十二話 これが魔王の日常
「まおーさまー。まおーさまおきてー」
魔王の部屋に、子供特有の耳に障る声が響く。
のっそりと起きだした魔王は、それを見た感想を述べた。
「アイラ、か」
「おきたー?」
「ああ、起きたよ」
魔王の声は沈んでいた。
誰しも無理やり起こされれば不機嫌にもなろう。
「デス・トーカーはどうしている」
「かたづけ」
「昨日は大変だったものなぁ……よし、下がって良いぞ」
「わーい」
銀髪少女幽霊アイラは、翼を伸ばして宙に浮く。
そのまま壁をすり抜けて、どこかへ行った。
「今日は、ベレッタと打ち合わせでもするか。あいつ暇だったら良いんだけど」
「呼んだかい?」
「突然現れてくれるな。心臓が止まりそうになったぞ」
転移で部屋に移動してきたベレッタは、書類を机の上に置きながら報告する。
「この書類に目を通すのが本日の魔王様の仕事だと、デス・トーカーに言われてね。プレート復興頑張らなくちゃあ」
「早速一仕事を終えてきたようだな」
窓の外を見ながら魔王が呆れたように言う。
一昨日までは何もなかった場所に、数十軒の家が建ち並んでいる。
「魔王が召喚されたと、他のプレートでは大騒ぎさ」
「その魔王が子供だと知られるのは当分先だろうな」
机の上に置かれた書類の束。
優に魔王の背丈半分はあろう高さに積まれたそれを見て、魔王は溜息をついた。
「ま、張り切ってやれば成果も上がる。モチベーションってのは大事だからね」
「……そういえばベレッタ、口調変わったか?」
「いやあ、かしこまるのは苦手でね。デス・トーカーの前くらいでしか丁寧には話さないよ」
「そういうことか」
デス・トーカーは魔王軍幹部やらなんやらと、色々な称号を持っている。
それは他のプレート間との小競り合いで出撃された際に戦果をあげ、実力を認められて初代魔王から歴代の魔王に至るまでつけられた誇りだそうだ。
つまりどういことかというと、偉い。
魔王の次に偉いのだ。
「じゃ、あたいは仕事してくる。なんかあれば名前を呼んでくれ」
「わかった」
転移していくベレッタを見送り、これからが大変だと思いながら魔王は書類仕事に励んだ。
年相応の子供なら、一時間も経たぬうちに泣き言を言うだろう。
魔王は延々と、仕事をした。
時折デス・トーカーが運んでくる菓子と飲み物に感謝しつつも、書類とのにらめっこを続けた。
そして夕刻。
限界がきた。
「あ~…………つらい」
風が吹けば飛ばされそうな脱力。
このまま眠ってしまっても構わないだろうかという妥協。
積み上げられた書類はあと三割。
もう死にそうだと思われたその時。
「魔王様、こちらの仕事が終了致しましたのでお手伝いを」
「トーカー!」
魔王と、補佐の役割のデス・トーカーは書類と激しい戦闘を続け、深夜になった頃やっと全ての書類が片付いた。
「お疲れ様でした魔王様」
「ご苦労だったなトーカー。休んで良いぞ」
「それでは失礼します」
デス・トーカーはこの日、幾つもの仕事を終わらせていた。
疲労はいつもの比ではなく、すぐに自分の部屋に転移して戻る。
部屋に一人残された魔王は、唐突に何か食べたくなった。
しかし食堂の従業員はもう寝入っているだろう。
「自分で作るか」
そうして食堂に移動し、保存されていた食材で勝手に作った料理で満腹感を味わった。