十話 子供か大人か
俺は座ったまま動けなかった。
魔人しかいない空間は初めてで、硬直していた。
「うえ」
こんな声が不意に出るあたり、内心で汗をかいていた。
誰にも聞かれていないのが幸いか。
周囲の音が聞こえない。
緊張感が体に張り付き、自由に動けない。
「魔王様?」
デス・トーカー。
魔王になってからのお前はよくやってくれるよ。
俺が本当は召喚師だということに気付いてないからか?
「魔王様、乾杯です。杯をお取り下さい」
「ん、あぁ」
どうやら乾杯のようだ。
シスイが一人立ち、音頭をとっている。
「それでぁ皆様! 魔王さまを歓迎しやがれぇ!
……乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
俺も杯を掲げ、一口飲む。
甘い。
「魔王さまぁ! 顔色が悪いですがどうかされやしたか?」
「いや、人が多い場所に慣れていなくてな。気にするな」
「そうでやしたか。まぁ、楽しんでいきやしょう」
そう言ってシスイが去る。
俺はどうすればいいのかわからず座ったままおろおろしていると、デス・トーカーが助けてくれる。
「魔王様、皿をお持ちしました。どうぞ」
デス・トーカーは器用に四枚の皿を持ってきた。
どれも美味しそうな料理で彩られている。
今日は何をするのか聞くと、こんな答えが返ってきた。
「適当に飲み食いしていればいいと思います。後でビンゴ大会なるものも開かれるそうです」
「ビンゴ大会?」
「その時になれば分かるでしょう。今はお食事をお楽しみ下さい」
そう言い残して、他の席へと歩き出すデス・トーカー。
途端に不安な気持ちが浮かぶ。
だが、それもその時までだった。
「まおーさまって子供だったのかー?」
やけに高い声、子供みたいな声がしたのでそちらの方を向くと、本当に子供がいた。
銀髪で……女か?
「子供の体というだけだ」
「子供じゃん?」
「中身は大人だぞ」
「でも子供なんでしょー?」
「いや、まぁ、その。うーん」
「わかんないの?」
「どっちもだ」
「ずるーい」
そんな幼稚な会話を繰り広げた後、子供はどっかに飛んで行った。
室内で翼を広げても大丈夫なのは、子供だからだろう。
そんなどうでもいいことを考えながら、俺は皿を空けていった。