表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/20

その14

 庭でバトミントンに興じる8歳の鈴露と6歳の祭の姿を、彼の養父母である出雲と世理は穏やかな笑顔で見つめていた。

「ああしていると、やっぱり8歳のお子さんですねえ」翔太が言う。

「ええ。ですが私たちの前であんな笑顔を見せたことはありませんでした」

「祖父の凜の前では特にそうです。言われたことをただ無表情に聞き入れるだけ」

 鈴露の義母・世理が悲しそうに微笑んだ。

 

「鈴露さまは大人の事情をご理解されているということですか」

「まあ、そういうことです」

「鈴露さまには何の罪もないというのに…」紗由が視線を落とす。

「でも紗由さま。あの子は初めて私たちにわがままを言ったのです」

「それが今回のお招きなのですね」


「こいつは一週間前からそわそわしっぱなしです」鈴露の義父の出雲が笑う。

「だってあなた、鈴露がお友だちを招待するだなんて…」

「いえいえ、祭にとって鈴露さまは“神様”ですから」

 翔太が言うと、鈴露の頭上でスコンという音がした。

「祭ったら、神様の頭にスマッシュを決めてるわよ」

 4人は、鈴露が頭を抑える様子を眺めながら、軽やかに笑う。


「鈴露は普段あまり話をしないのですが、あの日以来、祭ちゃんのことばかり」

「それは祭も同じです。ただ、うちの場合はあの子の兄のミコトに力が見られぬもので、彼に伊勢での話はできません。仲の良い兄に秘密を持つのは辛いようですが」

「そうですか。お兄様にはお力が…」


「凜くんと悠斗くんはお母さま同士が姉妹の、従兄弟同士。西園寺を取り巻く諸事情もお聞き及びですわよね」

 紗由が尋ねると、出雲と世理はこくりと頷いた。

「皮肉なものです。鈴露はその抜きん出た力ゆえ、出生の秘密も悟り、苦しんでいますのに、あちらの方々はその力の足りなさゆえ、揉めていらっしゃるのですから」

「世理」出雲がとがめるように言う。

「…申し訳ございません」


「よろしいのですよ。事実ですから。ですが、祭のことは、そういった事情とは別に、鈴露さまの息抜き相手として、お許しをいただければと思います」

「もちろんでございます。一条宗家としてではなく、鈴露の親として、今後ともお付き合いをお願い申し上げます」

「二人の笑顔を私たちで守っていきましょう」

 翔太の言葉に、紗由、出雲、世理の3人は力強く頷いた。


  *  *  *


 それから半年後、紗由は鈴露からの招きを受けていた。

「お久しぶりでございますね、鈴露さま。…一条宗家にお邪魔してから、もう半年になりますかしら」

 微笑む紗由を見つめ、何か言いかけた鈴露だが、すぐに下を向いてしまう。


「こうしてデートのお誘いをいただいたのには、理由がおありなのでしょう?」

「は、はい。…あの…祭から手紙をもらいました」

「そうですか。あの子は何と?」

 紗由が首を傾げると、鈴露は少し困惑した笑顔を見せた。

「自分を神様にしてくれと書いてありました」

「神様に?」


「はい。人間は神様のお嫁さんになれるかとおかあさんに聞いたら、神様同士でないと駄目だろうと言われたんだそうです。だから自分を神様にしてほしいと」

「あらあら。あの子ったら、鈴露さまのお嫁さんになりたいのね。…で、鈴露さまはどうなさるおつもりなんですか?」

「祭は、もう神様です」

「え?」

「僕に光をくれました。僕にとっては神様です」唇を噛みしめる鈴露。


「…祭が聞いたら喜びますわ」

「ですが、このままでは僕は祭をお嫁さんにはできません」

「そうですわね。あなたさまは一条宗家の跡取り、祭は清流旅館の…いえ、巫女寄せ宿としての清流旅館の跡取りですものね」


 鈴露が悔しそうに言う。

「祭が青の龍王さまのご寵愛を受けているおかげで、西園寺は難を逃れています。西園寺本家の“命”さまも、分家の“命”さまも、僕と祭の結婚など、許してはくださらないでしょう」

「それはどうでしょう」

「何より、我が一条の先の宮さまのお許しが得られない」


 紗由は大きく深呼吸した。

「現時点ではそうかもしれません。ですが鈴露さまは8歳。祭は6歳。結婚までにはまだ20年ぐらいあるんですから、それまでにじっくりと策を練ればいいんです。すべてがうまく行く方法がきっとありますわ」

「紗由さま…」

「私たちにお任せください。必ず二人の幸せを手に入れてみせます」

「…はい」


 紗由は鈴露の澄んだ瞳を見つめると、“たとえ、この命に代えても”という言葉を、胸の奥深くに刻み込んだ。


  *  *  *    


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ