広嶋君を餓死に追い込もう!
『料理を作る人にとって、重要なのはまず、作る気持ちです』
「なるほどー」
『食べて頂く人にとっては、間食を控え、お腹を空かせてもらえると料理を頂く楽しみが出ますね』
「そーなんだぁ」
料理を勉強中の沖ミムラ。テレビでやっている料理番組を参考中のこと、よからぬ事を閃いた。
ロクでもない、アホな子め。
◇ ◇
「広嶋くんに美味しい料理を提供したいので!!」
後日、ミムラはいつも訪れる喫茶店に仲間を何人か集めて、とある提案をした。
「広嶋くんを餓死に追い込みたいです!!美味しいって、褒められたい!」
「愛されたいのか、殺したいのか分からない発言だねぇ……」
「厄介な奴に、……広嶋は惚れられたな」
野郎2人。といっても、喫茶店のマスターはご老人の風体のくせして、人間とはかけ離れた存在。しかし、彼でも人間的なアドバイスを送る。
「ミムラちゃん、君が料理を上手くなるという選択肢はないのかね?」
「勉強中ですけど。そんなにすぐに上手くならないじゃないですか!2週間頑張っても、未だに砂糖と塩の区別がつかず、鍋に入れちゃってます!」
「味見しなさい」
「怖いです!」
自分の作るもんが怖いと思うのに、人に提供するとか悪魔だな。
「餓えさせるのなんて、1週間あれば大丈夫なんじゃないですか!?たぶん!広嶋くんでも!きっと!」
「どーいう信じ方なんだ、……ミムラ」
アシズムに対して、ミムラと同じく人間である藤砂空。広嶋とミムラの2つ年上の男性。ちょっと、独特なテンポで話をする人である。
「とはいえ、……あいつが餓死で死ぬとも思えんが」
「藤砂さん!アシズムさん!念のため、訊きますが!広嶋くんもお腹、空かせますよね!」
「ま、まぁー。そうだね。こちらでご飯を頂くし。強い人でも同じじゃないかな?」
「だろうな、……だが、そーならんと思うがな。世界中の食料が無くなるとかにならん限り!」
ここにいる3名は全員、特殊な能力なり、超人的な身体能力を持っていたり、得体の知れない物を持っている。そして、今。どっちみち殺されそうな男として、名前が出ている奴。広嶋健吾も、3人と同様。
「広嶋くんのお腹を空かせる、もとい。食べることを阻止させることができる人は、きっと。藤砂さんとアシズムさんしかいません!3日間くらい、戦ってお腹空かさせてください!」
「私、君の勝手な人の恋路のために死にたくないんだけどね?」
「広嶋とまともに戦えるとしたら、……俺達ぐらいだが、……意味のない戦いはする性分じゃない。”天運”、ミムラの計らいでもな」
さすがに当然の反応である。なんで、仲間の恋の手伝いをし。しかもなぜに、餓死させることに躍起になるのか。
当然の答えをした2人に対し、ミムラは残念な顔して、ため息までついて
「しょうがないですね。のんちゃんに頼んで、世界中の食べ物を5日間、”独占”して……」
「止めろーー!!、……全人類が死ぬぞ!!」
「早まり過ぎる!やりかねんだろう!のんちゃんにそんな協力させないで!」
戦闘能力と特殊能力とは違うもの。いくら強い2人でも、先手で世界崩壊レベルの事を打たれたら、対処できるか危うい。
◇ ◇
「そんなわけでだが、……広嶋。断食しろ」
「意味わかんねぇよ」
「キレないでくれ。ミムラちゃんとのんちゃん、世界のために、広嶋くんが断食すれば良いんだ」
「どーして世界まで入る?」
納得の言葉。
戦闘能力なら藤砂とアシズムと並ぶか、それ以上の実力を持つやもしれない広嶋健吾。そんな彼がなんでか分からん、女仲間の気持ちに応えねばならんのか。そして、こいつ等に頼まれるのも正直迷惑。
「……もう、ミムラ殺さね?面倒なんだけど、あいつ」
「そー言わない。殺伐してるね、君」
「確かにサシでガチれば、……俺達が勝てるだろうな。のんちゃんにもだ」
「だが」
戦闘能力と危険な能力とでは差がある。それを必死に力説するは、アシズムであった。
「何が起こるか、何をしだすか分からない”天運”と、何でもかんでも収集する”独占”の2つを同時に相手にすればどうなる!?君が勝つにしても、我々も無事じゃ済まないぞ!」
「被害を考えろ、……広嶋が苦労すればそれで丸く収まる」
「俺がどっちみち痛みを負うじゃねぇか!!」
「世界に深刻なレベルを与える痛みと、君だけの痛み……重大さは分かるよね?」
「その通りだ、……ミムラの飯を美味しいって言ってやるだけだ」
「藤砂でも良いじゃねぇか!アシズムでも良いじゃねぇか!」
「ミムラがお前を希望している、……お前がやるのが筋だ」
男同士の話し合いになろうとするところ。
「やってたまるか!藤砂!テメェにやらせんぞ!!」
「仕方ないか、……拳で語ってやる」
「二人共、喧嘩なら外でやって。ここは私の店」
「ああ!出ろ、藤砂!」
「望むところだ、……アシズム。審判をやれ」
女の略奪のため、男達が拳を持って語る。にしては疫病神をどっちが引き受けるかのような、喧嘩である。2人の戦いは喫茶店の周囲で激しく行われ、立ち並ぶ建物が崩れ、地面にヒビが入るほど激しいものに……。
「暴れ過ぎなんだが……」
「あ!なんか、広嶋くんと藤砂さんが戦ってる!」
「君のせいなんだよ、ミムラちゃん。って、おや?その包みはなんですか」
広嶋と藤砂が戦っている最中、これを引き起こした本人。ミムラが大事そうに包みを抱えて登場。手にご飯粒がついているところを察し、おにぎりだろうとアシズムは分かっていたが。
「お、おにぎりです!喧嘩が終わったら、2人に味見してもらいます!」
「ほー、頑張りましたね」
「アシズムさんのもありますよ!3つですから!」
おにぎりなら失敗はないかな。
そう甘く思い、アシズムはミムラから手渡されたおにぎりを受け取った。ちょっと形は歪だが、ノリもつけておにぎりと言える状態だ。
パクッ
「………」
「ど、どうです?」
「あのですね。味見はしましょうね」
中に入った塩鮭に対して
「砂糖おにぎりなんですが」
「え」
ちょっと真っ青な顔になるミムラ。しかし、
「砂糖が塩になるよう、世界が変わってしまえば……」
「止めなさい!美味しいからって、喧嘩が終わった後の2人にも食べさせてやりなさい」