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追跡者登場

 伝承によればゴブリンはかつてノームと呼ばれる大地の神の子だった。光の神が自らの子として人間を作り上げた時、嫉妬した闇の神が大地の神からノームを奪い取り闇の力に染め上げてゴブリンを作り出した。


 だから光の神の子である人間、風の神の子であるエルフ、炎の神の子であるドワーフ、水の神の子であるマーマンと違って大地の神には子が居ない。それは大地の神の奇跡がこの地に現れない事を意味する。


 いつか光の神が闇の神を打ち倒した時、ゴブリンは滅び大地の神がノームを再び生み出すことが出来、光の神の下世界は平和に治められる。




 新しい開拓地のそばにゴブリンの集落があると王都に報告があったのは一週間前の事だった。宰相は王の許しを得て開拓地から一番近い都市であるペンタートの冒険者ギルドに討伐の依頼を出した。


 そしてさらに一週間後、ペンタートの冒険者ギルド内にある以来の掲示板の前で二組の冒険者達が話し合っている。

「ちょっとこの規模の巣を潰すには人手が足りないんで、手伝ってもらっていいかい?」


 そう尋ねるのは、ペンタートの冒険者の中ではかなりの腕利きとなる、ランクCのパーティーを率いるナイジャーという戦士である。

「ああ、かまわないぜナイジャー。お前んところの4人と俺んところの4人。8人も居れば巣を潰すぐらい訳ないだろう」

話を持ち掛けられた同じくランクCの冒険者であるパウエルは快諾する。


 ゴブリンは一般的な人間よりは強いが、それは彼らに再生能力があり腕や足を切ったところで意味が無いからだ。実際の力は人間よりも弱く、きちんとした鎧を着ていれば致命的な一撃を食らう事はまずあり得ない。また、殺すためには心臓を潰すか首を刎ねる必要があるため、確実に殺すためには訓練が必要になる。


 逆に言えば、きちんとした訓練を施してきちんとした装備をすれば恐れるほどの敵ではないという事だ。弓を使うゴブリンも居るが、こちらにはエルフの風の神の司祭であるローズがいる。彼女の奇跡の一つに飛び道具からの防御があるのでほぼ考慮する必要が無い。


「別にゴブリンの集落は私にとってはどうでもいい話なんですけどね。ランドルフが必要だと言うから手伝うだけですよ」


 ゴブリンは人間を襲うが、不思議な事にドワーフやエルフとは敵対しようとしない。自然と交流も生まれるらしくドワーフの鉱山のそばに巣を作って働くゴブリンや、エルフの里に薬草を持ち込んで交易するゴブリンなどというのは珍しくない。そういった所に住むゴブリンは人間の奴隷を繁殖用として買っているそうだ。


 忌まわしい話ではあるが、ドワーフやエルフの社会に人間が介入する事も出来ず、奴隷制は社会に必要なものとなっているため止める事も出来ない。


 仕事自体は特に難しいものではない。真夜中というゴブリンが外で活動する時間をあえて狙う事で、門番をしてるゴブリンを倒せば群れのリーダーであるシャーマンまで一気にたどり着くことが出来る。闇と同化して隠れているであろうシャーマンを光の神の加護であぶり出して倒せば、放っておいても闇の力の加護が切れてゴブリンどもは勝手に自滅してくれる。


 実際、楽な仕事だった。最後に合った奇妙な事を除けば。


 闇の力に染められた人たちを洞窟の奥から連れ出した。彼らはこのままにしておくと1週間ほどでオーガーになってしまう。そうなれば際限なく人間を襲うので、その前に光の神の神殿で儀式を行って浄化しなければならない。


 光の神の神殿自体はどんな小さな開拓地にもあるのでそこまで戻るだけでいいが、攫われて闇の力に染められるのはやはり哀れな事であり、何度やっても慣れるものではない。


 闇の力が薄れると暴れだすのでレイサムが縛り上げて開拓村まで連れて行こうとすると、突然彼らの意識が無くなった。もうオーガー化するのかと思って慌てて心臓の動きを確認すると、鼓動は安定していてオーガー化の兆候はない事が判り安心する。


 だから気付かなかった。目の前にいきなりゴブリンが一匹現れた事を。どうやらそのゴブリンも自分が姿を現した事に驚いていたらしいが、俺たちが我に返る一瞬前に身を翻して森の奥に逃げていった。


 ローズが弓を落としそうなほど驚いているので、どうしたのかと尋ねると彼女はこう言った。


「失われているはずの大地の神の奇跡をあのゴブリンが使ったの。ゴブリンが大地の神の子に戻るのは闇の神が滅びてからという話だったはずなのに…」


 ノームと大地の神の伝承は誰でも知っている光と闇の神の争いの神話の一つで、最も重要な神話であると言われている。


 大地の神を中心とした四元素の神は光の神に救いを求め、闇の神との戦いの原因となった。四元素の神を統べる光の神こそが最高神であり、人間がこの世界で一番大きな勢力を持てるのも最高神の子であるからと信じられている。


 では、闇の神は滅びたのか、それとも力が弱くなってゴブリンが解放されつつあるのか。




 気を失っていた人たちは意識を取り戻すと、ゴブリンに攫われて闇の力に染められた後の記憶を無くしていた。恐らくあのゴブリンが大地の神の力を借りて闇の力を消し去ったのではないかとローズは言っている。


 囚われていた人たちに事情を話してペンタートの町まで一緒に戻りギルドに報告すると、本国の光の神の神殿まで早馬を飛ばすのでしばらく待っててほしいと言われた。どの道仕事の後は武器の調整や防具の補修、消耗品の補充や体を休めたりで何日かかかる、その間も報酬がもらえるなら断る理由が無い。


 そして、その間も囚われていた人たちは全く何の変化も無く、本当に闇の神の力が浄化されたのかもしれない。だとしたらあのゴブリンは捕まえて浄化の力を人間のために使わせるのがいいだろう。闇の神の力が切れて死ななければの話だが、上手くいけばこれで多くの人が救われる。


 しばらくして神殿から早馬が帰ってきた。囚われていた彼らは本国の神殿でしっかり調べなければならないので本国の神殿で下働きをしながら体調とかを見させて貰いたいとの事と、俺たち冒険者たちにはそのゴブリンの捕獲命令が下された。もし死んでたら死体を持って来てもらいたいらしい。


 ランドルフのパーティーは例のゴブリンにローズが興味を抱いたのでその話を受け、パウエルは周辺の村の警戒も必要なのでしばらくは他の依頼をこなしながら待機する事になった。体の良い断り文句だがゴブリン一匹なら1パーティーで十分だろうし問題ないだろう。




 王都の神殿の中で、一人の男が目の前にいる10人の惨殺死体を眺めている。

「やはり種が植えられていたか。諸君らには申し訳ないが神の御許にたどり着けるよう祈っておこう」


 そう言って彼は囚われていた人たちの死体から背を向け去っていった。

また野球選手から名前をお借りしてますが、一人を除いて特に他意はありません。

ただ、名前を考えるのが苦手なだけです。

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