表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/19

シイの実さんのせいで難易度アップが止まらない

 ニンゲンの子供の足跡を発見しました。


 森に流れる小川の周辺に、新しいニンゲンの足跡が残っていた。子供の足跡なのだが、どうにもおかしい。フラフラしてたり、何かにつまづいたりと、まるで泥酔してるような感じに見える。そのまま帰ってもらうにも、脅して返すにもとりあえず本人を確認しないといけないので、周囲を厳重に警戒しながら足跡を追う。


 どうも、ねぐらの方に向かっている。途中下やぶの酷いところを無理やり抜けたりしているが、森で生活する子鬼を舐めてはいけない。足跡の残りそうになりやぶの中でも移動したら痕跡は探せる。そうしてねぐらの方にフラフラしながら歩いているニンゲンの足跡を追いかけていくと、ねぐらの傍まで行って子鬼の足跡と合流して、二人分の足跡がねぐらまで繋がっていってた。


 シイの実がいくら弱いと言ってもニンゲンの子供に負けるほどなのか?特殊訓練された忍びとか影とかそういった連中なのか?疑問は残るがとりあえず大急ぎでねぐらに入ると、そこには驚くべき光景が繰り広げられていた。


 シイの実がニンゲンの子供にあーんさせて食事を取らせてた。


 状況を理解するのにたっぷり10秒はかかった。森に侵入してきたニンゲンを、シイの実が拾って、家に連れて帰ってご飯をあげていた…状況は理解したけど意味はさっぱりわからん。


「シイの実、そのニンゲンどうしたの?」

「ねぐらの周りで木の実拾ってたらぶつかっちゃって。びっくりしたんだけど目が見えなくて迷子になってるみたいだからねぐらに連れて帰ったの。」


 うん、子犬を拾ってくる子供ですね。ちゃんと世話をするとか言ってもお父さんゆるしませんよ…じゃなくて、別にニンゲンの奴隷とか必要ないし、たぶん目が見えないから親に捨てられたんだろう、ここに置いても使い道が無い。


「俺の名前はフナの根。お前の名前は何という?」

「僕の名前はケビン、お兄さん変な名前だね」

変は余計だ。子供はこれだから困る。


「で、お前は生まれつき目が見えないのか?それとも病気で?」

「去年ひどい熱病が村で流行って、何人も死んじゃったんだ。僕は何とか助かったけどお母さんは死んじゃって僕は目が見えなくなったんだ。お父さんと暮らしてたんだけど、朝起きたらここで寝てた」


 なるほど、子供が負担になって森に捨てたんだな。動物や俺たち子鬼が始末してくれると思って。胸糞悪い話だが本人がどう考えているかだよな。


「残酷な事を言うようだが、お前は自分が捨てられたことを判っているか」

「うん。お父さんずっと大変みたいだったから。」

「じゃあ、お前はお父さんを恨んでいるか」

「ううん、仕方ないよ。お父さんはお母さんを無くして、僕の為に仕事と家の事でずっと大変だったんだ。僕の目が良くなれば良かったんだけどそのおかげでお兄さんやお姉さんに会えたんだし。」


 ならば、こちらにもメリットがあるし治してやってもいいかな?ってシイの実何か質問あるのか?シイの実がこっそり俺の耳元に口を近付けて内緒話を始めた。


「ねえブナの根、お父さんとかお母さんって何?」

「ニンゲンは俺たちと違って、男と女と子供だけで小さい集落を作り、小さい集落が集まって大きい集落になるんだ。子作りする男と女がお父さんとお母さん。俺もニンゲンの細かい単語が判る訳じゃないから男女のどっちがお父さんでどっちがお母さんかはわからないけどな」

「ブナの根詳しいのね」

「カシの葉に昔聞いたんだ」


 内緒話のつもりだったのにケビンに聞かれていたらしい、会話に割り込んできた。


「お姉さんたち人間じゃないんだ。エルフ?ドワーフ?どっちだろう。」

「私たちは子鬼よ。ニンゲンはゴブリンって言うみたいね。」


 ケビンはびっくりして腰抜かしながら後ずさりしている。親からとって食われるとか言われてるんだろうな。俺たちも大人から離れたら人間に殺されて焼かれて食べられてしまうとか言われたもんな。


「僕闇の力で狂った奴隷にされちゃうの?ゴブリンに捕まるとそうなるってお父さんが言ってた。嫌だよそんなの。」

「ちょっと待てケビン。そのつもりならとっくに奴隷にしてるよ。俺はお前に村に戻ってもらって、一つだけ頼みごとを聞いてもらいたいだけだ。」

「他の人を奴隷にするの?そんなのも嫌だよ。」


どうにも警戒心が強いな。それだけニンゲンの間ではゴブリンが邪悪だと思われているわけか。別に、繁殖用にちょっとニンゲンを奪うか買うかさせてくれれば、敵対する気は前の集落でも無かったんだけどな。


「違うよ、他の子鬼はともかく俺たちはニンゲンと争ったりしたくない。隠れて生きていたいんだ。だからニンゲンを奴隷になんかしない。ただ、お前たちニンゲンの中で、俺たちを殺しに来る連中が村に来たら知らせてほしいんだ。俺は前に居た集落をニンゲンに滅ぼされているんだ。あいつ等に殺されたくないだけだ」

「でも、僕が村に戻ってもまた捨てられちゃうと思うよ。」

「それは安心しろ。今からお前の目を治してやる。俺にはそれができるんだ。で、子鬼を殺すニンゲンが村に来たら、後で渡す黄色い布を村の柵の森から見えるところに縛って欲しい。それだけしてくれればいい。」

「ゴブリンを殺す人…冒険者さんか。冒険者さんが来たら教えてあげればいいんだね。それくらいならいいよ。本当に目を治してくれるの?」

「ああ、もちろん治してやるからご飯食べてもう寝ろ、大分疲れてるだろう。起きたら村のそばまで連れて行ってそこで目を治してやる。」


 食事に薬を盛っておく、といっても危険な薬じゃなくてぐっすり眠って疲れを取るための睡眠導入剤みたいな薬だ。万が一の事を考えるとこの場で目を治すのも、何の手も打たずに一緒に寝るのも心配だ。それに、足跡を見る限り丸一日歩き詰めだったみたいだし、ゆっくり寝かせた方が本人の為だろう。


 あとは、今日うかつな行動や言動が目立ったシイの実さんに説教をする仕事が残っているな。ってこらまてシイの実逃げるな。

シリアスブレイカー、シイの実

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ