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その16

「あー、その呼び方、いったんおやめください。ざっくばらんにお聞きしたいことがございますの」


 龍の自宅での会合の折、そういった会合での呼称を無視するような真里菜の発言に、鈴露をはじめ、一同は驚き、彼女を見た。

「はい…?」


「メイちゃんを呼び戻すということですけど…メイちゃん、鈴露くんに告ってるんですよね?」

「あー、えーと…ていうか…」

 思いもよらぬ質問に、鈴露も普段の口調に戻る。


「私の調べによりますと」

 コホンと咳をする真里菜。

「高橋華音一家の力を警戒する、力のない“命”たちからの圧力で、華音ちゃんはメイちゃんの力を封じて、アメリカに留学させることにしました。でもメイちゃんは予定より早く日本を旅立った。それは、鈴露くんに行けと言われたから。そうですよね?」

「あ、まあ…はい」

「あなたと祭のこと、メイちゃん、ご存じなのかしら?」

「知りません…でも僕は、メイと付き合うつもりはないと、はっきり言ってあります」


「甘い!」

 びくっとする一同。

「甘過ぎよ、鈴露くん。あのメイちゃんが、一度そう言われたからって簡単に引き下がるわけないでしょ。隙あらば彼女になろうと思ってるに決まってるじゃない!」

「は、はい」

「ずっと連絡取り合ってたんでしょ? 私は時々恋愛相談されてる」

「はい…」

 一同は思った。“鈴露くん、まりりんに逆らわないほうがいいよ…”


「今、呼び戻して、祭の存在がばれたら、ミコトを開くどうこうなんて、一気に吹っ飛ぶわ。彼女なら、あなたにビンタ一発して、即効でアメリカに戻るはず」

「真里菜…それはちょっと…彼の責任じゃないよ」

 翼が言うと、真里菜はキッと翼を睨んだ。

「正しいとか、正しくないとか、問題はそこじゃないの。メイちゃんがどう感じて、どう行動にでるか。それによって、ミコトの未来が決まるのよ」

「まりりんが正しいな」龍が言う。


「思わせぶりしたってことかしら」不機嫌そうな祭。

「してないって! 留学先での心配事とか相談されたら、普通返事するだろうが。いとこなんだし!」

「じゃあ、何で私のこと言ってないの?」

「…聞かれてないし」

「で、いつ言うつもりだったの? 親愛なるいとこ様に」

「……」下を向く鈴露。


「ありがちなのよ」ため息をつく真里菜。「好きじゃなくても嫌われたくない。その挙句に、ややこしいことになる。簡単に言うと、先を読めなさすぎ」

 一同は思った。“全国で一二を争う“命”なのに、先を読めないって言われてる…”


「あの…鈴露くんの先を読めなさすぎは、いったんこっちに置いておいていただけませんでしょうか」

 鈴露にダメ押ししながら、話に割って入る史緒。

「それはある意味、そういう彼を見抜けなかった祭にも責任があるわけですから」


 一同は思った。“鈴露くん、史緒ちゃんに謝ったほうがいいよ…すっごく怒ってるよ、彼女…”

「そうね、おばあさま。私、おばあさまみたいに男の人を見る目がなかったんです」

「そんなことはないわ、祭」史緒が微笑む。「大地さんのような方、そんなにいるわけがないし、世間の男の方なんて、しょせんそんなもの。妥協は一つの才能だわ」


 フォローしているのかすらわからない史緒の言葉に、一同は次の言葉を続ける勇気がなかった。しばらく続く沈黙。


「話を元に戻しましょう」真里菜が言った。「鈴露くんはメイちゃんが戻ったら、正直に祭とのことを告げること、いいですね」

「は、はい…」

「その上で、力を貸してもらえるようにするには、どうしたらいいんですの?」史緒が尋ねる。

「建前的には、メイちゃんに、あなたが西園寺の本筋を継ぐ能力者であり、清流を救う義務があると自覚を持ってもらう」

「本音的には?」真琴が尋ねる。

「鈴露くんよりいい男を紹介して丸く収める。私が会長を務める久我コンツェルンの財力を駆使しましょう」

 一同は思った。“何億使う気なんだ…”

「そして私の人脈の結晶、カップリングリストも使います」

 一同は思った。“こっちが本番だ!”

 龍が二度ほど咳ばらいをする。


「では、ざっくばらんな話についてはお任せしましょう…まりり…香の姫に」聖人が呟く。「まず、西園寺本家の元“弐の位”高橋華音を説得し、その孫娘、高橋メイの封印を解いてもらいませんと」

「彼女を説得?」奏子がため息をつく。「順番が違います。まずは元夢宮、高橋華音の夫、高橋悠斗氏に交渉を。ですわよね? 書の姫」


 問われた史緒は、ゆったりと頷く。

「それが最適の策。まずは我が“書”を夢にて通達いたします。咲耶さん、あなたは花の印をお願いします」

「どの花を?」

「……紫のオダマキにしましょう。花言葉は“勝利への決意”」

「承知いたしました」


「石の姫…あなたさまは、大女将を偲ぶ女子会のアイテムとして、ブレスレットをお作り下さい。西園寺の元“弐の位”、高橋華音にも、お渡しいただきたく」

「はい」

「私はミコトの香りを追います」真里菜がうなづく。

「お願いします。琴の姫は…」

「兄と一緒に白虎様…というか、びゃっこちゃんを追います」真琴が微笑む。


「深潮さん」

「は、はいっ!」

 母親の史緒に呼ばれた深潮は、びくっとして背筋を伸ばす。

「ミコトの件、大体の流れが決まりました。真大祭の神事がらみのことについては…“命”さま方と、清流旅館亭主の駆さん、そして女将となるあなたがいればよろしいでしょう。

 私たちは、食事の支度を手伝うことといたします」


「承知いたしました」頭を下げたのは駆だ。

「それでは、黄龍の若宮さま、龍の宮さま、聖の宮さま、花巻の宮さま…久我の宮さま、ごきげんうるわしゅう」

 史緒は一礼し、スッと立ち上がった。

 慌てて走り寄り、ふすまを開ける祭。

 女性陣は次々とそこから出ていった。


 部屋には微妙な空気が漂う。

「鈴露くん…ごめんね、うちの真里菜が」頭を下げる翼。

「…いえ。僕が先を読めなさ過ぎたんです」

「ああ…ごめんね、鈴露くん」大地も頭を下げた。「史緒はちょっと天然なところがあってさ」

「紗由ねえちゃん亡き後、仕切るのが史緒ちゃんだっていうのは意外だったなあ」笑う聖人。

「本気だからだろ。可愛い孫のために見せた、九条の姫の本気」充が言う。


「よし! こっちも本気出すぞ」聖人がこぶしを握る。「ミコトを開いて、清流を存続させ、鈴露くんと祭を結婚させよう!」

「祝辞でも考えておくか」龍が言う。「どう考えても仲人はうちだ」

「そうだな」翼が笑う。


「鈴露くん」龍が座り治す。「私たちは君の味方だ。それだけは忘れないでほしい」

「ありがとうございます」

 鈴露は深く頭を下げたが、こみ上げてくる感情で、肩の辺りがこわばるのを感じていた。


  *  *  *    


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