三十一話「王たちの戦場」
「魔王が復活してからひと月経過した」
円卓に並んだ各国の王が会議を始めようとしていた。
「以前、魔王に動きはないが水面下で計画を進行していると思われる。四天王である魔人筆頭デス・トーカーやベレッタ、そしてシスイは魔王城内部に反応があるとの報告を受けた」
一人の青年が挙手する。
金髪碧眼、妖精の国の王。
「古代からの言い伝えが我が国に伝わっています。魔王は世界を統べる者、そしてその配下であるデス・トーカーは神の怒りを受けて尚生き残っている超越者である。と」
「それが、どうしたのかね」
退屈そうに、隣の王が欠伸をしながら視線を向ける。
妖精王は真剣な目で円卓を見回し、告げた。
「皆様ご存知の通り、現在この世界には1柱の創造神しかおりません。元々この世界にはプレートなどなく、大陸という名で全て繋がっていたとのこと。神殺しを為したデス・トーカーは魔王の力で復活を遂げましたが、その魔王こそが大陸をプレートに割った張本人であると」
「回りくどいな、結論から話したまえ」
一呼吸置いて、こう結論づけた。
「全ての国は魔王とその配下に手を出すことを禁じましょう。魔の王はまさしく世界を滅ぼす者、下手に刺激するのは逆効果です」
「ならばただされるがままで、指をくわえて見ていろとでもいうのか!」
「そのようなことではない。あくまで機会を伺うだけのことである」
「悠長にしている場合か!」
激昂が迸る。
「ええい、我慢ならん! 森の奥の田舎者風情がしゃしゃり出おって!魔王もデス・トーカーも我が国が滅ぼしてくれる」
「然り。このままで我慢できるほど、我らも器が大きくない」
怒気を露わにするのを尻目に、カップを揺らしながら女が口を開いた。
「まぁ、それが出来れば苦労しないんだけどね。何百年単位で放置してたわけだし」
「……………るぅたちは、静観する」
呆れたように。
「ふん、臆病者どもめ」
おもむろに、人間の王が立ち上がった。
「よしわかった、ならばこうしよう! 戦いたい国は魔王に挑み、それ以外の国は戦いを回避する。巻き込まれそうな国はプレートを避難させよ」
一呼吸おいて。
「我らが人族が生み出した最強の召喚術で、魔王すら打倒する新たな勇者を召喚してみせよう。そのために各国へ触媒を要求する。まさか……嫌とは言うまいな?」
場がシン、と静まり返る。
「ふははっ!まさか知恵のある猿風情がそのようなことをもうすとは、な。そもそも貴様ら人間が他のプレートを襲い奪い支配しているのは公然の事実よ」
「そんなことは関係なかろう。魔王を討ち滅ぼし世界に平和を齎したいだけなのだ」
「愚かなものよ……」
「む?」
あらゆる願いを叶える、願叶族。
先程までは姿も見せなかったその女王が、降臨していた。
場が静まり返る。
「これはこれは、願叶族の女王シェラザハード」
「現界するのは久しいゆえ、手短に伝えるとしよう」
スっと、小柄なその身があたりを見渡した。
見られた者はそのカリスマに抗えず、注目してしまう……
「初代魔王は元勇者である。人族が召喚した勇者こそが、我ら一族が創造した『新たな光』『知識の泉』『聖剣』『魔杖』を使用し世界を平定した。しかし、その心は異界のものであり、欲に抗えず魔に魅入られた。召喚術はそのような危険性も含めているゆえに、限られた術者しか使えぬよう制限していたはずなのだが、人族の長よ」
「勇者召喚を恐れたのか、デス・トーカーに連れ去られました。そして新たな魔王がされたということは……もう処分されていることでしょう?」
「そのような浅はかな考えで召喚士を増やし、最強の召喚術とやらで魔王を倒すつもりか。まあ、よい。好きにしてみせよ。妾はしばし眠りにつくゆえ」
他の国の王は、黙り込んでいた。
何も言えない。
人族の王が異常なのだ。
魔王すら超えると思ってしまうほどの魔力の奔流が、ありありと感じられるのだから。
「では好きにさせていただこう!これにて失礼!ガッハッハッ」
残った王たちは顔を見合わせた。