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その11

 清流旅館を離れ、儀式のために昼食会を催すという龍の自宅では、大広間に12人の人間が袴姿で座していた。

 床の間の前の上座には龍が、その右斜め前方には奏子がいて、龍から見て左側の上座側から上二つは空席になっている。

 続いて龍の従兄弟に当たる西園寺聖人とその妻・咲耶、清流旅館の八代目となる駆、その妻・深潮が並んでいた。

 右側は四辻翼、花巻充、久我大地、翼の妻・真里菜、充の妻・真琴、大地の妻・史緒が座っている。


 龍が言う。「ミコトが所在不明なので、このような形にさせてもらった。すぐに黄龍の若宮さまもおいでになる」

「祭ちゃんは?」充が尋ねる。

「黄龍の若宮さまをこちらへご案内いたしております」

「さて、ミコトくんの件を、どう語るおつもりか…」

 充が言うと、駆が唇を噛み、頭を下げる。


「失礼いたします」

 入ってきたのは、袴姿の鈴露と祭だった。


「ご機嫌麗しゅうございます、黄龍の若宮さま。ご足労いただき、ありがとうございます。こちらへどうぞ」龍が頭を下げた。

「恐れ入ります」

 龍と奏子が空席になっていた席に移り、一同が一斉に頭を下げる中、鈴露は祭を従えて上座へと向かう。

 鈴露が上座に座り終えると、龍が頭を上げ、それを合図に一同も頭を上げた。


「ご機嫌麗しゅうございます、西園寺の兄宮さま。お招き、大変ありがたく存じます。…もっとも、今回の集まり、招待状なき時は、我が手で作るつもりでおりましたが」

「今は政治的駆け引きに弄する時間はございませんゆえ」

「さすがは無駄のない手腕で政に貢献された西園寺さま。恐縮でございます」


「若宮さま。堅苦しい挨拶はその辺りで。今日はざっくばらんな集まりですゆえ」

「そうでしたね、四辻の“命”さま。ですが取り急ぎ、我が師たる四辻さまより上に座すことの非礼をお詫び申し上げます」

 鈴露は翼に向かい深々と頭を下げた。

「左様なお気遣いはご無用にございます。西園寺殿は別格としても、貴方様に勝る宮は今の日ノ本にはおりませぬ。その場所は相応なもの」

「過分なお言葉、いたみいります」


「さて…それでは今回の若青龍さまの予定よりも早い動きにつきまして、宮さまのお考えをお聞かせいただきましょうか」

 翼の言葉で一同は改めて鈴露を見つめる。

「“類稀なる龍の子”翔太さまと、“西園寺の姫命宮”紗由さまが没せられて以降、我が羽龍を若青龍さまの周りに遣わしました。

 若青龍さまはどうやら、西園寺華織さまの策により、自分が伊勢に戻され、古の青龍さまが復活ましますのではと、ご懸念のご様子」

「若青龍さまを懸念させるなんて、華織おばあさまのほうがより強いってことかしら…」

 ぼそりと呟く真琴に皆が思わず笑いを漏らす。


「真琴さまのおっしゃるとおりかもしれません。若青龍さまは日が浅き一獣神。華織さまが他の神々と交渉済みであったなら、勝算は華織さまにあるはず。ただ…」

 鈴露が史緒に視線を移す。

 史緒は一枚の半紙を差し出しながら、震える声で告げた。

「“修羅”の言の葉が…降りてまいりました」


「つまり、若青龍さまは他者の意向には従わない、ということですね」鈴露が言う。「ですが…龍の宮さま、聖の宮さま。私はあなた方、西園寺分家を巻き込むつもりはございません。特に龍の宮さまにとって、龍王さまは“宿”の守護神。抗うのは理に反することでしょう。八代目と若女将も同様です」


 “宿”は、“命”が神との交流を図るために定期的に訪れる祭事所であり、清流旅館は西園寺分家の龍が拠点とする主宿であった。“宿”の家族には、“命”同様に超常的な力を有する者がおり、駆の父・翔太などは“類稀なる龍の子”と称されていた。


「しかしながら、宮さま。一条の“命”たるあなたさまが手を出されるのが、理にかなったこととも…」

「我が一条は、曽祖父・誠の頃より、黄龍さまのご指導に従い、赤子流怒大祭における石による浄化のお手伝いをさせていただいております。私が為すのは、あくまで祭りの石を整える勤めの一端に過ぎませぬ」

「なるほど。それについては伊勢も物申せまい」うなづく龍。

「ただ、一条の“命”という立場で、それ以上の手出しができぬのは、皆様ご承知のとおりでございます」少し顔が曇る鈴露。


「それでは宮さま。どうか、私が持つ四辻が石の力をお使い下さいませ。一条のパートナーである現・四辻の石は、そういう意味ではあなたさまと同じところまでしか用いることができませんが、私個人の石ならば…」

 奏子が頭を下げると、鈴露は微笑んだ。

「お気持ちだけいただいておきます、石の姫。あなたさまも今は西園寺分家のお方です。そして他の皆様方も同様です。四辻、花巻、久我、九条の皆様にはご観覧願いたく」

「そうはおっしゃいましても、とても石を整える作業の一端で済むようなことでは…」翼が言う。


「若青龍さまはどうやら、翔太さまと紗由さまとの約束を反故にするご様子。看過できません、絶対に」

「約束を…? 七代目が“命魂”に込めた願いをですか…?」

 駆と深潮は深刻な顔で鈴露を凝視する。


 “命魂”というのは、清流旅館の当主に与えられた特別な力のひとつだ。当主は一生に一回、命をかけて願ったことは青龍の力により、必ず叶えられる。

 “命魂”は自分が使わなかった場合、次の当主へと継承することができた。

 四代目当主の跳治、五代目の飛呂之、六代目の鈴音のぶんが、七代目の翔太まで持ち越されていて、つまり翔太は青龍に対し、4つの願いを聞いてもらえることになっていた。


 今集まっている一同は誰しもが思っていた。

 翔太の死は誰の目にも早すぎた。だが、命を掛けてでも願わなければならない事柄が目の前に多くあり過ぎたのだ。

 ミコトの幸せ。祭の幸せ。清流旅館の存続…。

 もっとも文献によれば、その願い自体はまず伊勢に届き、後に青龍の元へ使わされ、その力を使うという手はずになっているようで、現当主や次の当主などの関係者が、遺言を元に青龍と相談するという流れなわけではなく、駆たちも、翔太が何を願ったのかを正確には知らずにいた。


「若青龍さまは人間世界のルールを破り、ミコトの姿を借りて祭を娶るつもりでいらっしゃる。そうである以上、私は祭を守るために若青龍さまと戦います」

 鈴露の言葉に一同が静まり返った。


「高橋メイを呼び戻します」鈴露は淡々と述べた。

「やはりそれが…朱雀の若姫を使うというのが、宮さまのご結論か」龍が言う。

「はい。そして皆さまもうお気づきでいらっしゃいますでしょうが、ミコトは私が外に出しました。若青龍さまに体を使われた場合、少々手間がかかりますゆえ」


「では…ではミコトは無事に清流に戻るのですね」深潮が尋ねた。

「それはミコト次第。自分の身に起きたことをどう受け止め、自分を開かせるか。それは彼次第です」

「うまくいかない場合もあると…?」深潮の声が震える。

「これから一か月ちょっと、さまざまなことが起きますが、全力で対処する所存でおります。どうか私を信じてください」

「ありがとうございます」

 皆が一斉に声を合わせて頭を下げる。


「あの…ちょっとよろしいでしょうか」真里菜が身を乗り出した。

「何でしょう。香の姫さま」

「あー、その呼び方、いったんおやめください。ざっくばらんにお聞きしたいことがございますの」

 一同は真里菜を見つめた。


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