九話 魔王さま歓迎会
「『知識の泉』と『新たな光』を使って、こんな体であそこまで戦えたのは奇跡か」
月の光が部屋に差し込む、夜。
魔王の部屋、ベッドの上。
一人、考えを巡らせる。
「しかし奇妙な話だ、『原初の記憶』……宝具が人格を持っているとは」
戦っていたのは、自分だった。
しかし俺は何故こんなことに巻き込まれているのか。
そう疑問に思いながら、魔王は布団に潜りこんだ。
その日の夜中、デス・トーカーは飛び起きた。
「魔王様はここに来られてから食事を摂られていない!」
夜中に起こすわけにもいかない。
布団の中で、一人後悔していたという。
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夜が明け、朝が訪れた。
日の光がプレートを包む、ぽかぽかとした陽気な朝が。
「魔王様。起床の時間でございます」
「ん――トーカーか。わかった」
ベッドからのっそりと出てきたのは、今代魔王(肉体年齢9歳)。
パジャマは可愛らしいウサギがプリントされたもので、見る者の心を和ませる。
「私としたことが、魔王様が一度も食事を口にしていないことに今更気付きました。申し訳ありません」
「食事……? 本当だな、腹が減らないから別に気にしていなかった」
「魔人の体には空腹というものがありませんからね。栄養さえ摂取できれば生きることは可能です」
「栄養すら摂らなければどうなるんだ?」
「突然倒れます。倒れたら瞬時に魂が天上へと昇っていき……」
「怖いからその先はいいそれよりも早く朝食にしようそうしよう」
早口でまくしたてる魔王を見て首を傾げながらも、デス・トーカーは「はい」と返事をして一緒に部屋を出た。
(それにしても、なぜ子供の姿で魔王になったのだろうか? 大人の姿の方がまだ便利だというのに……)
食堂に向かう途中、魔王は疑問ばかり生み出していた。
なぜ子供の姿、なぜ魔王、なぜなぜなぜ…………?
顎に手を当てて考えこむ魔王を見て、デス・トーカーは微笑みながら食堂へ続く廊下を歩く。
だがしかし、そう簡単にはいかなかった。
「魔王様! そちらは異空間へ続く回廊です!」
「うわああああああああああっ!」
「魔王様! そこは魔物の住処です!」
「こいつら人懐っこい……埋もれて動けん」
「魔王様! 食堂はあと少しです!」
「そんなに大声出さなくてもいいよ」
「魔王様! あと数秒耐えてください! 私が焼き払いますので」
「この触手ぬるぬるして……全く離れない!?」
魔王城はどこに何があるのか全くわからない奇怪な城。
城主が城にやられそうになっていては困りものだ。
紆余曲折を経て、なんとか食堂へと辿り着いた魔王とデス・トーカー。
そこにはこの城の使用人、全員が揃っていた。
「こ、これは?」
大抵の問題には対処できるデス・トーカーも、これには困り顔。
何をどうすれば正解なのかわからないのだから。
そうしておろおろしているデス・トーカーを見かねてか、骸骨頭のシスイが魔王の前に出る。
「魔王さま。ベレッタの姉さんを倒したようでございやすね」
こすい盗賊のような口調で、続ける。
「この魔王城のトップは魔王様でごぜぇやす。ちょいと遅れましたが歓迎の準備を整えさしていただきやした」
「シスイ……」
魔王は硬直している。
デス・トーカーはシスイを見直したのか、名前を呼んだ。
「いつも小汚い盗賊のような口調で話す悪党だと思っていたが……まさか魔王様にこんなサプライズができるとは! 見直したぞ」
「へへっ、さりげなく悪口言われてますが魔王さま、どうぞこちらへ」
名前を呼ばれて意識が戻ったのか、ビクッと身体を跳ねさせながらぎこちない足取りで中央の席に座る。
知らない顔ばかりで固まっているのをみかねてか、シスイが声を張り上げて叫ぶように呼びかけた。
「今日は魔王様の歓迎会だぁ! 仕事なんてしないで遊ぶぞぉ!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」」」」」
――城を揺るがすような歓声がこだまし、『今代魔王さま歓迎会』が始まった!