宮”――夢で吉凶の隔てなく神の言葉の周辺を受け取り、“命”を補佐する役目――であった高橋悠斗に嫁ぎ、結局は“弐の位”も降りて、弟の昇生にその地位を譲ったため、現在は“命”の関連職位に就いているわけではない。


「謙遜も過ぎると嫌味よ、龍くん。それに華音ちゃん、今回はきっと出てくるわ。可愛い孫のためだもの」真里菜が言う。

「こちらも可愛い孫たちのために頑張らないとな、史緒」

「ええ。頑張りがいがありますわね」

 微笑み合う大地と妻の史緒に、一同はほのかな胸の痛みを覚える。


「神のご機嫌を取るのは、民のご機嫌を取るより難しいからな。久々の本気モードで行くか」

「国政よりも難儀というわけかい、龍」

「政なら下の者に任せられるぶん、時間が稼げる」

「言い得て妙だね、前総理」

 声を出して笑う翼を真里菜が諌める。

「笑い事じゃないわ、あなた。青の龍王さまの出方次第で、清流旅館や西園寺だけの問題じゃなくなるのよ」

「そうよ、おにいさま。まりりんの言うとおりだわ。四辻、花巻、九条、久我、そして一条家まで大変なことになるかもしれないのに」翼の妹でもある奏子も真里菜に加勢する。


「九代目が清流を離れてしまっている時点で、もう十分大変な事態だよ、奏子」

「翼の言う通りだ。つまり、そもそも論になるわけだが、九代目を清流に戻さなければいけない」

「龍おじさま。まさか、あの預言を…?」深潮が龍を見つめる。

「おそらく今の宮さまは、ミコトのために、あの彼女を使う」

「“石”はその時のためのものなのね。それなら納得だわ」頷く奏子。


「でも、彼女には何のメリットもない上に負担がかかるのよね…」不安げな真里菜。

「それこそ、まりりんの出番じゃない。彼女へのご褒美にお似合いの相手、見繕っておいてもらわないと」

 真里菜の実家、久我家の女性は代々世話好きで、そこかしこで縁談の世話をしていたりする。真里菜自身も例外ではなく、久我家を離れた今も、その中心的存在だった。

「そうねえ。ミコトとくっつくのが、無駄がなくていいと思うけど…」

「真里菜おばさま。無駄かどうかの問題ではありません」異議を唱える深潮。

「だが深潮ちゃん。結局は神の目から見て合理的なところが着地点なのかもしれないよ」

 龍は微笑むと、窓の外を一瞥し、立ち上がった。


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