表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/19

矢は嫌だ

 まずは状況を確認しよう。俺はそうひとりごちた。時間制限は夜明けの後ニンゲンの冒険者がやってくるまで、達成条件はオーガーの矢を4本とも抜く、もしくはオーガーが2体とも死んで矢を回収する。問題点は殴られたら死ねる、闇の神の加護が無い俺は回復能力も無いと考えた方がいいだろう。意識が残ってたら祈りで治すことは可能だから、一撃で意識を持ってかれる事は避けなければならない。


 まず、森の奥の方に誘導しよう。そして大地と同化して姿を消せば安全。可能なら背後に回って姿を出して矢を抜く。これの繰り返しだ。殺す必要も倒す必要も無い。そもそも大地と同化するとき服や持ち物はその場に置き去りになるから攻撃手段が無くなる。


 まず、服を脱いで弓矢やナイフと一緒に木の根元に隠し、両手で軽く頬を叩き気合いを入れる。一瞬の油断が命取りだ、集中しよう。


「鬼さんこちら手のなる方へ」


 芸者遊び程には格好がつかないが、古来よりオニを呼ぶのはこの掛け声と決まっているだろう。ちゃんと気が付いたみたいで、芸者を捕まえようとするエロ社長さんなんて目じゃないほどの勢いでオーガーが2体ともこちらに向かってきた。そして、前に居るオーガーの丸太のような腕がこちらに向かって振り回された瞬間に大地と同化して姿を消せた。


 地面の中で俺は冷や汗をかいたような気がした。実際には大地と同化しているため汗はかけないのだろうが、肝が冷えたんでそんな感じがしたのだろう。あと一瞬遅かったらぶん殴られてゲームオーバーだった。ヤバい、オーガーの身体能力を甘く見てた。話で聞いてただけだったのでこれほどまでとは思わなかったんだ。


 そして、奴らは俺の上でウロウロしている。どこに消えたのか判らないのだろうな。地中を素早く移動して(練習したんだ)、やつらから離れてもう一度声をかけ、森の奥まで引き込んでいく。前世の俺の名誉のために一応言っておくが、俺は芸者遊びをした訳じゃないぞ、時代劇で見ただけだ。


 もう一度、今度はさっきより余裕を見て地面に隠れる。どうやら知能が低すぎて何が起きたのかは理解できないみたいだ。ただ。前回みたいに遠くにまた現れるのかと思ったのだろう、遠くを見てるような感じだ。


 これはチャンスだと思い背後に立って両手で矢を掴み一気に引き抜く、成功だ。すぐ大地と同化しないと。


 と思った次の瞬間、俺の体は5メートルは吹っ飛ばされた。右腕が全く動かせない、多分肩のあたりを殴られたのだろう滅茶苦茶痛い。あと、吹っ飛ばされた時に背中も打ち付けた。頭と意識が無事だったのは幸運だっただけだ。畜生、何て身体能力と反射神経だ。


 大地に同化したのだが痛みは全く引かない、同化したままだと祈りで治すことも出来ないらしい。痛む体で集中を切らしそうになりながら距離を取って見えないところで姿を現す。すかさず祈りで治療したのだが、血の匂いに気付いたのだろうものすごい勢いでこちらに向かってきた。


 大急ぎでこちらに大地の神に祈り.近い方のオーガーが次に足を運ぶところ周辺の土を50センチほどの穴をあけたら狙い通り足がはまって転んだ。後ろのオーガーも突然前のオーガーが倒れたので、前のオーガーに足を引っかけて転んだ。


 今は絶好のチャンスだが、俺の体がまだ動かないんで、治療して大地に逃げるのが精いっぱいだった。ただこれで時間は稼げる、さあ次はどうするか。


 オーガーの様子を見ると奴らは喧嘩を始めていた。一発殴るだけで木をへし折る事の出来るオーガー2体のケンカはまるで怪獣大戦争だ。もうちょい静かに喧嘩してくれればニンゲンがここを見つける前に奴らは毒が回って死んでくれそうなんだが、奴らが死ぬまであと半刻はかかるのに太陽が出てきた。こりゃまずい、早いところ矢か奴らを始末しないと冒険者がここまで来かねない。


 やつらが投げようとしてるのか組み伏せようとしてるのかは判らないが取っ組み合いを始めた。これはチャンスかもしれない。風下の離れた所の木の陰に移動して姿を現す。そして奴らと俺とのちょうど中間点くらいの位置の地中に4メートルほどの落とし穴を掘る、もちろん表面には土を残して固め、オーガー位の体重が乗らないと落ちないようにする。


 さて最後だ、もう一回言おう


「鬼さんこちら、手のなる方へ」


 奴らに向けておどけながら手拍子を打つ。思いっきり馬鹿にされている事に気付いたのか、オーガーはケンカを止めて俺に向かってまっしぐらにやってくる。猫でもなけりゃ某猫餌を用意しても無いのにここまでまっしぐらだとは大した殺戮本能だ。


 だが、残念ながらそこには穴がある。後は地中に埋めて半刻後に引きだして矢を抜けばいい。死体は発見してもらえば回収されるだろう。


 結論から言うと半刻もかからなかった。オーガーはパニックを起こして大暴れした挙句、酸欠であっという間に死んだからだ。後は上手く土を操作して地上まで持ち上げて、矢を抜いてお仕事完了。本当に死ぬかと思った。なんでこんなに難易度が高いんだろう俺の鬼生。


 さて、冒険者たちは来るだろうか。発見してもらわないといけないから必要なら隠れながら物音を立てたりして上手く誘導しないと。


 毒はまだまだ残ってる。小さい壺の中に一滴あるかどうかだが、これだけで開拓村程度なら全滅させてもお釣りがくるくらいの凶悪な毒だ。まあ、ニンゲンに喧嘩売っても仕方ないからそんな事はしないけどね。俺が殺したいのはあの冒険者たちだけだ。


 弓矢での狙撃はあの風の神の神官が居る限り無理だろう。つまようじに着けた毒を差す程度でもいいんだが、それにはどうにかして接近して、その後逃げられるようにしないといけない。今回は甘く見てたのが失敗の元だ、もうあんな事はしない。


 ところで、今回の騒動のオチなんだが、冒険者が森に来たのが昼になってからだった。つまり、俺の一連の苦労は全て無駄だったという事だ。


 絶対何があってもあいつ等殺す(逆ギレ)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ