転生したらゴブリン(仮称)だった
しばらく何も書いてなかったので、リハビリがてら気楽にボチボチ書いていきます。
俺の前世は特筆すべきことなんてない普通のサラリーマンだった。仕事も特にブラック企業という訳でもなく、半分は定時に上がって普通に暮らしていた。彼女が居た事もあったが、今はフリーだったが、特にそれで困っていることも無かった。本当にごくごく普通の人間だった。
このまま暮らして誰かと出会って結婚して、子供が生まれて、普通に孫に囲まれて死んでいくと思っていた。信号無視の車に跳ね飛ばされるまでは。
死ぬ間際も、特にどうこう思う事も無く、ただ、もっと生きたかった死にたくないとは思っていたが、すぐに意識がぼんやりとして特に未練を残すことも無く普通に死んでいったつもりだ。
だから、本当にどうしてこうなったのか判らない。
なんで俺は転生してるんだろうか。いや現代の若者(のカテゴリーに入れてくれ)として、ラノベの一冊や二冊は読んだことあるから転生ものとか知ってるが、神様に合ったり頼み事されたりするものでは無いのだろうか。そして、普通は貴族なり王族なりに転生して乳母日傘の人生を送れたりして国を発展させて行ったりするのでは無いのだろうか。
何故俺は土を掘った洞窟に転がって寝ているのだろう。
そしてもう一つ、赤ん坊って産まれててすぐは目が見えない筈なのだが俺は見えている、おまけに産まれてすぐの赤ん坊なのに四つん這いで歩く事位は出来る。そして何より大切なのは俺の体が緑色で、爪は鋭く尖っていて、周りの同世代の子供を見る限り怪物とかモンスターとか言われるモノであろう点だ。推測だが、ファンタジー世界におけるゴブリンとかそういった感じの何物かなのだろう。
こういった転生の時はステータスとか見れるのが一般的であるらしいのだが、どうやら俺の転生の場合は当てはまらないのかステータスは見れない。まあ、見たところで多分大したことは無いのだろうとは思うが。
そして、周囲を見上げると恐らく母親であろう女性が居た。その女性の見た目はそれなりに綺麗だったのかもしれないが薄汚れていて見る影もなくなっている。そして、目がうつろで涎を垂れ流していて、はっきり言うと正気はまるで残ってないみたいだ。まあ、こんな所でゴブリンの苗床みたいな事やってたらそりゃ正気じゃいられないよなとも思うが、それでもお腹がすいたので母親によじ登って母乳を飲もうとすると、なんというか物凄い嫌な予感がした。本能が母乳を飲むなと言っている。
それでも腹は減っているし、本能が警告していても別の本能が母乳を欲しがっている。どうしたものかと考えると、頭の中に何かの言葉が浮かんできた。すると不思議な事に口の周りからお腹にかけてぽかぽかと温かい感じがして、母乳を飲むなという警告が無くなり、安心して母乳を飲むことが出来た。
そんなこんなでお腹いっぱいになるまで食事を堪能した後、ハイハイではあるが周囲を探検しようかと思うと、頭に羽飾りを付けて変な模様の服を着た大人のゴブリン(仮称)が入ってきた。ソイツを見ると母親や、他の人間の女性が目を血走らせてソイツに縋り付きだした。
言葉は日本語と違うのか全く分からないが、何かを欲しがっているみたいで、大人ゴブリン(仮称)は何かを口ずさむと右手の指先が黒く染まって、そこから何か液体状のものがしたたり落ちてきた。
俺の頭の中で何かがとてつもない警告を発しているが、母親と他の人間の女性たちには通じないらしく、早く飲ませてほしいといった感じで口を突き出して叫んでいる。大人ゴブリン(仮称)は赤ん坊の俺にも判るようないやらしい笑い方をすると一口づつその怪しい液体を飲ませていった。
それを飲んだ女性たちは跳ね上がるように痙攣した後、口から目から、下からも液体を垂れ流しながら幸せそうに放心している…多分アレはいけないクスリという種類に分別されるようなものなのだろう。その後、俺と同じような赤ん坊ゴブリン(仮称)が母乳を飲むとやはり同じように目をとろんとさせて気持ちよさそうにしている。つまり、母乳からあのいけないクスリ成分が染み出しているわけか。あの不思議な何かが俺に有って本当によかった。
しばらくすると、他の大人ゴブリン(仮称)がやって来て子作りパーティーが繰り広げられる。このカオスな状況の中で俺は眠りについた、うるさくはあるが赤ん坊には睡眠が必要だ。
どうも、ゴブリン(仮称)の成長は人間より圧倒的に早いらしい。産まれて一ヶ月もすると二足歩行が可能になっている。アレか、馬とか牛とか天敵の居る生き物は生まれてすぐに走れるが、それと俺達も同じという事か。他の連中と俺との違いはヤク中かそうじゃないかの違いでしかない。
それと、自分たちの種族の事を「子鬼族」と言っているらしい。ニンゲンの言葉ではまた別らしいがそれは知らない。子鬼族は立てるようになると教育が始まって、それぞれの特性に合わせて役割分担が始まる。
まず、一番多いのが戦士だ、棍棒や奪い取った剣で武装していてニンゲンや他の侵略者と戦う。また、ニンゲンの女を奪い取ってくるのも戦士の仕事だ。
そして、素早く隠れるのが上手な連中が狩人になる。弓を持って森で獣を狩ってくるのが仕事だ。子鬼は金属加工の技術は無いけれど手先は器用で木工技術は結構高い。小型の弓で石の矢じりだが威力は結構高いのではないだろうか。
次に、器用なのが職人になる。森で木の実を採取して、それを焼いてパンにする。季節の果物を拾ってくるのも仕事だ。そして、大事なのは保存用の器(土器)や祭祀用の土器、衣服など子鬼の生活に欠かせないものを作ってくれる事だ。
生まれつき闇の神の声が聞こえる子鬼は司祭階級になる。大抵の場合、司祭階級の子鬼は子鬼の中では頭がいい。
大事な仕事は群れの統率と、闇の神の甘露(例のいけないクスリだ)を群れにもたらす事らしい。後、闇の神の奇跡を色々と起こすことが出来るらしいのだが、あいにくと俺はそれを見たことが無いから実際にできるのかは不明だ。
そして、この洞窟の中にはニンゲンの奴隷も居る。近隣の村から攫ってくるのが一般的だ。ニンゲンは体質的に甘露の効果が強く出るらしく、一旦口にしたら二度と元に戻れなくなる。そうして出来た廃人の奴隷だが、オスは雑用や清掃、洞窟の拡張を死ぬまで行い、メスは繁殖用だ。子鬼にもメスは居るんだが、オスに比べて絶望的に数が少なく、なおかつニンゲンのメスでも子鬼が産まれるらしく繁殖はほぼニンゲンとの間に行われる。
メスの子鬼は司祭階級と子供を作ると司祭階級が産まれる事が他より多くなるらしく、大抵の場合司祭とのみ子作りを行う事になる。新しく司祭が産まれると大人になった時に若者を中心に群れを分けて新しい集落を作りに行くらしい。アリみたいだと思う。
なお、ニンゲンでも子鬼でも妊娠期間は3ヶ月で、出産後1ヶ月経つと次の妊娠が可能になる。つまり年に3回出産して、一度に2人産まれるのが普通だそうだ。つまりこの洞窟には5人のニンゲンのメスが居るので、一年で30人増える勘定になる。ネズミ算ならぬ子鬼算で増えていくな。
最後になるが、まれに大地の神の加護を持つ子鬼が生まれるらしい。何でも大昔光の神と闇の神で戦争があった時、大地の神の子の殆どは光の神に奪われて、残った僅かな子鬼は闇の神の力で保護されたそうだ。そして、その後大地の神は何故か光の神に組したと言われている。光の神に脅されたのではないかと司祭は言っていたが、そこは伝承が残ってないらしい。
それ以降子鬼には闇の神の加護がもたらされているらしいが、先祖返りで大地の神の加護を持つ子鬼が生まれる事もあるそうだ。
この大地の神の加護がある子鬼は闇の神の甘露で幸せになれず、群れの秩序を乱す「悪い」子鬼なので見つかり次第殺される。
推測なのだが、母乳を飲もうとしたときに頭に浮かんだのは大地の神からの警告で、その後母乳を飲む前に口からお腹にかけて温かく感じたアレは大地の神からの加護なのだろう。つまり俺は大地の神の加護がある「悪い」子鬼なので、その事がバレ次第殺される。
何故新しい人生ならぬ鬼生がいきなりハードモードなのだろうか。




