八話 決着
「な……ぜ…………」
ベレッタがそう口から漏らすのも不思議ではなかった。
魔王とはいえ、子供にプレートを滅ぼすとまで謳われた最大威力の魔術を使用して、立っていたのだから。
その問いに答えたのは、プロミネンスデストロイヤーを受けた魔王だった。
なんとか立っている状態のベレッタに向かって歩きながら、ゆっくりと語る。
「『魔消の壁』で簡単に防げた。所詮魔力の塊だ、俺に効こう筈も無し。だがあのパンチはかなり痛かったな」
そんな馬鹿な、とベレッタは思った。
圧倒的な力の差があったはずなのに、と。
そして、どう考えても勝ち目のないこの戦い。
「あたいの……負けだね」
ベレッタはそう言い、仰向けに倒れ込んだ。
「――ッ!?」
「魔王様!」
戦闘が終了して宝具を解いた魔王の体には激痛が襲っていた。
宝具の反動。
プレートを崩壊させる力を越えた代償は、高くついた。
「魔王様! 御無事ですか魔王様!」
デス・トーカーは三人しかいない闘技場で、一人狼狽えていた。
「痛覚を遮断する魔術…………『シャシェガ・ドルゲーザ』」
何事もなかったかのように立ち上がる魔王。
ベレッタを見下ろして一言。
「約束だ、協力しろ」
魔力を限界まで消費して力が入らない体を無理やり起こし、ベレッタは返事をした。
「『強きは善、弱きは従え。王は最強である』……初代魔王が遺した言葉さ、あたいは王に従うよ」
魔王はそれを聞いて満足したのか、デス・トーカーの方を向いて口を開いた。
「部屋に戻る。今は体を休めなければ」
「ハッ」
そこに怒りはなかった。
負の感情ではなく、どこか温かい。
そんなどこか曖昧なものを胸に、魔王はデス・トーカーと共にその場を去った。
ベレッタは魔王が去った後、呟いていた。
「その宝具は勇者の……かの王は既に…………」
返事をする者はいない。
疲れた顔をしながらベレッタは転移で自室に戻った。
無人となった闘技場に、どこからか風が吹いた。