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桃から生まれてないけど鬼退治

 ケビンを村のそばまで送ってやった後、シイの実をねぐらに残して狩りに出かけた。


 今使ってる狩り場は3つほどあるのだが、今日行く狩り場はこちらに移動してから新しく見つけた所で、ねぐらから前住んでた集落と逆方向に少し歩いたところにある水場だ。前の集落にいた頃は遠かったせいかこの狩り場に気付かなかったのだが、ここには本当に色々な動物が来る。早い時間ならウサギを狙えるのだが、ケビンを村まで送ったら夜半過ぎになったので夜行性の動物しか見ない。


 身を隠して獲物が通るのをじっと待ってたら運よくアナグマを狩る事が出来た、タヌキと違ってコイツは美味い。カチカチ山のタヌキは実はアナグマだったんじゃないかって話もある位タヌキ肉は美味しくなくてアナグマ肉は美味いんだ。時間もあまりないしこれで十分だと帰ったら何故かケビンが居た。もう会う事もないと思ったのになんでまた来てるんだ。


「お兄さんも聞いてよ大変なんだ。お姉さんには話したんだけどここの森に人食い鬼が2体も出たの。冒険者さんが偶然出くわして、流石に2体だと勝てなくて村もここも大変らしいんだ。」

「ちょっと待て、人食い鬼って何だ?」

「ゴブリンが住んでる土地にたまに現れる知能は低いけど強い怪物だって聞いてる。ゴブリンが作り出して人間を襲わせるって大人に教わったけど…違うの?」


 なるほど、多分オーガーの事だな。あれは確か闇の神の甘露が切れたニンゲンがなるものなのだが、光の神の力が効かないから確かにニンゲンには手に余るものだな。しかし、集落のニンゲンは闇の神の加護を治療したし、他の集落がニンゲンを放ったとしたらこんな森の浅い所に来る前に流石に気付くと思う。


 そもそも、オーガーはニンゲンも子鬼も関係なく襲ってくる知能の低い怪物だ。あんなもの森で放つなんて自爆テロやるようなものだろう。子鬼は仲間意識が高いから普通そんな事やらないが、ひょっとしたらだが、俺の存在が森の奥のどこかの集落にバレたのかも知れないな。


「ブナの根、昔シイの実に聞いたんだけど子鬼も加護が切れた時まれにオーガー化する事があるみたいよ。だから、私と一緒に行動してた大人の職人がオーガーになっちゃったんじゃないかな。」


 それ俺知らなかったが、そうだとしたらその可能性が一番高いな。今まで狩りやったり偵察してた時に大人の死体を見なかったのも納得できる。でも、何で俺はその事を知らなかったんだろう。


「オーガーは力が強い上に光の神の力が効かないから確かにニンゲンでは相手するの大変だろう。ただ、子鬼はオーガーをどうにかする方法を知っている。森であんなのに暴れ続けられたら俺たちも迷惑だし倒してやるよ、俺一人で十分だ。」

「ありがとう、ブナのお兄さんって凄いんだね。冒険者さん達が4人がかりでも倒せない人喰い鬼を一人で倒せるなんて。」


 まあ、そのかわり俺じゃ不意を突きでもしない限り冒険者を倒せないから三すくみって奴だな。


「ケビン、お前はこれから開拓村に戻って冒険者に『足止めするだけでいい。とにかく時間を稼ぐように』と伝言してもらえ。俺が仕掛けてから倒れるまで1刻ほどかかるんだ。俺はこれから支度してすぐオーガーに向かう。」


 俺が集落にいた頃大人に聞いた話では、オーガーは暴れまわって常にうるさいらしいから見つけるのは難しく無い筈。場所も推測できる。恐らくは前の集落のそばだ。冒険者たちが発見したとすると開拓村から前の集落に向かう途中か、集落の周辺を探索している最中に出会ったのだろう。


 実はオーガーはニンゲンには天敵と言ってもいい存在だが、俺たち子鬼には大した敵ではない。闇の神の司祭なら暗闇で目つぶしする事が出来るし、狩人にはオーガーを殺すための毒の知識もある。本当は集落が襲われたとき冒険者に使うはずだったのだが風の神の加護で矢が全部外されて失敗したのだ。


 子鬼の毒の知識がニンゲンを助けるために使われるとは皮肉な話だが、ケビンを泣かしたくはない。俺は寂しいのだろう。今まで上っ面だけで人間関係(子鬼関係?)を築いていて、それがすべて失われてからようやく本当の意味での友達が出来た。それがシイの実とケビンだ。


 この二人の為なら多少の危険なんて気にするほどでもない。俺は毒矢の一撃だけ加えたら後は冒険者が上手くやるだろう。上手くすれば冒険者との共倒れも狙えるかもしれない。


 そういえば、まだ夜明け前なのに何でケビンは迷わずここまでこれたんだ?


「そういえばケビン、よくここまで来れたな。ニンゲンは夜は物が見えないだろう。」

「お兄さんに目を治してもらったら何でか夜でも物が良く見えるようになってるみたい。目だけ子鬼のものに取り換えてもらったのかもね。」


 いや、そんな事祈ってないんだが、ケビンの身に何が起こってるんだろう。もう会う事は無いと思ってたのだが、たまには会って問題ないか確認した方がいいのかもしれない。


「じゃあ、ケビンよろしく頼む。あと、オーガーの件が片付いたらたまに…そうだな、10日に1回位でいいからこっちに来て冒険者の様子とか教えてくれると助かる。」

「また遊びに来ていいの、もちろん行くよ。でも、お兄さんたちが子鬼な事は内緒だよね。じゃあ、冒険者の人たちに足止めしておくようにちゃんと伝言お願いしておくから。」


 ケビンがねぐらから出ていくのを確認したら、俺はウサギ皮の手袋を付けてヤドクガエルの毒が入った小さい壺を土の中の隠し場所から取り出し、腰紐から下げて前の集落まで駆け出した。


 子鬼なれども鬼退治か、語呂はいいな。

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