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家に帰るまでが迷子です

 次の日の昼間遅く、俺とシイの実は起きたのだがケビンはまだ寝ている。よほど疲れていたのだろう。夕食は軽く木の実パンと漬物ピクルスだけのつもりだったのだが、燻製肉も少し出そう。黒曜石のナイフで細かく切れば食べやすいだろうし、一刻は歩くから体力も必要だ。


 ちょうど夕食の準備が終わる頃にケビンも起きる。食事の前に目を治してしまおう。

「ケビン起きたか、ああまだ起きなくていい。目を治すからそのまま寝てろ。」

俺は偉大なる大地の神に祈りを捧げる、神は応えていただいた、ケビンの目はこれで大丈夫なはずだ。

「ケビン、ゆっくり目を開けてみろ。」


 ケビンはゆっくりと目を開けて周囲を見渡した…が…よく考えるとニンゲンは暗闇の中で目が見えるわけない。闇の神の甘露はニンゲンに暗闇の中でも物が見える加護を与えていたが、俺には生憎と使えないし、ケビンに使う訳にもいかない。

「煮炊きの火でうっすらと見えてるから多分目が見えるようになったと思うよ。」

「じゃあ完全に日が暮れる前に出かけたいから早く飯食べてしまおう。」


 とりあえず三人で食事をする。ニンゲンにとってはあまり見た目良くないかもしれないが、ケビンは気にならないみたいだ、良く見えてないからだろうか。それとも、こちらの世界のニンゲンも大して食生活は変わらないのか?


 そういえば、こちらの世界のニンゲンの文明レベルとかよく判らないな。あの冒険者というニンゲン達の武器を見る限りせいぜい古代ローマとかその程度っぽい。前世の映画を見た程度だから詳しくはないけど。


 そんな事を考えながら食事をしてると、突然目の前にケビンの顔が現れた

「お兄さん何ぼーっとしてたの?」

「ああすまない。お前を村まで返すのにどの道を使おうか考えてたんだ。」

「急ぐんでしょ?もうご飯食べ終わったしとりあえず出かけて考えようよ。」


 実は、一番近い道が一番しっかりとした道になっている。俺が村へ偵察に出る時に作った道だ。森の入口周辺は偽装してあるのでそうそう見つからないのだが、この道を使うには問題がある、ケビンに位置を掴まれるのだ。森の入り口の偽装も判ってたら見抜くのは簡単だし、そこから半刻も歩けばねぐらに着いてしまう。もし、俺たちの存在がバレてケビンを拷問なり洗脳なりしてねぐらまで案内させたらまた逃げなければならない。


 そして、それは俺一人じゃない分前回よりずっと大変になる。シイの実が死んでしまうなんて俺に耐えられる訳ない。一人でないという事はどれだけ俺の心の支えになってるのだろうか多分本人は知らないだろう。向うは俺に依存してるだけだと思ってるだろうが、俺もシイの実に依存してるんだ。


 ただ、他の道だとケビンの体力が心配だ。歩きにくい道になるし時間も3刻はかかる。悩んだが結局楽な道を通る事にした。何より避けるべきは俺が外に出てるときにねぐらを奇襲される事だから、冒険者が来てるかどうかを知る事が一番大事だと判断した。

「じゃあ、村のそばまで送ってやるから外に出よう。」

「やったー、ブナのお兄さんありがとう。」


 ブナのお兄さんか、懐かれたもんだな。まあ、これっきり会う事もないだろうしもう関係ないだろう。変なフラグは立ってませんように。


 道中は特に何もなく、森を抜けて開拓村が見えるところまで戻ってきた。

「森を彷徨ってたら、ニンゲンの賢者と名乗ってるお爺さんに目を治してもらったとでも言ってくれ。お爺さんは他のニンゲンが嫌いだからお礼とかいらないんで森に来ないでほしいとも言ってたって。」

「うん、分かった。ゴブリン、じゃなくて子鬼さんだね。子鬼さんに助けてもらったとか絶対言わないから安心してね。ブナのお兄さんもシイのお姉さんもありがとう。じゃーねー。」


 そう言って、手をぶんぶんと振りながら挨拶すると開拓村まで走っていった。ああもう、俺たち子鬼と違ってお前はニンゲンだから夜目効かないだろう。危ないって。





 僕は子鬼のお姉さんたちにお礼を言って村まで走って帰った。子鬼はおっかないと言ってたけどあのブナのお兄さんもシイのお姉さんもすっごい優しくて、病気が流行る前のお父さんとお母さんみたいだった。


 お父さんは疲れて僕を捨ててしまったけど、目が良くなった僕ならお父さんの手伝いができるから元のお父さんに戻してあげられるかな?


 そうして、僕は村まで無事に帰りつくことが出来た。村の大人たちは最初びっくりして、それから喜んでくれて、最後に悲しい顔をした。


 お父さんに何かあったのかな?僕は急いで家に帰ると、お父さんはお酒を飲んでたのかテーブルで寝てしまっていた。このままだと風邪をひいてしまうと思って毛布を掛けてあげたら、お父さんは目を覚まして不思議そうな顔をしていた。


「ただいまー、森で賢者のお爺さんっていう人に目を治してもらっちゃったー。」

出来るだけ明るい声で呼びかけると、お父さんは僕を抱きしめてくれた。

「ごめんな、ごめんな。弱い父親で本当ごめん。」

そう言って、お父さんは僕を抱きしめてずっと泣いていた。僕も泣いてしまったのは内緒だ。


 しばらくして、落ち着いてからお父さんが話し出した。

「もう一度、その森の賢者様という方にお願いは出来ないか?実は、森で人喰い鬼が2体出たらしい。この間のゴブリン狩りの冒険者たちが神殿の依頼とかでもう一度森に入ったんだけど、そこで人食い鬼に会ってしまったらしいんだ。お父さんも付いて行って絶対お前を守るから、人食い鬼を何とかできるか相談させてほしい。」


 人食い鬼って、凄く強い怪物でしょう?そんなのが2体も出たって、村も危ないけどお姉さんたちがもっと危ないじゃないか。僕が知らせに行かないと。

「お父さんと一緒だと、たぶん賢者のお爺さんは会ってくれないと思う。僕が一人で行ってくる。」


 そう言って、僕は村を飛び出した。あの優しい人達にもう一度会うために。

フラグ回収の速さには定評があります。

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