二十八話 魔王サリア
過去を聞いた俺たちは、ひとまずコップの液体を喉に流し込んだ。苦い。コーヒーか。
「魔王様が元は無から生まれた人間だったと……?」
トーカーは気付いたか。
流石にそこに気付かないほど馬鹿ではなかった。
「あっしはなんとなく気付いてましたがねぇ。なんたって死水(シスイ)なもんで、人間くさいのがよくわかってるんでさぁ」
「はい、魔王は皆、元人間です。そして私も勇者としての力がここにあります」
そう言って、マインさんは指に光を集めて見せた。
それは聖なる浄化の光で、魔の力を持つ俺たち魔人にとっては天敵となる属性の攻撃だった。
まあ俺には、宝具の『新たな光』がある。世界最強の力を手にすることが可能になるこの宝具ならば誰だろうと相手にはならない。
「皆、ということは今代魔王サリア様も元は人間であったと?召喚魔法によって呼び出されたのですが」
トーカーには話しておかなければならない、か……。
まあ遅かれ早かれ、憎まれようが大事ない。
俺が今は魔王なんだから。
「ええ、そうです。サリアも元は人間で、」
「俺から話そう、トーカー。マインさん少し話をさせてください」
「……わかったわ」
「サリア様……」
俺は息を吐いた。
少し落ち着いて、話を始めた。
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お前との出会いは、ある紛争地帯のプレートだったな。
まあ俺は人間だったけど超越者としての力を持っていたから、身の程もわきまえずお前に勝負を挑んでしまったんだが。
俺が召喚するどんな妖精も、どんな種族もお前は拳の一つで乗り越えてみせたんだから驚いたもんだったよ。
幻想種の龍をぶちのめされたとき、俺は流石に焦ったんだぜ?
まあそこからは肉弾戦だよな。
俺の杖の一撃はひらりと躱され、逆にカウンターをもらってしまう。
一方的な死合いだった。
「貴様は召喚師としてのスキルをもっているな? 魔を統一する者を呼び出す手伝いをさせてやる。光栄に思え人間」
「誰が……魔王なんかを召喚するかよ。そんな実力も実績もないぞ」
「拒否権はない、『血の檻(ブラッドサーカス)』!」
血の檻が俺を包み込んだ時、俺は必至に抵抗したが無意味だった。
まあ初代魔王に仕えていた幹部最強の男の実力は生半可じゃないよな。
そのままお得意の次元魔法で、異空間に閉じ込められたんだからたまったもんじゃなかった。
酸素は薄いし狭いし暗い。
常人なら気がくるっているところだ。
その後、俺が出されたのは召喚の塔だった。
厳しい環境に位置する、限界のプレート。世界の端までお前は歩いたんだな。
俺はお前の目を盗み、塔の罠を潜り抜けて召喚するための設備を破壊しようとしたんだ。
お前が気付くのがあと少し早かったら、俺は今ここにいないかもしれないな。
そして塔の頂上に辿り着いた、魔力を持たない魔王の器の俺は、魔王になったんだ。
――『魔王継承』、だ。