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その3

 ミコトが箱を眺めていると、ドアがノックされ、祭と駆が部屋に入ってきた。

「あれ。親父も来たの?」

 ミコトは駆を不思議そうに眺めた。

「かあさんの名前で送られて来た荷物となれば気になるさ。亡くなったのは一週間前だ。本人からならば、期日指定で送ったことになるだろ」

「そうか。そうだよな」

「他の人に頼んで送ったのかもしれないわ」祭が言う。

「自分がいないことを見越して誰かに頼んだってこと?」ミコトが首を傾げる。

「そこまではわからないけど…」口ごもる祭の視線は宝箱を捕らえている。


「それがそうか」駆も宝箱を見つめる。

「うん。鍵がないんだよ。だから開けられなくてさ」

「うーん。確かに鍵がないと開かなそうだなあ」言いながら宝箱の全体を手でまさぐる駆。

“微かに四神の気配がする…大きさから言って、神箒か?”

「鍵は別送なのかしらね」

「あのばあちゃんが、そんな二度手間するか?」

「ばあちゃん、面倒は嫌いだけど、仕掛けるのは大好きだもの。例えばそうね、この宝箱の中身がおにいちゃんへの誕生日プレゼントで、鍵は誕生日当日に到着とか」

「それならありそうだな。かあさんぽいよ」

「ふむ。じゃあ、あと一ヶ月待つ………うっ……」宝箱を撫で回していたミコトが、突然頭を抱え込んだ。


「ミコト! 発作か?」

 駆がミコトの肩を抱くが、ミコトは頭をぐらつかせ、朦朧とした様子だ。

「薬はどこだ」

「…テーブルの…上……ちょうど…飲もうかと…」ミコトはやっとのことでベッドのサイドテーブルの上を指差す。

 粉薬の包みと水のペットボトルを慌てて持ってくる祭。

「…う…うん…。はあっ」薬を飲み込んだミコトは、しばらくすると大きく深呼吸した。

「おにいちゃん、大丈夫?」

「ああ。大丈夫だ。ごめんよ、いつも。どうも家に戻ると調子悪いな…」

「仕方ないさ。葬式の疲れが出たんだろう。気を遣うことはない」

 親父のほうが疲れているはずじゃないかと言い掛けて、ミコトは口をつぐんだ。


 ミコトは中学から東京の中高一貫校に通っていて、ずっと東京暮らしをしていた。

だが学校を選んだがために東京に出たわけでもない。どちらかと言えば、東京に行くことになったので、東京の学校に通っていたのだ。


 そしてミコトが東京に出た原因。それはミコトの夢遊病と、その前に起きる意識の混濁だった。身体自体は何の異常も見つからず、精神的なものだろうと言われていた。

そのため駆はミコトを、心療内科医の四辻翼に診てもらっていた。

翼は、深潮の叔母・真里菜の夫で、父親も有名診療内科医、実家の四辻医院は全国展開する有名病院、しかもパイロット経験ありという、ちょっと変わった経歴の持ち主だ。


 ミコトに症状が出始めた小学校6年生の頃は、夜寝る前に頭がふらつくという自覚はあるものの、その後眠っている間のことはわからないので、ミコト自身もさして深刻には受け止めていなかった。

だが昼間も時折意識がなくなり、その間の記憶がないまま1時間以上過ぎてしまうことが度々起きると、さすがに心配になってきて、東京住まいの母方の祖父・大地に付き添われて、翼の元へ通う頻度も高くなっていった。


 そしてそんな折、通っていた私立小学校の東京の兄弟校・青蘭学園中等部に推薦がもらえることになり、ミコトは中学校から一人東京で暮らすこととなったのだ。

ただ、一人とは言っても、下宿先は神田のビジネスホテル、グランフェスタ・ドラゴンブルだった。清流旅館の系列ホテルなので、従業員がいつも様子を気遣ってくれているし、母の深潮が週に一度は足を運んでいた。

実家の家族ともテレビ電話で毎日何かしらコンタクトを取っていたし、一人暮らしの淋しさとはあまり縁がなかったかもしれない。何より、東京にいる時は翼がいるという安心感からか、症状自体出ることがなかったので、普通の暮らしを楽しんでいた。


「ばあちゃんに言われたっけなあ。疲れると具合悪くなるのよって。でも、清流までの移動時間も心配だから、あんまり帰るなっていうのは過保護だったよな」

「あら。ちょうどよかったんじゃないの、おにいちゃん。東京で羽目を伸ばす口実になって」

「そんなことないさ。家族一緒のほうがいいに決まってるだろ」ペロリと舌を出すミコト。

「まあ、いい。これから、母さんも俺も祭も、龍おじさんちに移動だ。明日の食事会の準備に呼ばれてる…おまえは家で休んでろ」

「翼おじさんも一緒?」

「ああ」

「なら行くよ。家に一人でいるより安心だし。それに箱のこと、龍おじさんなら何か知ってるかもしれない」

「それもそうね。じゃあ、出かける時間まで休んでて。30分前になったら呼ぶから」

 祭はミコトをベッドに寝かせて肌がけを丁寧に掛けると、駆と一緒に部屋を出て行った。

 ミコトがうっすらと眠気にみまわれた時、机の上では、宝箱のフタに彫られた青龍が、そのつむっていた目をゆっくりと開いた。


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