二十一話 ベルヘルタール
私は魔王城に住んでいる、しがない雑用係だ。
今日も城の清掃に勤しんでいる。
照明魔物などの世話も、私の仕事だ。
この二つだけで、日々が過ぎてゆく。
休みはないが、やりがいはある。
幼いころより夢がない私にとって、ここは良い場所なのだ。
それにしても、近頃城が騒がしい。
何事だろうかと思ってはいるのだが、聞けるような仕事仲間はいない。
「水のおじちゃんー」
そんな時、一体の幽霊が私に話しかけてきた。
幽霊は魔物の一種で、人の魂が変質したことでそれに変異する。
知能や理性がある程度失われるはずなのだが、この幼子は普通の子供だった。
この幼子、アイラに一日一回幽霊の食糧である魂が濃縮された水、魂魄水をあげていると自然と懐いてしまった。
だから水のおじちゃんなのだろう。
「なんだい、アイラちゃん」
幼子はたどたどしい口調で、私に尋ねる。
「まおーさまがねー、いなくなったんだってー」
魔王様が、いなくなった?
通りで城が騒がしいわけだ。
「今『そうさくたい』っていうのが作られてるって言ってるんだけどー、水のおじちゃんは行かないのー?」
捜索隊……か。
魔王城の住人の質が落ちているのか。馬鹿ばかりだ。
この私、地のベルヘルタールを頼らないとは。
「教えてくれてありがとう、アイラちゃん。今から捜索隊の人たちのところに行ってくるよ。お礼に私の部屋にある水を飲んでていいよ」
「わーい!」
さて、若者に年長者の威厳を見せてやらねばいかんな。
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食堂に着くと、やはり声が煩わしい。
見ない顔も多いな、新参者が7割を占めている。
「おお、ベルヘルタールさんじゃないか!」
昔は食堂の守護神などと呼ばれていたこの人だが、今では食堂のおばちゃんか。
この人は私のことを憶えていたようだ。
「皆聞いとくれ! この人が来たからには魔王様は見つかったも同然だよ!」
その声を聞いて、数秒後に場が静まり返る。
私は一歩前に出て、怒る。
「貴様らは何をしていた。捜索隊? 笑わせるな、そんなもの役割に合っていない!」
「ベ、ベルヘルタールさん?」
食堂の守護神が私を宥めるが、無視して続ける。
「シスイ、魔王様がいなくなったと判明してから何日経った」
「三日でさぁ」
「遅すぎるであろうがっ! 三日もあれば何か手を打てたはず。そんなときに何をしていた?」
「皆でお茶を飲みながら、そのことについてだべってたっすね」
こいつら、魔王の城に住まう者としての自覚はあるのか。
シスイはまだ良い。骸骨の中からカラカラと音が聞こえる。恐らくパーツ交換をする間もなく魔王様の行方を捜していたのだろう。
だが、この若者たちは何をしていた。茶を飲み会議? 笑わせる。
「そのことについてはまあいい、あとにしよう。ベレッタ、私の宝具を取ってきてくれ」
「そう言うと思って、取ってきておいたよ」
素晴らしい手際だ、しかしこの城ではこれが普通。
手際が良く、頭が回り、万能であることこそがこの城に住まう条件だというのに。
ベレッタの手から、一冊の本が渡される。
「『解放』」
本が開き、言語を解読する。
「どうやら、世界の外側にいるようだ。捜索隊とやらを出さなくてよかったな。しかしどうしたものやら……」
しかし、シスイは笑った。
何がおかしい。
「世界の外側ですか、いやあそれなら好都合」
シスイは表情のない骸骨の顔で、自慢げにこう言った。
「あっしの領域は、こっちじゃなくてあっちなんでぇ。こっちで探すよりも早い話でさぁ!」
カラカラカラと笑うシスイは、ただ骨を打ち鳴らしていた。




