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人喰い鬼でハードモード

 森の賢者様とやらが人喰い鬼を何とかしてくれるらしい。そう聞いたのは怪我の治療と休息のために村に戻った時だった。


 魔法使いのマニーは治療魔法で魔力を使い切って寝てしまっている。光の神の奇跡は浄化の力なので、パーティーの中で光の神の御力を借りれるレイサムも傷の治療には役に立たない。人喰い鬼は光の神の御力が効かないので役に立たず申し訳ないと謝ってくるが、斥候でもある彼の素早さは頭の悪い人喰い鬼の気を散らすのに役に立っている。俺一人だけでは人喰い鬼の恐るべき腕力の前に打ち倒されてしまっているだろう。


 俺とレイサムとローズの3人で軽く酒を飲んで明日の為に寝ようかという時、森の賢者様という人の所に使いに行ってた村の少年が帰ってきた。少年が言うには森の賢者様が人喰い鬼を何とかしてくれるから俺たちは時間稼ぎだけしてほしいそうだ。


 その森の賢者様とやらが信頼できるかと尋ねたら、つい先日までこのケビンという少年は目が見えなかったらしい。流行り病の後遺症だそうで、ペンタートの街から司祭がいらした時は手遅れだったそうだ。光の神は病を浄化する事が出来るが、病が治った際に残る後遺症を治すことが出来ない。光の神の御力でも治らなかった目をどうやって治してもらったのか聞いたら、見えてないから何をされたのか分からなかったと答えられた。


 確かにその通りだし、この少年の言う通りなら明日は多少は楽できるし、そうでなくても明日の夕方にはペンタートから増援が来る、それまでの辛抱だ。




 俺は集落跡までたどり着いた。確かにニンゲンが何かと争った跡の新しいものが残っている、ここでオーガーに遭遇したのは間違いないだろう。オーガーは僅かに残った知能でここに食い物になる生き物がいる事を覚えていたのだろうか。


 しかし、ニンゲンも子鬼もオーガーも、流れる血の色は赤いらしい。もう乾いてどす黒くなってしまっているが、どれが誰の血だかは全く区別がつかない。ドワーフやエルフも血が赤いらしいので、神様ごとに違った「ヒト」を作ったのだろうが、こういった所に個性を出すのは面倒だったのかと思うと神様も人間臭いものだと思う。


 この血の跡はニンゲンの開拓村の方にまっすぐ向かっている。ひょっとして冒険者とやらはまっすぐ開拓村に逃げたのだろうか、頭が痛い。


 カシの葉もナラの幹も言ってたので子鬼の集落では誰もが知ってる常識だったのだが、オーガーは鼻が利く。犬のように地面に残った臭いを追って追跡出来る事を子鬼なら誰もが知っている。だから、万が一森でオーガーにあったら何回か川を渡って逃げろと教わる、でなければ樹に登って枝を渡れと。大切なのは地面に残る臭いを連続させない事だ。奴らは頭が悪いから臭いが途切れたらどうしたらいいか判らなくなるらしい。


 ニンゲンにはその知識が伝わってないのか、冒険者が不勉強なのか知らないがこのままでは開拓村が危ない、つまりケビンの命が危ない。急いで仕留める必要がある。


 俺は急いで血の跡を追う…というかオーガーが暴れまわって目に見えるものを手当たり次第に殴ったのだろう、へし折れてしまった木が前方あちこちに見えるので、それを目印にして追いかける。


 とりあえず、オーガーに追いついた時の事を考える。もし、オーガーがニンゲンの冒険者と交戦中ならこっそりと矢を射かけてそのままこっそり撤退する。毒が効くまで一刻程かかるが、致死量についてはしっかり頭に叩き込まれているので多分問題ない。というか一滴でも十分死ぬから、それを2~3本射掛ければ多分大丈夫だろう。もし交戦している冒険者が集落を襲った連中ならうっかり冒険者にも矢を射掛けてしまうかもしれない。乱戦だし事故なら仕方ない事だしよくある事でもある。


 オーガーが一人づつ別の場所に居るなら一番簡単だ。射かけてすぐ土に隠れればいい。二人まとまってたら、話に聞く限りではオーガーは木に登れないし足も俺より遅いから、まず少し逃げてから土に隠れて時間を待てばいいだけだ。


 問題は、オーガーが森から出て毒矢を射掛けても間に合わない時だ。俺が牽制すれば時間は稼げるが森の賢者の正体がバレたらケビンはもう森に行かせてもらえないだろう。それどころか夜目が効く事でゴブリンの同族になったとか言われるかもしれない。前世の人間とここのニンゲンの中身がそう変わらないとしたら、異物は排除の方向に動くだろう。


 実際に俺もケビンがゴブリンになってしまわないか心配してるんだ。前助けた奴隷だったニンゲンがどうなったのか、ケビンに確認しないと。


 オーガーが作った道とも言えない道を追跡すると、森のはずれ、森から出るまでギリギリの所でオーガーに追いついた。最悪のパターンじゃないかニンゲンは何をやってるんだ、まっすぐ開拓村まで逃げるなんて。


 風下の樹上まで素早く移動して、弓をつがえ毒矢を二本づつ射掛ける。しばらく見えたが、昔聞いた通りオーガーは痛覚が鈍く、背中に矢が刺さっていることに気付かなった。そして、俺はここまで来て大変な事に気が付いた。


 矢が刺さったままだと子鬼が何かしたことに気付かれる。


 毒矢は子鬼がニンゲンに対抗するために絶対秘密にしなければならない事だ。襲撃されたときは風の神の力で地面に矢が刺さり、毒が塗られている事には気付かれなかったが、オーガーが倒れて背中に子鬼が使う矢が刺さってたら、何かやりましたって言ってるようなものじゃないか。


 つまり、オーガーが村に近づく前に何とかして奴らの背中に接近して、矢を引っこ抜いて逃げ出さなければならない。そういしないと今後の復讐にも影響が出るし、森の奥に居る全ての子鬼に迷惑がかかる。


 未来のハードモードを回避するために、今とてつもなく難易度の高い事に挑戦しなければならないのか。

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