十五話 万引き、ダメ、ゼッタイ
この世界は地球という、広大な宇宙の中にある惑星らしい。
俺がいた世界は、次元の狭間でプレートを動かしてなんとかなっている。
つまり、宇宙=次元の狭間、地球=プレート、と考えれば話は早い。
そんなことを知識の泉で学びながら、とりあえず今からどうするかをデス・トーカーと考える。
「日が暮れそうです魔王様。魔物が湧き始めたら……」
「トーカー、この世界に魔物はいない」
「そ、そうなのですか」
「知識がなければ無理もない。飲まず食わずでも生きていける『魔人』の我々は、容姿からして『ガイコクジン』と思われるそうだから、衣服さえ調達できれば下に降りて探索も出来るだろう」
「それでは目立たぬような服をお出しすれば宜しいのですね」
それもいいが……と考えてからあることに気付く。
「待て! 魔力は霧散するから――」
遅かった。
「ぐっ…………」
思わず目を閉じたが、音で分かる。
かなりの数の質量がデス・トーカーに降り注いだ。
これはいくら魔人といえど痛いだろう。
「ま、魔王様……助けてください」
滑稽なデス・トーカーの姿を見れて一安心したあと、山の中から引きずり出す。
「これが重力という概念か」
「どうかされましたか?」
「いや、なんでもない」
重力なんて発想は、向こうの世界ではなかったものだから感心してしまった。
「さて、この世界で魔術を使う方法を教える。魔力を放出できないのなら体内で発動させれば良いのだから、体内に結界魔術で魔力の壁を張り漏れなくすれば完成だ。まずは『隠身』で姿を透明にして、服を盗む。見つからなければなんら問題はない」
デス・トーカーが試しに物を空間に収納する。
「こんな感じですか……魔力の消費量が心なしか多いですね」
「魔力という概念が存在していない世界だからな。仕方あるまい」
そして落ちていた物を全て収納したあと、俺たちは『隠身』を使ってからビルとかいう建物の屋上を降りた。
『隠身』は人の視覚から逃れる魔術。つまり姿が見えていないので目立つはずがない。
仮に見つかっても、まあなんとかなるだろう。
と、思っていたが数分後。
服飾店の店内でサイレンが鳴り響いていた。
「泥棒よー! 警備員早く!」
簡単に見つかってしまった。
なぜ姿を隠していたのに特定できたのだろうかと考えるが、知識の泉がこんな時に役立った。
「防犯タグ、か。入口にあるゲートを潜るときにまんまと感知されてしまったというわけだ。トーカーの空間魔術が役立たずだというわけだな」
「魔王様! 早くお逃げください」
「わかったわかった。しかし世界が違うだけでこうまでして違うのか。面白いなここは」
そしてなんとか逃げおおせた後、俺たちはその地を遠く離れた。
ヒッチハイクに無賃乗車、金がないので仕方がない。
そうして、トーキョーという場所から遠く離れたオーサカという場所に移り、帰る方法を模索するつもりだった。