その17
高橋メイは怪訝そうに弁護士の町山の顔を見つめた。
「私にですか…?」
「そうです。高橋紗由さんがお亡くなりになったあかつきに、この手紙を渡すようにと父が託されておりました。メイさんが留学中でいらっしゃったので、お渡しするのが遅くなりましたが…。」
メイの父・飛馬の会社で二代続けて顧問弁護士をしている町山は、1通の手紙を差し出した。裏を見ると“西園寺華織”という名前が記されている。
「依頼主はあなたのおばあさまの華音さんの、さらにおばあさまに当たる方です」
「はい。曾曾おばあさんですね。高橋紗由さんは、先日他界された遠い親戚です。祖母たちがご葬儀にうかがってきたと聞いてます。でも、どうして私に手紙が?」
「理由までは私も存じません。そういう委託内容でした」
「そうですか…ありがとうございました」
腑に落ちないながらも手紙を受け取ったメイは、町山が帰るとその手紙を読み始めた。
「高橋命さま
怪訝そうにこの手紙を読んでいるあなたの顔が浮かびます。驚かせてしまったことを、まずはお詫びします。ですが、あなたにはこの鍵を渡さねばなりません。大切なものを守るのに必要だからです。
この鍵で開けた先にあるものを読み解き、あなたのものとしてください。いずれ九代目となるあなたなら、それができるはずです。
心より愛を込めて 西園寺華織」
手紙を読み終えたメイは困惑していた。内容もわけがわからないが、封筒の奥から出てきた鍵にも心当たりがない。
一見、普通の部屋の鍵のようにも見えるが、軸の部分が丸みを帯びていて、ちょっとクラシックな感じにも見える。いったいどこの鍵なのだろうか。
「“九代目”って何?」
メイが思わず声に出すと、リビングには祖母の華音が入ってきた。
「どうしたの、難しい顔をして。久しぶりに家に戻ったのだから、もっとゆったりしてなさい。それじゃ長旅の疲れも癒えないわ」
「おばあちゃま…これ見て。おばあちゃまのおばあちゃま、西園寺華織から私宛の手紙だって言うの。さっき、町山さんから渡されて…」
「おばあさまから?」渡された手紙を興味深そうに読み始めた華音は、しばらくするとお腹を抱えて笑い出した。
「お、おばあちゃま…?」
「人違いね。この手紙、あなた宛てじゃなくてよ」
「え? でも、ほら、“高橋命さま”って書いてあるわ」
「“メイ”じゃなくて“ミコト”と読むのよ。町山さんの勘違いね。…まあ、ちゃんと連絡先を書いておかないおばあさまがいけないと思うけど」
「高橋ミコトさんて、誰?」
「書いてあるでしょう。いずれ九代目となる人よ」
「知ってる人?」すんなり答えない華音に、メイが口を尖らす。
「一ヶ月前、紗由ねえさまと翔太にいさまのご葬儀でお会いしたわ。彼らのお孫さん。あなたと2つ違いかしら。先日、東京の大学を卒業したばかりだそうよ」
「ああ、清流旅館の人。その九代目になる人ってことなのね」
納得したメイだったが、それも一瞬だった。
「でも、おばあちゃま…この手紙の先にいるその人、“力”を感じないわ。本当に、あの清流の跡取りなの?」
「ええ。ミコトさんはまだ能力者ではないの。妹さんはすでに、かなりのものだけれどね。そうだわ。ミコトさんに、この手紙、お渡ししていらっしゃいな」
「郵送じゃなくて?」
「大学が始まるまで暇でしょ?」
「別に暇じゃないです。新学期までにしておくこと、山ほどあるもの。今回、かなり急だったし…」
「じゃあ、これはおばあちゃまが依頼するアルバイト。今の質問の答えを自分で見つけていらっしゃい。そうね…バイトのギャラはパパのジムの倍出すわ」
「うーん…」
とある事情で留学先のアメリカから急遽帰国し、青蘭学園大学に戻ることになったメイは、留学先で予定していたバイト収入がなくなったこともあって、祖母が出すというバイト代にはかなり心を引かれた。
「それにほら、あなた清流旅館に行ってみたいって言ってたじゃないの」
「有名な宿だし、お葬式の時は日本にいなかったから…まあね」
「ミステリ小説の登場人物になったつもりで、自分で謎を解いていらっしゃい」
「私が謎を解く…?」
華音の提案に心をそそられたメイは、結局その提案を受け入れることにした。
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