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聖女と魔女  作者: 岩本凮
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赤魔女

 私は魔女と呼ばれる者。かつては違ったけれど、今では人間たちが想像する通りの強欲でわがままで好きなように生きる摂理から外れた者だ。

 時に人を騙し、魔法でカエルに変え、人の恋路を邪魔して悦に入る。そんなはた迷惑な存在だ。

 

 いつものように人の町に繰り出し、何か悪巧み出来そうな噂はないだろうかと耳を傾けていると、最近町の景気が良い事と教会が関係していることが噂されていた。


 この町には世界的に信仰されている教会の支部が存在し、町の大きな役割を担っている。

 その教会が最近聖女が降臨したと風潮し、信者が増えていると言う。


 実際に聖女を見た信者はいないが、教会に祈りや寄進した信者達に次々に幸運な奇跡が起こっていると言う。

 何とも嘘くさい話だが、市民や商人、貴族までもが寄進を行い、遠い都の王族までもが祈りの為にこの町へと通っているという。

 奇跡よりも金の流れの方が動いている話だった。


 興味が出てきた私は噂の聖女様が本物なのか確かめることにした。

 教会に忍び込むと一般観覧場所は質素な造りをしていたが、高位聖職者の住居区に入ると、成金的な装飾がされていた。


 やっぱり聖女なんて偽物なんじゃないかなーと、装飾華美な高位聖職者達を横目に見ながら探索していたが、聖女と思われる女性は見当たらなかった。

 しょうがないからシスターを追跡して聖女を探していると、教会の離れの塔に通うシスターを見つけた。

 塔は古く頑丈で陰湿で冷たい印象を与え、扉には兵士が常駐し厳重に監視されていた。

 きな臭さしかない状況で、深夜に塔に忍び込むと最上階の一室に聖女がいた。


 部屋に充満する禁制品の洗脳の香の匂いに顔を顰めながら聖女に近づくと、ベットに腰掛け虚空を見ながら頭を揺らす彼女が哀れでならなかった。

 すでにまともな思考も意志もない。教会の操り人形と化した姿だった。

 

 ゆっくりと聖女に近づくと彼女は私を見つめてくれた。まだ意識があることに安堵しながら彼女の手を取り、魔力を流し込み状態を確認して、記憶も意志も刈り取られた酷い状態に久しぶりに人間の醜さと強欲さを思い出させた。


 彼女は私と同郷だった。もう二度と戻れない故郷から無理やり連れだされて、こんな場所にいる。焦点の合わない聖女の顔が一瞬かつての私と重なった。


 私は居ても立っても居られず、聖女を塔から連れ去り、森の隠れ家で治療することにした。

 記憶を失くした彼女に砂月(さつき)と名付け、話しかけ、薬を煎じて森を歩かせた。

 彼女は徐々に回復し外を歩き、微笑むようになった。


 しかし、私達のささやかな幸せを教会は見逃してくれなかった。聖女が居なくなった教会は血眼で聖女を探し手段を選ばない。魔術痕で私だとばれる前に私は教会を急襲し、宣言した。


「聖女は私が殺した。人々に慕われ、奇跡の力を持ったあんな女は殺してやったわ!!」


 聖女が着ていた血濡れの服を見ると人々は簡単に騙された。


 憎悪によって襲い掛かる人々に私は失笑しながら砂月(さつき)に危害が及ばないように旅に出ることにした。人々は私を受け入れてはくれないだろう。果てのない放浪の旅路を私は嗤いながら、時折くる白魔女の手紙に微笑みながら旅を続ける。


 そう私は人々に恐れられる赤魔女である。 


 


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