十七話 2代目魔王
目を開いたデス・トーカーは叫んだ。
布団で寝ているなんて、この状況では有りえなかったからだ。
「うぎゃくりゃっえっおわぁあああ!?」
「どうしたトーカー」
視線の先には、風呂上りの魔王が立っていた。
湿った空気が、デス・トーカーの皮膚に張り付く。
「ここは……?」
柔らかい布団の上で、デス・トーカーは呟く。
辺りを確認しながら、魔王に問う。
「助けてくれたマインさんの家だ。とりあえず飯作ってくれるそうだからこっちの部屋に来い」
「は、はぁ」
状況が呑み込めないデス・トーカーは、曖昧な返事を返すしかなかった。
魔王に着いていき扉の先で見たものは、台所に立つ女一人。
どこかで見たような後姿だなと思いつつも魔王に指定された席に座り、コップに入っていた水を飲む。
臭い水だが、飲めないことはない。
何かが混ざっているのはわかった。
「して、あの方が我々を助けてくださったと?」
「ああ、名前はまだ聞いてないが色々と話したぞ」
「魔王であることも、お話になられたのですか」
「いや、まあ。反応が異常でこちらが戸惑ったけど。なんとか理解はしてもらえたと思うぞ」
「異常とは?」
「向こうの世界の存在を知っていた。世界を自在に渡れるほどの力は持っていると見ていい」
そこまでの人物は世界に五人しかいないくらいなので、警戒するデス・トーカー。
それを見て魔王は注意した。
「警戒するのは失礼だろう。助けてもらったんだぞ」
「いえ、そこまでの力を持っているかもしれないならば、魔王様が危ないです」
「命令だ、警戒するな」
「どうしてもと仰られるのであれば……」
「どうしてもだ」
「わかりました。従いましょう」
「それで良い」
会話が終わり、視線を前に向けた。
デス・トーカーは固まった。
そこには見たくない顔の人間が、エプロンを着けて鍋をテーブルに置きながら口を開いた。
「――旧魔王軍四天王、粉砕のデス・トーカー。過去に初代勇者と引き分けたほどの実力者の貴方がどうしてこの世界にいるのか。食事をしながらでいいので教えてもらえないかしら?」
「…………なぜこんなところに」
事情を知らない魔王は首を傾げていたが、マインと呼ばれていた女は席に着いてこう言った。
「改めて初めまして今代魔王様。勇者見習いの元魔王、マイン・ボナパルトです。よろしくお願いします」
勇者とデス・トーカーは口を半開きにしたまま静止していた。