2人になったら難易度が上がった
家族サービスの為投稿が遅れたことをお詫び申し上げます
目の前にはシイの実が倒れていた。状態を見ると甘露の禁断症状が出ているみたいだったので、慌てて大地の神の力を使って甘露の毒を抜く。苦しそうにしていた顔が落ち着いたので恐らく大丈夫だろう。
シイの実は同時期に産まれた子鬼で、ナラの幹の集落で初めて産まれたメスの子鬼だ。手先は器用で料理も工作もとても上手だが、子鬼の中でもびっくりするほど体力が無い。
ここで俺の現在の実力を思い出そう。
力→低め
弓→上手
大地の神の奇跡→自分が隠れたり、ねぐら作りの補助が出来る+回復
俺一人なら生き延びるの余裕だが、よりによって体力の無いシイの実を連れて生き延びるのは難易度がワンランク上がるだろうどう考えても。またハードモードになるとはどんな冗談かよと思ったが、見捨てるという選択肢はあり得ない。唯一生き残った集落の仲間だし、なんと言っても俺を見逃してくれていたナラの幹の最後の願いだ。
今日の獲物を腰に下げながらシイの実を抱えてねぐらまで歩く。もちろんお姫様抱っこなんて疲れる真似は出来ないので、いわゆるファイアーマンズキャリーで抱えているのだが、途中でシイの実が目を覚ましたらしい。
びっくりするのは判る。目が覚めたら誰かに抱えられていて、さらに目の前には血抜きしたハリネズミの死体がぶら下がっているわけだから。でも、できれば叫ばないでほしかった。こっちは隠れて生き延びないといけない身なんだからニンゲンだろうが子鬼だろうが誰かに気付かれたくない。
「ちょっと待て俺だブナの根だ。ナラの幹に聞いてないのか?」
「ブナの根生きてたの!?闇の神の甘露が切れてフラフラしてたのでナラの幹と話したの夢かと思ってた。あの時の話が夢じゃなかったらブナの根が助けてくれたのね」
俺はシイの実を降ろして何が起きたのか、ナラの幹とどんな話をしたのか情報を交換しながらねぐらに帰った。
シイの実は子鬼では珍しい女の子なのでちょっと過保護気味に育てられていて、今まで木の実拾いも集落のそばでしかやった事無かったそうだ。あの日は初めて遠出しての木の実拾いという事で嬉しくなって、ちょっとはしゃぎ過ぎて帰りが遅くなってしまったのだが、そのおかげで集落が始まった時はまだ巣穴の外だった。護身用兼作業用の黒曜石ナイフしか持ち合わせてない3人は隠れていたんだが、ニンゲンが弓で攻撃された後周囲の子鬼を殺すために2人のニンゲンがこちらに向かってきた。
慌てて逃げて、どうにか逃げ切ったのだが大人二人とははぐれ、さっき俺がナラの幹と会った辺りで甘露の加護が切れて意識を失った。
「そうしたら、ナラの幹が目の前に現れて、ブナの根が大地の神の司祭だとか、ブナの根が自分の力で生き延びるのを闇の神はお望みだとか、ナラの幹の判断で私を手伝わせることにしたとか色々言われてびっくりしたわよ。だって、大地の神の加護を持つ子鬼は殺さなきゃいけないとか私達に教えた張本人が手伝えとかいうんだもの」
俺もナラの幹に実はバレててびっくりしたというと、ケラケラと面白そうに笑い転げてた。ショックも少ないし、甘露の後遺症もなさそうで多分大丈夫なのだろう。
ねぐらに着いたらがっかりされた。狭いだの汚いだの整頓されてないだの散々な言われ方だが、一人暮らしなんだし細かい事は勘弁してほしい。ねぐらは狭いだけじゃなくて、炊事場と作業場が足りないそうだ。大地の神の力で穴を掘る事が出来る―この時気が付いたのだが埋める事も出来た―ので、あっという間にねぐらを拡張すると目玉が飛び出しそうになっていた。
「大地の神の御力って凄いのね」
闇の神に並び立てると子鬼の伝承で言われる大地の神の力を理解してくれたのは結構な事だが、もうちょっとカッコいいところで理解してもらいたかったのは流石に口に出せない。次の日はシイの実が必要だと言うので、元の集落にまだ残っていた燻製の道具や機織りの道具など、作業に必要なものと漬物を二人で新しいねぐらに運び込むことで一日が終わった。
ところで、シイの実の好奇心が強すぎて生存の難易度が下がりません。見かけた動物にちょっかい出そうとするのだが、蛇に噛まれたりイタチの最後っ屁にやられたりするのは序の口で、ヤドクガエルに素手で触ろうとしたときは流石に荷物の運び込みを中断して説教した。一緒に付いてた大人はさぞ大変だったろう。
そうして二人暮らしが始まった。おじいさんは山に芝刈りに…は行かないが、俺は外に狩りをしに行き、シイの実は木の実を拾ったり、ねぐらの中で作業をしてもらってという役割分担は自然に決まった。まあ、元々集落の中での仕事をそのまま割り振っただけだが。
シイの実は出かけたがってたが、外はニンゲンがいつ戻ってくるかわからない事と、ねぐら入口の隠蔽はかなり力が入っててそうそう見つからないという自信もあり、一緒に連れ出すよりねぐら周辺に居てもらった方が安心だと判断した。シイの実は足も速くないから万が一の際連れて逃げるのも大変だ。もちろん普通のニンゲンよりは速いのだが、確かレイサムとか言った革鎧のニンゲンには負けてしまうだろう。
15日ほど過ぎたが、ニンゲンの戦士が前の集落や森の外、しばらく歩いたところにあるニンゲンの集落に現れる事も無く、平穏な日々が続いていた。
「どうやらもう安心みたいね。私もちょっと探検とかしてみようかな?」
「ニンゲンの集落は安心なんだが、俺がニンゲンの戦士に姿を見られてるからまだちょっと安心できない。あと、集落で戦った子鬼はニンゲンが燃やしたの見てるんだが、シイの実と一緒に行動してた大人の子鬼2人の死体が見つからない。ニンゲンが燃やした後も無いからちょっと変だ」
そう、そこが気になる。大地の神の力で寝るときは入口を塞いで人が通れない通風孔だけ開けているのもその為だ。あのニンゲン達がまたやってこないという保証はどこにもない。子鬼の死体がどうなったのかも気になる。
「ブナの根は心配し過ぎだと思うけど、外で動く事では私よりブナの根の方がずっと詳しいからまだ探検には出かけない。でも、大丈夫だと思ったら教えてね。ここの穴のそばから動けないと体がなまってきちゃうから」
この時は、そろそろ一緒に探検に出かけてもいいと思っていた。シイの実は目も鼻も耳も悪くないから遠くからニンゲンの集落を偵察してもらう事位は出来るだろうし、仕事があるとはいえねぐらに一人で留守番は寂しいだろうから気晴らしにもなると思ってはいた。
それをぶち壊したのは、森の中でニンゲンの足跡、それも恐らくは子供の足跡を見た時だった。
ちょっと寝不足が酷いので誤字等ありましたら報告頂けると助かります。
一応何度もチェックはしたのですが…




