十六話 ホームレス魔王
とりあえず一つだけ言わせてもらいたい。
この世界、金を持ってない奴には厳しい。
「魔王様、そろそろ何か腹に入れないと拙いです」
「我慢してどうにかなる問題ではないからな。早急に対処したいのだが……」
対処しようにも金。
何をするにも所持金が0なのだからどうしようもない。
「公園の水でその場しのぎだな。こればかりはどうにもならん」
約三日。
三日間も飲まず食わずでトーキョーからオーサカまで辿り着いた。
これで警察の厄介にはならないで済むだろう。
顔は見られていなかったはずだが、防犯カメラには映っていたのかもしれない。やけにしつこく追ってきていた。
まあ服は持ちだせたのだから問題はない。
「しかし、金がないとここまで何もできないのか。システムを改善すべきだと思うぞこの世界」
まあ、魔物が湧いてこないのだから安全安心ということだから夜も公園で眠れている。
おかげさまで汚い身なりだが、洗ってはいる。
そこまで酷いものではないはずだ。
「帰る方法を知っている人……異世界の存在を認知していて尚且つ渡る方法を知っている者に出会わなければならないというわけか」
「私たち、これからどうなってしまうんでしょうか?」
「俺は子供だから、日銭を稼ごうにも働けない。だからデス・トーカーに労働を強いるつもりだったのだが。まあ、常識がわからないのでは訝しがられて仕事なんて出来やしないか」
「知識さえ、常識さえあればなんとかなるのですが」
「今出来ること、ないな」
ホームレスでやることは無し。
魔力が日に日に衰えていくのを感じる。
あの世界でないと魔力は回復しないのだ。
「宝具を溶かして、魔力で強引に異次元へ飛ぶか」
「下手したら消滅するので駄目です」
「世界を指定さえできればなぁ」
本当にどうしようもない。
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雨降る大阪の公園で、俺たちは倒れていた。
雨に体を打たれながら、もう死ぬのかと絶望していた。
濃い人生を送ったなと、走馬灯を見ながら思って死を待つばかりの身に。
奇跡が起こった。
「貴方たち、そこで何をしているのですか」
ああ、警察が来たのか。女の声だから婦警だな。
この公園に住んで一週間だ、流石に近隣の住民が通報したのだろう。
しかし、違った。
「その指輪は……魔王!」
なぜ、そのことを知って…………
魔王の意識は、腹が鳴る音とともに沈んでいった。
ちなみに、デス・トーカーは既に虫の息であった。
「なぜこの世界に魔の王がいるのでしょうか。運命とはこういうことを指すのやもしれませんね」
傘をくるくると回してから、女と魔王たちはその場から消え去った。
まるで瞬間移動でもしたかのように、跡形もなかった。