六話 宝具覚醒
デス・トーカーをなんとか立ち直らせた後、部屋を出た。
そのままベッドがある部屋に戻り、二人とも沈黙。
静寂を破ったのは、俺だった。
「今すぐにこの身に宿る力を試したい。相手になってくれ」
「本当に戦うのですか……」
「こちらが負けても失うものはない。出来るだけ勝てるように尽力するだけだ」
命は失われそうだが、そこは相手の良心に期待しよう。
「本気で闘る」
「了解しました。では戦っても被害の出ない場所に転移しましょう」
「転移?」
「こんな広い城なのですから、転移魔術が仕込んであるのですよ。先程居た部屋は罪人を捕らえておく場所ですので、転移できなかったのです」
なかったら誰だって迷うだろうな。
おっと、聞いておかないことがあるんだった。
「そうだトーカー。魔王専用の宝具を知らないか? 持って召喚されたはずなのだが」
まあ、継承されるということは秘密にしておかなければならないから嘘は仕方ないだろう。
どこかでボロを出す危険性はあるが。
「魔王専用の宝具、ですか……知りませんが」
「そうか」
無限の知識を得られる『知識の泉』。
初代の魔王が遺した『原初の記憶』。
世界最強に辿り着く事を可能にする『新たな光』。
確かに前代魔王はそう言っていた。
「そういえば、魔王様が召喚された際、指輪を嵌めておられました」
「指輪?」
「三つほどあったのですが、なぜか二つしか取れなかったのですよ」
手を広げてみると、左手の中指にあった。
なぜ今まで気付かなかったのかと思っていると、これには重さがない。
気付かなかったわけだ。
「これが宝具か」
物は試しだ、使ってみよう。
どうやって使うのかわからんが、使うと念じてみる。
「あれ?」
ダメか。
試しに魔力を流してみた。
何も起こらないと思ったのも束の間。
黒いものが頭に入ってきた。
それは邪悪で汚らわしいと本能でわかるが、それが侵入するのを止められない。
「あ」
声が出せない。
脳が働いていない。
何も聞こえない。
体がベッドに倒れ、上手く呼吸ができなくなる。
意識が沈んだ。
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召喚師は魔王となった。
その力は小さく、紙屑もまともに葬れぬような力だ。
しかし『新たな光』によって、世界を滅ぼす悪魔を討伐する。
彼は魔王でありながら、英雄としても名を馳せた。
その体は小さくとも、力は絶大。
力を正しく扱い、世界の王と知り合い、成長するであろう。
これは未来である。
この『知識の泉』が今の状況から、全ての要因を計算して導き出した未来である。
故に、其方は全てを手に入れる。
知恵も、力も、欲しいものが手に入る。
迷わず進め。
その魔王となった身で、どこまで行けるか試してみよ。
其方は苦痛を友にして生きる。
痛みを恐れるな。
それはまやかしであると断言しよう。
正しき道は、勇者が歩む。
悪の道は、魔王が歩むのだ。
その身を一時我に授けよ。
さすれば力を授けよう。
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倒れていたのは数秒。
すぐに起き上がった魔王は無表情でデス・トーカーに命令した。
「トーカー。指輪を」
「こちらに」
異空間から取り出されたのは、赤と黒の二つの指輪。
それを着けた魔王は嗤う。
指に嵌るは三種の宝具。
右手に持つのは、黒く禍々しき杖。
「摸擬戦は不要だ」
デス・トーカーは表面上は冷静を取り繕っていた。
しかし雰囲気が一変した魔王には何も言えない。
威圧感と言うべきか、王の風格を纏っているからだ。
口出しできない。させてくれない。
「今日は体を休めることに専念する」
「……了解、しました」
その夜、魔王はずっと窓の外を眺めていた。
不気味な笑みを浮かべながら。
まるで自我が無くなったように、まるで何かに意識を乗っ取られたかのように、ただただ嗤っていた。