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魔王継承  作者: FIIFII
第一章 召喚師、魔王を継ぐ
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四話 魔王、打開策を模索する

 詰んでいる。

 このプレートの上で100人しかいないというのが、まず狂っている。

 これからトーカーが俺にひれ伏す姿を見ながら魔王の自由気ままな生活を送ろうと思っていたが、そんなことしている余裕はない。

 とにかく国民がいなければ、それは王ではなくなるのだ。

 部屋でぐうたらしていれば、何が王かと責められること間違いなし。

 国民を集めないと、この姿のまま追い出される。

 いや、今すぐ逃げてもいいんだが……状況が完全に把握できたわけではない。逃げるのは早計だろう。


「トーカー、プレートから出て行った魔人たちが戻ってくる可能性はあるか?」

「魔王様が居られると知っても、恐らく戻ってはこないかと。家屋の移動にも魔力を使いますし、なにより先日出て行ったばかりです」


 となれば、元々他のプレートに住んでいた魔人たちに呼びかけてみるしかないか。

 最悪力ずくという手もある。

 まあそれは最終手段だ。

 今はとりあえず…………。


「済まない」

「どうかされましたか?」


 少しの間を置き、俺は答えた。


「何か着る物はないのか?」


 裸のまま考えていても、寒くて落ち着かない。



--------



 トーカーが異空間から服を取り出す。

 なんでも入るのかその空間は。


「こちら御召物です。着用法は……」

「大丈夫だ」

「左様でございますか。外に出ておりますので、着替え終わったら声をお掛けください」


 部屋の外に出たのを見届けると、渡された服を観察する。

 肌触りが良い桃色のパンツ。

 少しざらざらとした赤色の上着。

 明らかに子供服だ。

 サイズ的にこれしかなかったというのは理解できるが、他にマシなものはなかったのだろうか?

 仕方なしに着てみる。

 悔しいくらいにぴったりフィットだ。

 鏡で自分の姿を確認すると、正に子供。

 容姿は齢一桁くらいだな。


 そうしていると、ふと目線が下に向いた。

 杖だ。

 禍々しい装飾がされた杖が転がっている。

 前代魔王があの空間で投げつけたのと同じ物ということは、宝具は全て譲渡されているのか。

 異常事態でも起こっていれば、なかなか面白い展開になりそうだったのだが。

 そういえば最後に放出した魔力の塊はお気に召しただろうか?

 是非とも感想を頂きたいものだ。

 暴言吐かれてやり返されるかもしれないけど。


「入って良いぞ」

「失礼します」


 それにしても、こいつは毎度堅苦しい態度をとるな。

 人間であった頃には手ひどく扱われたものだが。


「良くお似合いですよ」


 そりゃあ子供服だからな。

 子供に似合わなければ、服職人が泣くだろう。


「おっとデス・トーカーさん。嘘はいけませんで」


 なんというか、話したがり屋に見えるな。このシスイという骸骨は。

 飄々としているというか、雰囲気がそんな感じだ。

 旧魔王軍幹部のデス・トーカーにそこまでの口が利けるということは、地位がそこそこ高いのだろう。


「なんだシスイ」

「あっしの宝具を忘れてもらっても困りやすよ。嘘を見抜く能力を持った『看破の嘘』を」

「どうでもいい。今は魔王様の疑問に答えることが最優先だ。召喚されたばかりにも拘わらず、この世界のことをよく把握なされているだろう。魔王としての自覚に満ち溢れておられるのだ。邪魔は許さん」

「へいへい。それじゃあジャマにならない程度にサポートにまわらせていただきやすよ」


 『看破の嘘』か。

 嘘を見抜くということは、真実までは解らないということ。

 あまり役にはたたない。

 しかし、なぜ噓の看破ではないのだろうか。

 ネーミングセンスを疑う。


「国民は居らず、魔王城に100人程度。王としての責務は到底果たせない。二人とも、この絶望的な現状を打破する方法はないか?」

「恐れながら、一つ心当たりが」

「聞かせてくれ」

「プレートに限定して『時間遡行』の魔術を使用すれば、なんとか出来るのではないでしょうか? 問題としては膨大な魔力を必要とするところですが」

「『時間遡行』……ふむ」


 魔力、魔力か。

 この身体の魔力限界値をまだ計測していなかったな。


「魔王一人の魔力で補えるか?」

「不可能です」


 即答か。

 まあ他人の魔力なら、帯びているものを見ただけでもおおざっぱだが判明できるものだ。


「魔王さま魔王さま」

「シスイ、何か手が?」

「宝具を魔力に変換すればなんとかなると思いますぜ?」


 宝具を、魔力に?

 それでは宝具を失うことになる。

 いや、この杖くらいなら別段問題ではなさそうだが……。


「あっしの宝具を溶かしても全然足りないでしょうけどね」


 カラカラと笑うシスイは無視だ。

 考え方を変えてみよう。

 今あるのはこのプレートの支配権と宝具のみ。

 『知識の泉』とかどうやって使うんだろうか? ていうかどこにあるのか確認できていないんだが。

 あの前代魔王、使い方は教えずに継承だけ済ませていったからな。

 能力は聞いているが、しかし肝心なのは使い方だ。

 ひとまずこれ以上この惨状が更に酷くなると困る。現状維持が可能かどうか。


「トーカー。このままだとこの国はどうなる」

「滅びます」

「現状維持は不可能と」


 …………やはり詰んでいる。


「もっとこう、国について詳しい奴はいないのか。約100人は今ここ魔王城に住んでいるんだろう?」

「一人居ます。ですがあいつは……」

「ベレッタの姉さんは中々外に出たがりませんからねぇ。肉体派なのに」

「ベレッタという女が詳しいのか。引きこもりというならこちらから出向くまで」


 デス・トーカーは片膝をついて、また仰々しくお辞儀をする。


「了解しました」

「魔王さまが行くってんなら、誰にも止められねぇ。ですが覚悟はしといてくだせえ、姉さんは手強いですから」


 シスイの話し方は、人間の国の路地裏にいた情報屋を彷彿とさせる。

 あいつは手強かったなぁ。元気にしてるかな?

 まあ、そんなことはどうでもいいか。

 今大事なのはベレッタという女に会うことだ。


「俺は、この国をなんとかして立て直すぞ」


 そう宣言して、腰掛けていたベッドから立ち上がる。

 杖を踏んでスッ転んだ。装飾されていた角みたいな部分を、ピンポイントで踏んだようだ。

 デス・トーカーとシスイは、笑いこそはしないが肩を震わせている。

 前代魔王めぇ……小癪な真似を…………!

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